細田守監督最新作『竜とそばかすの姫』が2021年7月16日より公開。スタジオ地図設立10周年の記念すべき年に公開される本作に込めた思い、日本国内のみならず、海外の才能が集結し作り上げた唯一無二の世界観、「スタジオ地図」のこれからについて語ってもらった。(文・タナカシノブ/写真・加藤 岳/デジタル編集・スクリーン編集部)

第74回カンヌ国際映画祭 オフィシャル・セレクション「カンヌ・プルミエール」部門 選出

生まれた時からネットがある世界。未来の子どもたちはどう生きていく?

細田守 プロフィール
1967年、富山県出身。『劇場版 デジモンアドベンチャー』(1999)で映画監督デビュー。その後、『時をかける少女』(2006)、『サマーウォーズ』(2009) を監督し、国内外で注目を集める。2011年にプロデューサー・齋藤優一郎と共に、アニメーション映画制作会社「スタジオ地図」を設立。『おおかみこどもの雨と雪』(2012) 、『バケモノの子』(2015)、『未来のミライ』(2018)で監督・脚本・原作を務める。

『未来のミライ』で第71回カンヌ国際映画祭・監督週間に選出、第91回米国アカデミー賞の長編アニメーション映画賞や第76回ゴールデングローブ賞のアニメーション映画賞にノミネート。さらに第46回アニー賞では最優秀インディペンデント・アニメーション映画賞を受賞した。

── 作品のテーマにインターネットを選んだ理由を教えてください。

『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』(2000)、『サマーウォーズ』(2009)とインターネットを題材にした映画を作りましたが、10年ごとに大きな変化があるインターネットの世界を、また新たに映画として作るべきではないかと思ったことから始まりました。

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『未来のミライ』(2018)は自分に娘が生まれたことがきっかけでしたが、今回は、生まれた時からインターネットがある世界で、自分の子どもを含めて未来を担う子どもたちがどうやって成長していくのか。僕たちとは違う世界で育っていく子どもたちを応援できるような映画を作りたいという気持ちでした。

── 『竜とそばかすの姫』(以下、『そばかす』)では、これまでの作品にはなかった「音楽」が重要なテーマになっています。

最初はミュージカル映画を作りたいと思っていました。『ドリームガールズ』(2006)や『アリー/スター誕生』(2018)のような作品を日本で作るにはどうしたらいいのか。さらに、アニメーションならどうやって作ればいいのだろうと思い、劇団四季の人たちに実際に話を聞いたりもしました。

でも、これがなかなか難しく、いろいろと試行錯誤しているうちに、歌の要素が残り、歌がメインの物語になったという経緯なんです。僕は『美女と野獣』(1991)が大好きなので、テーマを歌にしたルーツはそこにあるとも思っています。

── 歌姫「ベル」のキャラクターデザインは、ジン・キム氏が担当。ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオで、『塔の上のラプンツェル』(2010)、『アナと雪の女王』(2013)、『ベイマックス』(2014)など数多くのキャラクターデザインを手掛けたレジェンドです。

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『未来のミライ』でアカデミー賞やゴールデン・グローブ賞、アニー賞などがきっかけで、L .A .を頻繁に訪れている時期がありました。何度か顔を合わせるうちに意気投合して、“いつか一緒に作りたい”という話になって。僕は絶対これを社交辞令とは受け取らないぞと思っていました。

賞を受賞することによって、僕の存在を徐々に気にしてくれるようになったのか、“一緒にできたらいいね”が“一緒にやろう”に変化した気がします。たかが賞、されど賞だと実感しました(笑)

── 受賞だけが理由ではないと思いますよ(笑)

受賞はもちろん名誉でありがたいこと。でも、それよりも賞を通じて、今まで出会わなかった人と出会い、何かを一緒に作るきっかけになることの素晴らしさをしみじみ感じました。

自分では気づかない才能を周りが見つけてくれることがある

── 〈U〉のプロダクションデザインを担当する、ロンドン在住の新進気鋭のイギリス人建築家/デザイナー、エリック・ウォン氏をはじめ、細田監督が自ら探し出したスタッフも海外から多数参加していますよね。

作っている映画の内容が、映画を作るプロセスに似てくるような気がしました。映画のテーマが“インターネットを通して新しい才能が花開く”であれば、実際にもインターネットの世界に、この映画に必要な人がいるんじゃないかとの思いで探してみました。

画像1: 自分では気づかない才能を周りが見つけてくれることがある

今は、英語がそんなにできなくても、SNSや絵描きの方たちが登録しているサイトなどを通じて、簡単にコンタクトが取れるんです。なので、美術を目指す人、企画を目指す人に、びっくりするところからオファーが来ることがあるようです。

その中で、〈U〉の世界に近いものをデザインするエリックを見つけコンタクトをとってみたら、実はイラストレーターでもコンセプトアーティストでもなく、建築家だったというオチ。作品を見て連絡を取ったのですが、話をして初めてわかることってあるんだなと(笑)。彼の名前が本名かどうかもわからなかったけれど、作品が気に入ったという理由だけで、アクションをしてみました。

アイルランドのアニメーションスタジオ“カートゥーン・サルーン”も、いわゆるメジャー作品を作るのではなく、スタジオ地図のようなインディペンデント作品を手がける会社で、どこか通じるものがあったというのがコンタクトのきっかけでした。

── 本作のキーポイントでもある竜のデザインを手掛けた秋屋蜻一氏は、どのような経緯で参加することになったのでしょうか?

知り合いの編集者さんの紹介だったかな。今回、デザイナーだけで10〜15人くらい参加しているのですが、その多くはネットから探し出した才能です。居住地が世界各地バラバラなので、コロナ禍以前から打ち合わせはネットでやっていました。

このご時世、ポートフォリオやプロフィールを公開しないなんてあり得ない、と僕自身は考えています。有名無名関係なく、何かをやりたい人が誰かを探しています。ネットがもたらした世の中の革命のひとつだと実感しました。たとえ本名でなくても、どこに住んでいて、本職はなんであってもいい。作品がよければ、力があれば、その才能は誰かに見出され、誰かの役に立つはずです。

── 夢のある話でワクワクします。

画像2: 自分では気づかない才能を周りが見つけてくれることがある

映画をやろうと思っていない人でも、世の中には、映画向きの才能を持つ人がたくさんいる。これって、映画の世界に限ったことじゃないと思うんです。そう考えると人間の可能性はもっとすごくある気がしてきますよね。映画のテーマに通じることですが、自分は気づいていないけれど周りが気づいている才能は、絶対あると思っています。

インターネットは、特に映画のテーマになるとネガティブに捉えられがちだけど、僕自身、ずっとネットを肯定的に描いてきた世界で唯一の監督だと思っています。子どもがネットに触れたとき自由を獲得する。ネットはそういうものであってほしいという気持ちで、スタッフ選びをしていました。

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