女性監督が女性映画を作ることに、困難はない
──先ほど、女性が監督をすることが難しく困難な時代もあったとの発言もありましたが、監督になって大変なことはありましたか?
「それが、ないんです。なぜならフランスの映画市場には、女性監督の撮った映画のニーズがありますから。女性観客が一定数いる限りは、私が作るような女性向けの映画に、競合相手はあまりいないんです。偉大で有名な男性の監督になりたいと思ったら、フランスでは今も大変ですが、私は彼らとは一線を画しています。私が作り続けたいのは女性向けの映画ですから」
──なるほど。お仕事的には困難はないと。ただ、別の意味ではいかがでしょうか?例えば結婚もし、母にもなる。そして映画監督の仕事もある。『そんな仕事、しないでくれ』なんて言うような夫もたくさんいそうです。その点、監督のご主人が協力的だったからこそ、良い作品が出来上がったんでしょうね?つまり私的な面での困難はないのでしょうか?
「そういう点では、私は夫(映画監督のパトリック・アレサンドラン)と離婚しているんですが、結婚していた時は、彼が私の仕事の契約関係など手がけてくれていました。別れてからは、私自身の人生を歩んできましたが」
──そうでしたか。お仕事に理解を示して下さっていたんですね。アレサンドランさんは、映画の仕事をしていくうえで、そういう理解ある男性を見つけないといけなそうですね。
「(アレサンドラン)今、もう彼氏がいて、とても理解してくれる人なんです」
──じゃあ、絶対に手放さないようにしないといけないですね(笑)。
「(アレサンドラン)理解してくれない人よりは、してくれる人の方が良いですが、理解がないなら別れます(笑)」
シングル・マザーとして、生きることのリアルを映画で伝えたい
──仕事ファーストということですね(笑)。
明らかに、アズエロス監督の分身と思える、女優タイス・アレサンドラン。これからの監督の強い味方になりそうです。マリー・ラフォレから繋がる「映画的DNA」を、まじかに見極めることが出来たように思います。
限られた時間の中でのインタビューと言えども、お互いに働く女性同士という感じで和気あいあいと進み、話は尽きません。
『愛しのベイビー』以前に、監督の作品には一貫して、自分らしく仕事をして結婚・離婚も体験し、シングル・マザーとなっても自由に人生を持続可能なものにしていく、強い女性の生き方が見てとれるのです。
それはまさに監督自身の生き方そのものであり、彼女の人生を映し出していく、そのために映画があるということを気づかせてくれます。
『愛しのベイビー』の中には、「シングル・マザーでも恋をして良いのだ」とか、母親というものは、食卓に並べる「パンの耳を切る」という役割の存在である、などなど、人生を歩んできて気づく、彼女のリアルな言葉や表現が描かれ、とても心に響きます。
この作品は、日本のシングル・マザーたちも励まされそうな女性映画ですね、と伝えると、映画祭上映に留まらず、日本での公開を願っている、ぜひ多くの女性に観て欲しいと語りました。
女性が今の時代に、仕事も人生も充実して輝かせて生きるということや、シングル・マザー家庭などの多様なファミリーのあり方について、機会ある毎に自身の経験を活かして、講演もしていきたいなどなど、意欲的です。
映画を、生きるための「希望」としてきたDNAが繋がっている
マリー・ラフォレの血を引く女性監督と、そのまた娘が女優として映画世界で活躍していく姿を、亡くなったラフォレも誇らしく見守っているに違いない。そう確信できた幸せなインタビューとなりました。
そして、女性が女性のために伝えたいことを映画に託して生きる、この二人にとって、生きるための「希望」が映画そのものであるということも、改めて感じさせられました。
まさに『シネマという生き方』にふさわしい、女性映画人たちとの出会いに感謝したいです。
『愛しのベイビー』(映画祭時邦題)
原題/Mon bébé
監督・脚本/リサ・アズエロス
出演/サンドリーヌ・キベルラン、タイス・アレサンドラン、ヴィクトール・ベルモント、ミカエル・ルミエール
2019年/フランス/87分/カラー
フランス映画祭2019
「フランス映画祭2019 横浜」2019年6月20日(木)~6月23日(日) 全4日間
横浜みなとみらいホール、イオンシネマみなとみらい にて開催
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