オーディションでソー役を希望したトムと、一度は落とされたクリス
MCUの世界全体を改めて見渡し、ヒーローたちの顔を思い浮かべたとき、鮮やかに浮き上がってくるのが、それぞれの濃密で一筋縄ではいかない絆だ。トニー・スタークとピーター・パーカーの師弟愛、スティーブ・ロジャースとバッキーの屈折した友情など、〝ときめく〞関係性はいくつも見出されるが、中でも強烈なインパクトを放ち、妙に切なく、さらに微笑ましいという多様な魅力で心をつかんで離さないのが、ソーとロキの兄弟関係だろう。
なぜこの関係にソソられるのか?それは、演じるクリス・ヘムズワースとトム・ヒドルストンの素顔やプライベートの関係を重ね合わせずにはいられないから!
アスガルドの第1王子で、豪快でオレ様気質なソー。隠された気品とワイルドさの絶妙なブレンドが、今ではクリス・ヘムズワースのスターとしての魅力に定着した。MCUの中でも最高のハマリ役と言える。
しかし当初、このソー役がトム・ヒドルストンになりそうだったのは、有名な話。英国の王立演劇学校を卒業し、舞台での経験も積んだトムは、ケネス・ブラナーと何度も仕事をしており、彼が監督する「マイティ・ソー」のオーディションに呼ばれる。たしかにトムは、どこか高貴なムードが漂い、高身長(188cm)で髪はブロンド。地球から遠く離れたアスガルドの王子という、人間離れした崇高な存在にふさわしく、シェイクスピア作品などで培った演技力も発揮できそう......というわけで、ソー役でオーディションに臨んだ。
しかし筋肉ムキムキというイメージのソーに対し、トムのシルエットはやや細め。食事とトレーニングで筋肉増強のコントロールまでしたところ、結果的にブラナー監督の最終決断で、ソーと敵対するロキの役を任されることに。
そのソー役に抜擢されたクリス・ヘムズワースは、2009年の『スター・トレック』でカークの父親役で注目を集めるも、しばらく大作のオーディションを受けてもダメという経験が重なり、ソー役のオーディションも早い段階で一度は落ちている。しかも一緒に受けていた弟のリアム・ヘムズワースが、最終選考でソー役をほぼ確定させた。
だが、リアムはまだソー役には若過ぎるという理由で、決定は白紙に戻ってしまう。再度オーディションが行われ、弟の無念を晴らそうと怒りの気持ちで臨んだクリス。その意気込みが伝わったのと、リアムの兄でイメージが近いという理由で、見事にソー役を射止めたのである。