強く魅かれあってしまう男女の心の機微
パターン2:不倫or三角関係
「ひまわり」は戦争が終わっても帰還しない夫を探してソ連に渡った妻の前に、美しいロシア人妻が現れるという三角関係の要素も。そんな三角関係、または不倫を描いた作品の中でも、たった4日間の恋に永遠を見出すのは、「マディソン郡の橋」(1995)のフランチェスカとキンケイド。
「マディソン郡の橋」(1995)
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド/メリル・ストリープ
専業主婦として平凡な生活を送っていたフランチェスカは、たまたま家族が外出していたある夏の昼下がり、道を訪ねてきたカメラマンのキンケイドと不倫関係に。2人で逃亡しようという彼の誘いに一旦は心が揺らぐフランチェスカだったが、やはり家族は捨てられない。しかし、彼女の中でその4日間は掛け替えのない時間だったことを描く物語は、不倫は所詮いっときの気の迷いと考える多くの男女に夢と不安を与えたことは確か。
「恋におちて」(1984)も同じく。マンハッタンの本屋で出会い、同じ電車で通ううちに、お互い家族がいる身で恋におちたモリーとフランクは、結局、一線を超えられなかったことで余計に家族を裏切ることに。心の赴くまま、嵐のような日々に身を置いた2人だったが、果たして、関係が終わるのかどうかは不明のまま。いずれにせよ生活導線は一緒なんだし。
「恋におちて」(1984)
監督:ウール・グロスバード
出演:ロバート・デニーロ/メリル・ストリープ
妻と息子に囲まれ、幸せに暮らしていたベルナールの家の隣に、偶然、昔の恋人、マチルドが越してきた時、焼けぼっくいに火が付く、つまり関係が再燃してしまうのは、タイトルもおぞましい「隣の女」(1981)。今も激しくベルナールを愛していたマチルドの「あなたと共に生きられない。あなたなしでも生きられない」という追い詰められた気持ちがもたらす衝撃のラストは、不倫ものの枠を超えている。
「隣の女」(1981)
監督:フランソワ・トリュフォー
出演:ファニー・アルダン/ジェラール・ドパルデュー
ナチス占領下のパリで、地下に潜伏しながら劇場を守ろうとするユダヤ人の夫と、レジスタンスでもある若手俳優との間で揺れ動く女優の妻の葛藤を描く「終電車」(1980)、スコットランドから自らの分身であるピアノを携え、ニュージーランドに降り立ったヒロインが、重すぎるピアノを破棄させようとした夫より、秘密のピアノ・レッスンで関係を深めた夫の友人と新たな生活へと漕ぎ出す「ピアノ・レッスン」(1993)と、このジャンルには女性主体の傑作が多い。
「終電車」(1980)
監督:フランソワ・トリュフォー
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ/ジェラール・ドパルデュー
「ピアノ・レッスン」(1993)
監督:ジェーン・カンピオン
出演:ホリー・ハンター/ハーヴェイ・カイテル
イタリアのソレントで、結婚するカップルの親同士が恋に落ちる「愛さえあれば」(2012)や、ニューヨークを舞台に妻子持ちの人類学者と恋におち、結婚したヒロインが、夫にとって前妻と暮らした方が幸せではないかと感じ、彼を元の生活に戻そうと画策する「マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ」(2015)は、より軽いタッチでどこででも始まる不倫と結婚とその後を描いた作品としてオススメだ。
「愛さえあれば」(2012)
監督:スサンネ・ビア
出演:ピアース・ブロスナン/トリーヌ・ディルホム
「マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ」(2015)
監督:レベッカ・ミラー
出演:グレタ・ガーウィグ/イーサン・ホーク
一方、「ことの終わり」(1999)は、戦時下のロンドンで不倫関係にあった人妻と、終戦後、再会した小説家が、素行調査を行った結果、彼女がいかに自分を愛していたのかを知る物語。やがて明かされる、瀕死の重傷を負った小説家の命と引き換えに不倫関係を絶つと神に誓った人妻の思いの強さ、潔癖さは、「隣の女」以上。相手の命を救うためなら、神に誓って不倫だって止められるなんて、凄すぎる。
「ことの終わり」(1999)
監督:ニール・ジョーダン
出演:レイフ・ファインズ/ジュリアン・ムーア