初の演技部門受賞のブラッド・ピットは『賞を子供たちに捧げる』と家族愛を披露
いつもより2週間ほど早く2020年2月9日(現地時間)に開催となった第92回アカデミー賞授賞式。その始まりはいつものように豪華なセレブたちがレッドカーペットを行き来するいつもの光景が繰り広げられていた。
昨年同様、総合的な司会者はなく、スティーブ・マーティンとクリス・ロックという二大オスカー司会経験者のかけあいトークで笑わせて、まず最初の重要な賞である助演男優賞が発表された。
これは本命といわれた「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」のブラッド・ピットが演技部門初受賞。クェンティン・タランティーノ監督やスタントコーディネーターたちの仕事を賞賛しながら、『僕に「明日に向って撃て!」を見せてチャンスをくれた両親に感謝。この賞は僕の子供たちに贈りたい』と家族愛を盛り込んだ。
今回日本の映画ファンたちが注目したのが、オリジナル歌曲賞にノミネートされた「アナと雪の女王2」の主題歌“イントゥ・ジ・アンノウン”をイディナ・メンゼルを中心に各国のエルサの吹替えを担当した女性たちが一緒に歌い上げるコーナーで、日本の松たか子もステージでパフォーマンスを見せたのだ。日本人がアカデミー賞のステージでパフォーマンスを見せるのは初、ということだったが、松はこの大役をしっかりやり遂げていた。
監督賞をポン・ジュノ監督が受賞し、それまでの本命受賞オンパレードのムードが一変
脚本賞が「パラサイト 半地下の家族」のポン・ジュノに、脚色賞が「ジョジョ・ラビット」のタイカ・ワイティティに贈られた後、助演女優賞の発表に。こちらも本命「マリッジ・ストーリー」のローラ・ダーンに。
彼女の隣には母親で名女優のダイアン・ラッドの姿があり、ローラもスピーチで『私は幼い頃から父(ブルース・ダーン)と母(ダイアン)というヒーローがいる環境で育ちました。この賞は両親と共有したいと思います』と語った。両親ともオスカー候補になった名優だが、受賞は逃していたのだ。両親にとっては素晴らしいプレゼントになったことだろう(彼女自身も翌日が誕生日だった)。
今年は本命の受賞が続き、メイキャップ&ヘアスタイリング賞も「スキャンダル」が受賞し、カズ・ヒロ(辻一弘)の二度目のオスカー像をゲットした。今年から名称が変わった国際長編映画賞をやはり本命の「パラサイト 半地下の家族」が受賞。韓国映画初の快挙にポン監督は喜びの気持ちを述べ、彼は今日の仕事はここまでと思っていたらしい。
シガーニー・ウィーヴァー、ブリー・ラーソン、ガル・ガドットの女性ヒーロー・トリオがプレゼンターとなって作曲賞が「ジョーカー」の女性作曲家ヒドゥル・グドナドッティルに贈られた。オリジナル歌曲賞は「ロケットマン」のエルトン・ジョンが25年ぶりに受賞し、感謝のスピーチに喜びが爆発。
ここまでがほとんど本命の受賞オンパレードで、今年はサプライズもなく終わってしまうのかと思われたその時、スパイク・リー監督が監督賞を「パラサイト 半地下の家族」のポン・ジュノと読み上げ流れを変えた。ポン監督は『私の映画の先生の様だったマーティン・スコセッシ監督と一緒にここにいるだけでも光栄だったのに』と驚きを口にした。
純粋外国映画が作品賞を受賞するというオスカーの歴史が変わる結末に監督も言葉を失う?
そして主演男優賞は「ジョーカー」のホアキン・フェニックスが受賞。他の候補者へのリスペクトや環境問題への提議を主としながら、スピーチの最後に『僕が17歳の時に、亡き兄が書いた詩の一節です。“愛をもって人々を助ければ平和が訪れる”』とリヴァー・フェニックスの言葉を付け加えたところが感動的だった。
また主演女優賞も鉄板の本命「ジュディ 虹の彼方に」のレネー・ゼルウィガーが受賞。彼女が落ち込んでいた時期も信じて支えてくれた人たちに感謝を述べつつ、本作で演じたジュディ・ガーランドに対して『彼女はアカデミー賞を受賞できなかったけれど、私のヒーロー。彼女のユニークな才能が私たちを団結させてくれました』と締めくくった。
そして最後に残った作品賞を大女優ジェーン・フォンダが「パラサイト 半地下の家族」とアナウンスし、100年近いアカデミー賞の歴史に大きな変革の時が来たことを告げた。
アジア映画というだけでなく、英語圏の製作でない純粋な外国語映画が作品賞を受賞するのは初。スタッフ・キャスト全員が登壇し歓喜する中、ポン監督は四度目のスピーチはせず、プロデューサーにゆずったようだ。ともかく第92回は今後のアカデミー賞の流れを大きく変えた記念すべき年になったのだ。