――監督とアナさんは「おかえり、ブルゴーニュへ」以来のタッグとなりました。再び一緒に仕事をされてみて、いかがでしたか?
監督:また一緒に仕事ができて嬉しかったです。映画を一緒に作ったメンバーは、バカンスを共に過ごしたグループや小さなファミリーみたいなものなので、離れると寂しいですよね。アナとは家も近いし友達だから、その後もプライベートで会っていますけど、仕事で会うのはまた違う喜びですよね。フランソワ(・シヴィル)とアナとまた働きたいと思ったのは、職業に対しての構え方、考え方が似ているからだと思います。私たちは、仕事は真面目に、そして楽しくやるものだと思っているんですが、みんながそうというわけではなく、真面目なだけで頭でっかちな人、面白いだけで軽すぎる人もいます。フランソワもアナも私も、重さと軽さを両方が必要なタイプで、だから気持ちよく一緒に働けるんです。
アナ:私たちは自分の仕事、映画への強い愛を持っていて、その愛をスクリーンに映し出そうとベストを尽くします。芸術的でクリエイティブな仕事だということを意識していますし、仕事を遂行するには真面目にやらないといけませんが、そもそも映画は人生、人々、人間について語っているので、そんなに上から物事を見る必要はなくて、一緒に笑うこと、よい雰囲気で仕事することがとても重要なんです。「セドリック・クラピッシュ監督との仕事はどう?」とよく訊かれます。映画業界の人はみんな、セドリックの作品はそういうユーモアのある、家族みたいな雰囲気で作っているという噂を聞いていて、フランス映画界のレジェンドみたいになっています(笑)。
――監督にお聞きします。「おかえり、ブルゴーニュへ」でも姉弟役を演じたアナ・ジラルドとフランソワ・シヴィルを、本作でも起用した理由を教えてください。
監督:この2人が、姉と弟以外になれるのか?という点は少し考えました。面白いポイントですね。『パリのどこかで、あなたと』は監督13作品目になりますが、私はそのうち7本にロマン・デュリスを起用していますし、私の作品には同じ俳優がよく出演しています。新しく俳優を発見するのと、同じ俳優を起用するのと、その2つにはほぼ逆の喜びがあって、両方好きなんです。
ロマン・デュリスでいえば、例えば『PARIS』という映画は、ロマンに一緒にやったことないことを何かやりたいと彼に頼んで、彼が俳優としてやったことないこと、私は彼とやったことのないことをやるのが目的でした。よく知っている俳優なら、相手の背中を押して今まで見たことのない自分を見つけてもらったり、というような形ですね。アナとも似たような感じでした。
『おかえり、ブルゴーニュへ』は田舎のブルゴーニュ地方のワイナリーの話で、アナの役は自然の中の大地に根ざした女性でした。本作では真逆で本物のパリジャン。都会の女性であり生物学の研究所で働いている研究者で、全てが正反対のキャラクターなんです。『おかえり、ブルゴーニュへ』の役柄には太陽みたいな明るさがあり、『パリのどこかで、あなたと』ではもっと鬱々としてダークなところがあります。同じ俳優を起用しつつ、その背中を押して、また違った地平、異なる領域の役を探してもらうのが、面白いんです。
――続いて、アナさんに質問です。メラニーという女性の役柄について、最初どのように感じられましたか?
アナ:かわいそうだとは思うけど、弱々しいというか……揺すって起こしてやりたくなるような。実際は、最後には彼女に「起きなきゃいけないのは、あなたよ!」とやられるんですけど(笑)。彼女の世代、若い女性の多くがこうなのではと思います。彼女のキャラクターはとてもよく描かれていて、しかも男性が書いたものなのに非常に正確です。
例えば、元彼との関係で、メラニーは相手の求めるような人間になろうとしているだけで、自分の心の声を聞こうとしなかった。そして、精神分析医と内省をしていくうちに、誰かを喜ばせる前に自分を喜ばせないといけないと気づく。それは時間のかかる難しいことで、パリみたいな大都会ではそうする時間がないように思えてしまうんです。物事が早すぎて、男女の関係も次々とあって。独り身になるのが怖くて、一人で生きていても大丈夫という人は少ないと思います。それを超えていく作業が必要なんです。その部分に一番心が動きました。メラニーの中に自分と同じものを見て、直視したくない部分でも彼女と一緒に対峙できたんです。
――レミー役のフランソワ・シヴィルさんと再共演された印象はいかがでしたか?
アナ:フランソワとはいつもとてもうまく行きます。二人ともセドリックの現場にいること自体が既にすごく嬉しいですし、フランソワは演技面でも大らかな俳優で、自由で明るくて優しくて、誰に対しても気持ちよく接する人。彼と一緒だと面白くて愉快すぎるくらい(笑)。最初に『おかえり、ブルゴーニュへ』でセドリックや、マルマイ、フランソワと出会った時、私たちはすぐに意気投合したんです。すごく気が合って愉快で、俳優としての仲間意識も生まれて。彼らと一緒の現場は本当に楽しいです。