女性を中心に熱狂的な支持を受け、伏線や謎をめぐる考察もヒートアップしている「ミッドサマー」。この作品の何が観客をそこまで惹きつけているのか、完全解析!(文・須永貴子/デジタル編集・スクリーン編集部)

ネタバレがありますので、未鑑賞の方はご注意ください。

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フォーク・ホラーの形をした恋愛映画

恋愛関係が終わるときの悲しみとそこからの再生を描くストーリーを、ラブストーリーではなく、監督曰く“※フォーク・ホラー”に落とし込んだ新しさも本作の魅力。そのベースとなっているものが、監督がかつて経験した失恋だという。

画像: アリ・アスター監督(写真中央)はかつての失恋体験を映画に反映させている

アリ・アスター監督(写真中央)はかつての失恋体験を映画に反映させている

監督の分身である主人公のダニーを男性ではなく女性キャラクターにして監督自身から切り離したことで、ホルガという未知の土地でダニーが再生する姿が、独りよがりな私小説とは違うスケールで描かれている。ただし、彼女はクリスチャンからは決別するが、それは個としての自立ではなく、ホルガという新たな依存先を見つけただけ。そのことが示す未来もまた戦慄を予感させる。

※フォーク=民族的な

画像: 映画に登場する絵画は今後の展開を暗示している

映画に登場する絵画は今後の展開を暗示している

共鳴する女たち

ストーリーの本筋とは関係ないかもしれないが、個人的に印象に残ったのは、悲嘆に暮れて泣き叫ぶダニーと一緒に、ホルガの女性たちがまるで合唱のようにおいおいと泣いたこと。クリスチャンが処女のマヤと性交するシーンでも、2人を取り囲む全裸の女性たちがマヤのエクスタシーに共鳴し、やはり歌うような声を上げ体を揺らす。これらの描写から、女性の他者への共感力や共鳴力の高さと、それはときに個人の自由を許さない同調圧力になることが伝わり、息苦しさを覚えた。

画像: 孤独を抱えたダニーにとってそこは自分の“居場所”となる

孤独を抱えたダニーにとってそこは自分の“居場所”となる

ダニーの場合は家族を失い孤独を抱えていたので、共鳴してくれる人たちが彼女にとって居場所となったわけだが……。女王を決めるための祭事的なコンペティションもまた、ダニーが選ばれることを前提にした出来レースだと考えると、女たちのチームワークの良さと“芝居=嘘”の上手さに震える。

ガーリーな世界観を強調したビジュアル展開

村人が着用する、それぞれに異なる刺繍やデザインが施された白い民族衣装風の服。ナイーヴアートのように素朴な筆致の壁画。村を埋め尽くす花々。記号のようなルーン文字。北欧のフォークロアを引用しながら緻密に構築されたホルガは、ガーリーともいえる雰囲気に。

その素朴で可憐な親しみやすさが、劇中のダニーたちを油断させたように、普段はホラー映画を観ない観客をも劇場に招き入れることに成功した。また、画家のヒグチユウコが作品の世界観に寄り添って描き下ろしたものと、アートディレクターの大島依提亜がデザインしたものの2種の日本限定アートポスターも話題に。同じ世界感で編集された美しい装丁の劇場プログラムも完売し、増刷された。

「ミッドサマー」
監督:アリ・アスター
出演:フローレンス・ピュー、ジャック・レイナー、ウィリアム・ジャクソン・ハーパー、ウィル・ポールター
配給:ファントム・フィルム

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