早く撮れることが、上手いということ
――監督との間に、撮り方においての線引きはありますか?
高間:
「通常は、あるシチュエーションに一緒にいたら、どこから、どのように撮ることがベターかの意見は、ほとんど一致するものですよ」
蜂須賀:
「高間さんは事前の打ち合わせでも、よく話を聞いてくれるし、(そこで理解しているからこそでしょうが)とにかく驚くのは、撮るのが早い。上手い人は早いんですよ、撮るのが。スピルバーグの映画も(撮影監督と一緒に)撮るの早いです。この作品作りでめざしたことも、クリント・イーストウッドみたいに早く撮ること、でした(笑)」
――上手く撮る人は、早く撮れる人って言っていいんですね?
高間:
「何が欲しいかっていうのを良くわかっているから。形式ばらないんです。テストを繰り返したりとか、役者を追いこんだりとか、そういうこと無しで出来て、リラックスさせて、自然な感じで撮っていくっていうことが上手い。アメリカの映画制作の現場では、早い、上手いで、好きなだけ撮りまくっていますね」
イーストウッドが、ある作品を撮影している時、トラック・アップ(カメラを載せてのレールを使った移動撮影)して映すよう指示を出し、カメラのオペレーターが、「どのタイミングで?」と尋ねたところ、「見ていたらわかる」と言ったとか。俳優の演技を見ていたら、そのタイミングがわかるでしょうよ、と言う、けだし、名言。髙間撮影監督が、そんなエピソードを披露してくれました。
高間:「だからそれって、演技してる役者のストーリーのうえでの感情っていうのを、ちゃんと撮影監督が理解して、それで自分がどういうカメラワークをしたほうが、よりストーリーテリングを助けて、観客に感情を伝えられるかっていうことを考えなくてはいけないということなんです」
監督と撮影監督は、二人三脚
なるほど、なるほど、それが出来てこそ、撮影監督なのだということなんですね。
監督と同じくらいシナリオを理解して、撮るべきヴィジュアルをイメージしていく。クリエイテイブな仕事が撮影の仕事。そして、つまりは、監督と撮影監督は二人三脚ってわけですね。あうんの呼吸でゴールをめざす、その間、もがき合いながら(笑)!?
――ところで、本作は高間さんが撮れなかった現場は、古屋幸一氏が撮影されたのだとか。撮影監修という目線での撮影の成果については、‟師匠”としては、いかがですか?
高間:
「彼は、大手広告代理店の支社でしばらくは、CFなどに関わっていたけれど、思いたって妻子を連れて上京、文化庁が支援もしていた撮影助手育成塾(JSC)の第一期生としてのスタートを切った人です。その時は最年長者でした。入塾式の時、私のことを知っていてくれて、挨拶されて、私も助手が欲しかったので、手伝ってもらうようになりました。今回なんかも、任せるね、後はよろしくって言ったままで、彼の好きなように撮って行くことを良しとしました。結果、良く撮ったなーと思いましたね。時間的制約ある中で」
――撮りあがった映像調整は師匠が手がけたとか。
高間:
「色調整とかいろいろやることは、あります。でも、撮ったシーンを観ていくと、例えば主人公が好きになった女性が、タンクローリーの爆発に巻き込まれて命を失うような現場の撮り方なんか、お金や時間の問題を乗り越えた撮り方を上手くやってるんで、頼もしいな、もう、放っておいても大丈夫だなと。撮影し出して10年くらいになるかな。これからキャリアを重ねて行くうちに、あ、高間さんって古屋さんのお知り合いだったんですね、なんて、人から言われるような存在になってくれたら、いいんじゃないかな。嬉しいです(笑)」
ピュアな無償の愛で、世界が変わったらという想い
――何とも優しい師匠のまなざし。さてさて、お話は尽きないのですが、映画は撮影次第という認識を改めて知り得たインタビュー、さらに、うかがいたかったのは、お二方がこれまでに、「負けたっ」と思わされた映画作品と言ったら?
高間:
「そんなの、しょっちゅうですよ(笑)。だから自分が撮影に関わっている時は、観ませんね(笑)。こんな凄い映画のワンシーンひとつ、撮れないかも知れないと思わされることの連続で、本当に歯がゆい思いばかり」
蜂須賀:
「だからですね、映画一本観ていても、光がどうの、俳優の演技がどうのってのを考えながら観てるもんだから、疲れるんですよ(笑)」
高間:
「あえて言うと、ネストール・アルメンドロスが撮影した『天国の日々』(1978/テレンス・マリック監督)、ゴードン・ウィリス撮影の『ゴッド・ファーザー』(1972~)の三部作、特にパート2が素晴らしい。で、蜂須賀監督がスピルバーグ作品で絶賛している、ヴィルモス・スィグモンド撮影作品の『ディア・ハンター』(1978/マイケル・チミノ監督)。好きです」
蜂須賀:
「スピルバーグはとにかく最高ですし、ティム・バートン監督も。最新作『ダンボ』(2019)の実写を作るという試みが好きですし、彼の、『シザーハンズ』(1990)のような、実写ファンタジーの中に作家性を打ち出す感覚に惹かれるんです」
――お二方それぞれの、監督の仕事、撮影監督の仕事、続けていらっしゃるモチベーションって何なんでしょう?
蜂須賀:
「とにかく僕は、今の世界、すべてが幸せなことばかりじゃないという現実がある中で、ファンタジー映画こそが世界を素敵にしていくって信じて、作品を作り続けたいんです」
高間:
「そうですね、撮影監督って仕事は、監督を助けていく仕事。監督のイメージやこだわりを映像化して、より素晴らしいものに仕上げていくことで役に立ちたい。それに徹していますね」
ということは、映画という「夢」を形にしていくのが監督と撮影監督という仕事ということですね。何とも夢のある仕事です。
今回のカップリングで生まれた『クロノス・ジョウンターの伝説』の仕上がり具合をお楽しみに。
作り手の精神溢れる、これほどピュアな無償の愛に出会えることは、他にはないでしょう。
大変興味深く、「学び」もいただけたお話をありがとうございました。
『クロノス・ジョウンターの伝説』
2019年4月19日(金)よりシネ・リーブル池袋ほか全国順次ロードショー
監督/蜂須賀健太郎
出演/下野紘、井桁弘恵ほか
撮影監修/高間賢治
撮影/古屋幸一
2019/日本/87分/カラー/シネマスコープ
配給/パル企画
©︎梶尾真治/徳間書店・映画「クロノス・ジョウンターの伝説」製作委員会