――本作で描かれている現代のパリのリアルな姿や、都会で孤独を感じる若者の姿などは、日本の東京や世界中の都会に暮らす人が共感できる内容だと感じました。これについて、どのように思われていますか?
監督:本当ですね。この映画はいろんな国で公開されていて、アメリカ、アフリカ、アジア、どこの都市でも人々は「大都会の孤独」という同じ経験をしているのではと思います。近くにたくさん人がいるから都会なのに孤独を感じるという矛盾した表現で、これは都会に住む全ての人が共通して感じることだと思います。フランスの都市でも他の国の都市でも同様です。なぜか現代化は冷たさや人々との距離を作り出します。人々はソーシャルなものを求めてネットやSNSでの「つながり」で補完しようとします。現代ではネットのおかげでこうやって2つの国で会話ができ、近くに感じるのに、でも距離もできている。
アナ:でも、今日本だったらよかったと思うわ(笑)
監督:私も(笑)。ロックダウンになった頃、本当はうちの子たちと日本に行く予定だったんです。桜の時期だから4月かな。コロナのせいで行けなくなってしまったけど、また予定を組み直して行く予定です。
――本作では人との繋がりを求めるためにSNSを利用する姿が描かれています。お二人がSNSを利用するうえで思う良い点、悪い点をお聞かせください。
監督:皆、大好きで使っていますよね。スマートフォンやパソコンは生活の様々なことが便利になって、本当に天才的な発明だと思います。SNSを作った人々の興味深いドキュメンタリーを観たんですが、ツイッター、ティンダー、インスタグラムやフェイスブックなどの発明者たちが、自分が作ったものに恐れをなしているんです。例えば、自分が発明したフェイスブックのせいで、自殺する人が出てしまうなんて思ってもいなかったと。ティーンエイジャーが「いいね!」がつかないからと死んでしまったりするんです。SNSは、愛や人々のつながりを作り出すために発明されたはずなのに。
こういった素晴らしいツールたちが、一方で簡単に地獄のツールと化してしまうのです。怖いことですよね。アナが言ったように、私たちは何か考え直す時に来ているのではないかと思います。悪いものをフォローするのではなく、有益に使うことを知るべきだと。アメリカの大統領選挙では、ツイッターの力を使ってある意味人工的な対立が作り出されたり、大きな衝突が起こりました。なんと簡単に危険なツールとなってしまうのか……異常なことです。
アナ:監督の言う通りですね。気味の悪いアルゴリズムみたいなものがあって、私たちが自分で意図しない方向に向かわされることがあります。それを防ぐためにカルチャーはとても重要なものだと思います。本、音楽、映画など色んなものを通して、若い世代に伝えることが出来ます。そういった文化や美術館の芸術品に到るまで、インターネットを使えば本当に豊富な作品に触れることが出来ます。大人はインターネットの悪い点ばかりを見るのではなくて、そういった良い点を理解して、前面に出していくべきなのです。
――本作では、多くの人々がSNSを利用している現代において、孤独や寂しさ、ストレス、うつ病など、身近にある個人の問題をリアルに描いていると思います。また、今年はコロナウイルスが世界中で蔓延し、日本でも外出自粛により人と会えないことで孤独やストレスを感じた人が多くいます。そんなコロナ禍の今だからこそ、本作で伝えたいメッセージはありますか?
監督:コロナについて一言でいうと、終息しないといけない、ですね。私も15日前にコロナにかかってしまって、それ以来この部屋にいて。3−4日前からよくなってきたんですが、奇妙な病気です。幸いそれほどひどい症状はなくちょっと疲れるだけでしたが、もし悪化したら病院に行くつもりでした。妻や子供から自主隔離して、一人で部屋にいます。ブラジルでも日本でもフランスでもアメリカでも、世界中が同じ状況を体験しているというのは初めてのことではないかと思います。貧困や経済への全ての影響も。よくコロナ前、コロナ後、という言い方をしますが、早く「コロナ後」になってほしいですね。
アナ:同感ですね。いつどうやって終わるのか。8ヶ月前のフランスがロックダウンに入る頃、妊娠がわかったので、皆がとても優しく気遣ってくれて、一緒にロックダウンしてくれているような心強さがありました。でも新しい世界がどうなるのか。いとこが10日ほど前に出産したんですが、彼女はその2日前にコロナに感染してしまい、マスクをしていて娘を抱くこともできないんです。ひどいですよね。自分が産んだ子供にキスもできないなんて。
学校に行っている子供たちは、6歳の小さな子供でも皆マスクをしていて。子供たちにどんな影響があるのか、後々トラウマになってしまわないかと心配です。そして、これは急速に進みすぎた世界への警笛でもあるような気がしています。私たちが人間として、より沢山のことに意識を向ける、消費や世の中のペースについて、未来について考える時だと思います。
――公開を楽しみにしている日本のファンへメッセージをお願いします。
監督:この映画はパリを旅行するのにちょうどよい方法です。今、なかなか本当の旅行は大変ですからね(笑)。よくこれはロマンチックコメディかと訊かれるんですが、普通とは違ったタイプのロマンチックコメディだと思います。ロマンチックコメディというと、最初は仲の悪い2人が最後はくっついたりしますが、この映画ではラブストーリーをいつもとは全く違う方法で描いています。なので日本のみなさんには“パリが舞台”、“普通と違うラブストーリー”という点で気に入ってもらえるのではと思います。
アナ:パリの物語ですが、東京も大都会なのでこういう関係はありうると思います。「近所の人が自分の探している男性じゃないかしら?」と。
監督:もう一つ都会について、日本では外出せずインターネットばかりやっている「ひきこもり」という人々がいます。この10-15年で出てきた、ある意味、新しい問題ですよね。どうやって私たちの時代がこれを作り出したのか。なぜネットやSNSがソーシャルと真逆のこと、孤独を作り出すのか。この映画は現代社会のそういった点についても問いただしています。
STORY
パリの隣り合うアパートメントでひとり暮らしをしている30歳のメラニーとレミー。がんの免疫治療の研究者として働くメラニーは、元恋人との恋愛を引きずりながらも仕事に追われる日々を過ごしていた。一方、倉庫で働くレミーは、同僚が解雇されるも自分だけ昇進することへの罪悪感とストレスを抱えていた。その影響から、メラニーはいくら寝ても寝足りない過眠症に、レミーは眠れない不眠症に苦しむ日々が続き、2人はそれぞれセラピーに通い始める。
そんな中、友人からマッチングアプリを勧められたメラニーは、出会った男性たちと一夜限りの関係を繰り返していたが、過去の失恋で空いた心の穴を埋められずに思い悩む。かたや、元同僚への罪悪感を抱えながら孤独な日々を送るレミーは、職場で出会った女性とデートをするも、うまく距離を縮めることができない。
都会の喧騒の中で、同じ電車に乗り、同じ店で買い物をして、同じように孤独を埋められない2人は、道ですれ違うことはあっても知り合うことはない。世界で最も美しい街・パリに住む2人の人生が交わることはあるのか。そして、その出会いは2人の人生を変えるものとなるのか―
『パリのどこかで、あなたと』
Deux Moi/Someone, Somewhere
12月11日(金)全国順次公開
配給:シネメディア
監督・脚本:セドリック・クラピッシュ
脚本:サンティアゴ・アミゴレーナ
出演:アナ・ジラルド、フランソワ・シヴィル
2019年|フランス|111分
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