“願わくば、私自身はここまで極端なクライシスに遭遇しないように連日祈っているの”
エミリー・ブラント
1988年2月23日、英・ロンドン出身。『プラダを着た悪魔』(2006)で、ハリウッドに進出し、ゴールデン・グローブ賞助演女優賞や英国アカデミー賞助演女優賞にノミネートされる。『メリー・ポピンズ リターンズ』(2018)、『クワイエット・プレイス』(2018)に出演。本作で監督と夫役を務めるジョン・クラシンスキーとは2010年に結婚。次回作には『ジャングル・クルーズ』を控えている。
体を張る激しいシーンも母性本能で乗り切れる
── まさに母性本能の塊、子どもを守るために闘争心むき出しの挑戦的演技でしたね!
「私が演じるエヴリンは、聖書の中に出てくるような母親像。原始的な力強さで子どもたちを守り抜くでしょう? リミット無しで体当りして行く彼女に私もどれほど救われたことか!
物凄く体力を要求される役だったけれど、自分がもしエヴリンのような状況に置かれたら……と考えながら、忍耐と我慢の連続だったわ。クマの罠にはまったシーンでは、演じていくうちに、頭がカッカと熱くなり、無我夢中の境地になったのだから。
エヴリンは、家も夫も失い、新生児まで抱えて子どもたちを守るというだけで、私にとっては不可能な状態なのに、その上に敵と戦わなければならないなんて! 願わくば、私自身はここまで極端なクライシスに遭遇しないように連日祈っているのだから」
── シリーズ続編の本作も、スリル満点でリアルな場面展開が続きますが、撮影中に身の危険を感じたりしませんでしたか。
「車の事故の場面は怖かったわ。スタジオからは事故のシーンは危険だからノーと警告されていたのだけれど、ノーを受け入れないジョン(クラシンスキー監督)は、“絶対に安全に撮影できる”と言い張っていたわ。
特別なカメラをドイツから注文して、自動車の屋根に設置し、臨場感あふれる独特なアングルで撮影をやりのけてしまったの! 実際に身の危険こそは感じなかったけれど、撮影が終わって泥だらけの自分の体を洗っていると、全身、打ち身や切り傷ができていることに気づいたわ。自分が傷だらけなことなど全く知らずにいたのね。
演技をしている時はまったく痛みなど感じないほど子供を守るのに集中していたってこと。やっぱり母性本能って凄いわね(笑)。緊張がとけてからの、一息つく時に飲むウイスキーの美味しかったこと!
今回の撮影では、ジョンと二人でリラックスするためにウイスキーばかり飲んでいたから、“今度はマッカラン・ウイスキーのコマーシャルでも作ろうか!”なんていうアイデアさえ出てきたのよ。私はウイスキーに大きなロックアイスを転がして飲むのが一番好き。
どうしてこんなにウイスキーが好きになったかというと、昔、ショックなことがあって帰宅したら、母が祖父のウイスキーを出して“これ飲みなさい!”って渡してくれて。おそるおそるなめてみたら、あら、不思議! すっかり乱れた精神状態が落ち着いてきたの。以来、私の精神安定には欠かせない飲み物になったわけ」
女優、母、妻であるエミリーの多面性
── ミリー(ミリセント・シモンズ)が大活躍してますね。
「本当に! ジョンが続編を企画した時、ミリーの活躍が聴覚障害を持つ人々に与える勇気はこの上ないことだろうし、前作を上回るプロットを考えないと、と彼は自宅の隠れ家のケイブ(洞穴)に2週間ほど籠もって、脚本を完成してしまったのよ。
この映画は『ミリー独演』と言っても過言ではないわ。ミリーは、演技の重心がしっかりとして、驚くほどに深い考えを持って行動をとるから、私は自分の浅はかさを知らされるハメになるの。
また、彼女は宿題、予習をみっちりして、現場ではワンテイクでこなしてしまうから、撮影がスピーディーに進行するし、何から何までパーフェクトで見習うことばかりの超優秀な女優さんになったわね。私はフェイクの母親だけれどミリーに対しては、自分の娘以上にプライドを感じているのよ」
── ご自身の家族がクライシスの状態に見舞われたことはありますか?
「娘のヘイゼルが、自宅の近くでスクーターに乗っていて事故って、顎がまっぷたつに裂けてしまったの。ブルックリンに住んでいたのだけれど、ジョンはヘイゼルを抱えて“救急車を呼んでくれ!ヘルプ!だれか助けてくれ!”って走り回って、病院に運び込んでたわ。
12針も縫った大怪我だったけど、私はジョンよりはるかに落ち着いて手術の手配とか、この先の順序を考えたりしていたのよね。やっぱり家族の危機の時は、母親のほうが冷静に現実を踏まえていて強いなと思ったわね」
── ジョンと結婚して10年ですが、一日24時間、仕事や家庭と一緒に過ごしていて、ケンカなどしませんか?
「そりゃあ、小さな揉め事はあるけれど、私たちは驚くほどに好きなものが同じなの。映画も読書も、食べ物も、ドリンクも、映画を見れば同じシーンで怒ったり泣いたり。
二人とも同じ反応をして、共感をし合っているというのは、夫婦で大事なことだと思うのよ。それに私はジョンのことをとっても尊敬しているし、彼の価値観も支持して、お互いのスペースを尊重しているの。だから、私たちは完璧なまでに調和しているわ」
── ご自身の「クワイエット・プレイス」はどのような空間でしょうか?
「誰も居ない自宅で自分の部屋でのびのび、ゆっくりと読書をすること。稀にしか味わえないなのだけれど、心身のバランスのためにはとっても大事な空間だと思っているわ」
クワイエット・プレイス 破られた沈黙
2021年6月18日(金)公開
監督・脚本・製作・出演:ジョン・クラシンスキー
出演:エミリー・ブラント、ミリセント・シモンズ、ノア・ジュプ、キリアン・マーフィ、ジャイモ
ン・フンスー
配給:東和ピクチャーズ
“音を立てたら、超即死”という極限の世界を生きるエヴリン一家。最愛の夫・リーと住む家をなくしたエヴリン(エミリー・ブラント)は、産まれたばかりの赤ん坊と2人の子供を連れ、新たな避難場所を求めてノイズと危険に溢れた外の世界へ旅立つが……。突然“何か”の襲撃に遭い、廃工場に逃げ込んだ一家は、謎の生存者エメット(キリアン・マーフィ)に遭遇する。