航空自衛隊出身の空母いぶき艦長の秋津を演じた西島と、
海上自衛隊出身の空母いぶき副長の新波を演じた佐々木が今作への想いを語る。
【ストーリー】
20XX年。日本の最南端沖で起こった国籍不明の軍事勢力による突然の発砲。日本の領土の一部が占領され、海保隊員が拘束された。未曾有の緊張が走る中、政府は初の航空機搭載型護衛艦「いぶき」を中心とする護衛隊群を現場に向かわせる。空がうっすらと白み始めた午前6時23分。この後日本は、かつて経験したことのない 1 日を迎えることになる―。
手に汗にぎるエンターテイメント作品として楽しめると同時に
“平和の素晴らしさ”を実感することもできる映画
『ホワイトアウト』や『沈まぬ太陽』の若松節朗がメガホンを執った今作は、20XX年という近未来の日本を舞台に、国家間に巻き起こる危機をスリリングに描いた軍事エンターテインメント作品となっている。
同期にしてライバルでもある空母いぶき艦長の秋津と副長の新波をはじめ他の自衛官達、総理大臣を中心とする政府やジャーナリスト、そして一般市民の“24時間の物語”を描いた『空母いぶき』のインタビューをお届けする。
ーー今作のオファーを受けたときの心境からお聞かせ頂けますか。
西島「まず、かわぐちかいじ先生の漫画の実写化ということで大変興奮しました。プロデューサーと若松節朗監督からは“これは平和を求める映画なんです”という言葉を頂いて、原作の素晴らしさはもちろんですが、制作陣の皆様の真摯な想いに賛同してオファーを受けさせて頂きました。(佐々木)蔵之介さんをはじめ豪華なキャストの皆さんが集結した今作に参加できることを光栄に思いましたし、クランクインしてからも良い緊迫感のなか連日撮影をして、とても充実した日々を過ごさせて頂きました」
佐々木「お話頂いたときはとても光栄に思いました。西島くんがおっしゃったように、僕もプロデューサーや監督の“平和を守る映画です”という言葉を聞いて、その意思に賛同して参加させて頂くことにしました」
ーー空母いぶきの艦長と副長という特殊な職業の役を演じるにあたり、どのような準備をされたのでしょうか?
西島「空自・海自の自衛官の方々に会ってお話を聞かせて頂いたり、実際に船や軍用機のコックピットにも乗せて頂きました。その体験は演じる上でとても参考になりました。例えば、コックピットに乗った時は“任務中は国を背負っていて、一人で重要な判断をせざるをえない瞬間がある”という重責を強く感じましたし、そんな中で、秋津は漠然と先を見ているのではなくて瞬間瞬間を判断しているということがなんとなく理解できたというか。彼の判断は全てベターじゃなくてベストなんだなと。それから、秋津は何かが起きたときに笑っていたりするのですが、海自の艦長に“笑うというのはどうなんでしょうか?”と聞いてみたら“それはあります”とハッキリおっしゃったんです。何故かというと“余裕がある”というところを周りに見せるためだと。そういった話は秋津というキャラクターに色濃く反映されていますし、色んな方のお話や考え方を参考にさせて頂きました」
佐々木「僕は劇中に出てくる“戦闘態勢につく”という言葉を、訓練ではなく実際に起きていることに対して発するという状況がいかに大変なことなのかを凄く考えました。ただ、シナリオを読んでなんとなく想像するのと、実際に現場に入って感じたものは大きく違っていたんです。海自の人が“戦闘態勢につく”なんて言葉を発するのは想像もつかないほど厳しい状況であって、映画ではそこから戦局はどんどん怪しくなっていきます。そういうことをどこまで理解しながら演じられるかというのを、新波を演じるにあたり意識するようにしていました」
ーーそれぞれの役を演じてみて、どんなことを感じましたか?
西島「戦いをなんとか回避しながら平和の道を模索する新波を、蔵之介さんがしっかりと演じてくださったおかげで秋津を思い切り演じることができたように思います。秋津は一見何を考えているかわからないですし、先を見越してもプロセスは語らず、結論だけを言う男ですから(笑)。新波や藤竜也さん演じる群司令の湧井、そしてCICのみんなが“秋津は一体何を考えているんだ?”と感じ、そう思っている彼らの表情に光が当たるうちにだんだん秋津の人物像が浮かび上がってくる。そして最後にようやく彼の本心が見えるのですが、そこが秋津というキャラクターの面白さではないかなと思います」
佐々木「登場人物の中に戦争をしたい人なんて一人もいないですし、秋津艦長も新波副長も“平和を守ること”という目的は同じなんです。ただ、方法論や行動が違うので、新波としては割と感情の振幅を激しく作ったほうが秋津と対照的に見えるのではないかなと思いながら演じていました。秋津と新波は同じ防衛大学に通った仲で、互いに切磋琢磨して海自空自それぞれの道に進み、そして空母に艦長として秋津がやってきます。だからと言ってライバル心をむき出しにして二人でやり合うのは違うと思ったので、群司令にお互いの意見を出し合って、それを群司令がどう反応するかみたいなことを見せていけたらいいのではないかと、そんな話を監督としました。お互いに尊重し合ってはいるけど、意見が全く違うところも今作の面白さだと思います」
西島「秋津は“戦わなければ守れないものがある”というポリシーなので“この人戦争したいのかな?”と誤解されそうな言動をしますが、“戦わずに守る”というポリシーの新波だけが彼を信じてくれています。だからこそ秋津は先を見通して一切説明せずに指示をすることができるんだと思います」
佐々木「ただ、もう少し説明してくれてもいいんじゃないかなとは思いますけどね(笑)。“戦闘機乗りにはわかるんだ”と結論だけ言って去って行きますから(笑)」
西島「確かにそうですね(笑)。ちなみに秋津は物語上そういうキャラクターとして描かれているだけであって、実際の空自の方々とは違うということをここで明言しておきたいと思います(笑)」
ーー今作をご覧になった感想もお聞かせ頂けますか。
西島「手に汗にぎるエンターテイメント作品として楽しめると同時に、映画館を出た後に“平和の素晴らしさ”を実感することもできる映画になっていると感じました。観てくださった方に満足して頂ける作品になったと思います」
佐々木「西島くんと同じで、エンターテイメント作品として非常に面白かったのはもちろんですが、“映画を観れる幸せ”を映画館で実感できる作品でもあります。是非大きなスクリーンで楽しんで頂きたいです」
ーーお二人が“平和っていいな”もしくは“戦争は間違っている”と、観終わったあとに改めて思った洋画があれば教えて頂けますか。
西島「いまパッと思い浮かんだのはスティーブン・スピルバーグ監督の『宇宙戦争』(05年)です。まず普通の日常から始まって、ある日突然宇宙船が街中に現れて無作為に人を攻撃するんです。ワラワラと大勢の人が逃げ惑い、ドコドコと船が沈んでいくシーンなんかはリアルで凄く怖かったのを覚えています。でも主人公を演じているのがトム・クルーズなので、絶対に死なないとわかってるからそこは安心して観れたんですけど(笑)。エンターテイメント大作なのにちゃんとゾッとする瞬間が描かれていたのが凄く印象深かったです」
ーーエンタメ作品だからこそ無作為に人が殺されることの怖さが増すのかもしれないですよね。
西島「決して何かメッセージを押し付けているわけではないのに、理不尽な怖さが鮮明に伝わってきました。そういう意味では『空母いぶき』も同じかもしれません。『宇宙戦争』も『空母いぶき』も観終わったあとに“日常の大切さ”を感じて頂けるのではないかなと思います」
佐々木「僕は3年前に『BENT』という舞台の主演を務めさせて頂いたんですけど、ナチス政権下のドイツを舞台に、同性愛者として強制収容されてしまうマックスという男を演じたんです。ユダヤ人は黄色い星、ユダヤ人より下等に扱われる存在の同性愛者はピンクのトライアングルを胸につけることを強要されていて、収容所で同性愛者は虐待を受けるのですが、ああいう状況に陥ると人はここまで酷いことをするようになってしまうのかと考えさせられました。それは肉体を使ってマックスという人物を演じたことで実感できたことでもあります。『ベント/堕ちた饗宴』(97年)というタイトルで映画版も出ているので、良かったら『空母いぶき』と共にチェックして頂けたら嬉しいです」
(インタビュアー・文/奥村百恵)
『空母いぶき』
5月24日(金)より全国ロードショー
【出演】西島秀俊 佐々木蔵之介
本田翼小倉久寛 髙嶋政宏 玉木宏 戸次重幸 市原隼人
堂珍嘉邦 片桐仁 和田正人 石田法嗣 平埜生成 土村芳
深川麻衣 山内圭哉 中井貴一 村上淳 吉田栄作
佐々木勝彦 中村育二 益岡徹 斉藤由貴 藤竜也 佐藤浩市
【原作】かわぐちかいじ「空母いぶき」(小学館「ビッグコミック」連載中・協力:惠谷治)
【企画】福井晴敏
【脚本】伊藤和典 長谷川康夫
【音楽】岩代太郎
【監督】若松節朗
【製作】『空母いぶき』フィルムパートナーズ
【配給】キノフィルムズ
©かわぐちかいじ・惠谷治・小学館/『空母いぶき』フィルムパートナーズ