注)ラストをほのめかすような表現が含まれています!ご注意ください。
新感覚"フェスティバル・スリラー"ついに解禁‼
真っ昼間なのに…牧歌的なのに…花が咲き乱れているのに…恐ろしい!
「ミッドサマー」がいよいよ公開される。この作品は、前作の「へレディタリー/継承」でホラー映画ファンのみならず、幅広い層から注目を集めたアリ・アスター監督の長編第2作。製作会社は前作と同じく、「ムーンライト」(バリー・ジェンキンス監督)や「レディ・バード」(グレタ・ガーウィグ監督)、「荒野にて」(アンドリュー・ヘイ監督)や「フロリダ・プロジェクト真夏の魔法」(ショーン・ベイカー監督)など、作家性を重視した作品を連発し、信頼のブランドを確立しているスタジオ"A24"だ。
「へレディタリー/継承」は、ほぼ全シーンが暗く冷たいトーンの映像のなかで、家族が崩壊していくオカルト・スリラーだった。とはいえ際立つのは「夜、トイレに1人で行けない」という怖さではなく、「なんだかすごいものを見たからいろんな人に見てほしい」という新鮮さ。母親アニー役を演じるトニ・コレットの絶叫顔や、彼女が髪を振り乱して天井や壁を高速で這う姿のインパクトは、今でも脳裏に鮮やかに浮かび上がるほど強烈だった。
ストーリーを単純化すると、悪魔を崇拝する祖母が、死んでもなお家族を縛り、支配し、崩壊させるというもの。悪魔崇拝というホラー映画的なギミックを使ってはいるが、作品の根幹にあるのは家や血統という柵や呪縛(がもたらす悲劇)。実はこの作品は、アスター監督の家族に起きた出来事を基にしているという。自分では選べない家族という繋がりのダークサイドをホラー映画に落とし込んだことが、多くの観客にリーチした一因だろう。
「ミッドサマー」もまた、アスターの個人的な体験を元に作られたという。アスターは、本作の脚本に着手したときに、かつての恋人との別れを振り返り、修復の見込みのない関係にしがみついていた自身を投影したキャラクターとして、主人公のダニーを作ったという。
鑑賞Point1
主人公ダニーは監督自身を投影させたキャラクター
ダニーはアメリカ人の女子大生。双極性障害の妹が両親を道連れに一家心中をはかったために、孤独と失意のどん底におり、向精神薬と睡眠薬が手放せない。恋人のクリスチャンがもはや自分のことを愛していないとわかっていながらも、依存心から別れることができず、クリスチャンもまた、同情から突き放すことができず、男友だちとの夏のスウェーデン旅行にダニーを誘ってしまう。
目的地は、クリスチャンの友人で、スウェーデンからの交換留学生・ペレの故郷。人里離れたホルガと呼ばれる共同体で生まれ育ったペレは、90年に一度の夏至祭に友人たちを招待したのだ。アメリカのパートはダニーの精神状態そのままに、「へレディタリー/継承」に通じる重苦しい映像が貫かれている。特に妹の心中シーンは、フランシス・ベーコンの絵画のように悪夢的。
ところが、スウェーデンに到着すると映像のトーンは一変する。抜けるような青空と、美しい木々が咲き乱れる草原、おそろいの白い衣服を身にまとった住人たちが織りなす白昼夢的な光景が画面を支配する。余所者に対して微笑みを絶やさず優しく接する地元民が、どう豹変するのかもホラー映画としての見どころだ。