「軽やかで、太陽の光が輝くような作品を作りたいな」と思っていたんです
―原作(「Dance on my Grave」(おれの墓で踊れ/徳間書店))のどのような点に当時惹かれましたか?
初めて原作を読んだのは17歳の時です。一番美しいなと感じたのはラブストーリーの面ですね。あの頃はゲイをテーマにした映画は暗い内容のものが多く、主人公たちが罪悪感に苛まれている作品が多かったんです。でも本作の原作はとても自然体で、これが女性同士での恋であっても男性と女性の恋としてもあり得るもので、「ジェンダー」に重きを置いていない普遍的な物語でした。そこに心を打たれたんです。
―今回映画化されたきっかけを教えてください。
いつかイギリスやアメリカの監督がこの原作を映画にすると思っていました。(原書は)英語ですし、内容はアングロサクソン的な話ですからね。観客として映画を観られたらうれしいなと思っていました。でも映画化はされませんでした。一方、私は前作『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』が政治的な意味合いもあったため、フランスで公開されるときに教会側からの圧力がかかって上映も危ぶまれるなどハードな体験をしました。なので「次作は軽やかで、太陽の光が輝くような作品を作りたいな」と思っていたときに、本作の原作を読み直しました。タイミングが良かったんです。
―10代の時にも脚本を書かれたそうですが、35年経って変更は加えましたか?
実は当時書いた脚本は無くしてしまったんです(笑)。あの時に書いたことを思い出すとラブストーリーに集中していました。不要な部分は除いて、時系列に沿って二人の恋を描くような。あの時はスキルも未熟で、パズルのように様々なものが交錯する原作みたいな構成は自分にはできないと思っていたんです。ですが、35年経った今になってみると、そんな複雑な構成でも「できる」と思えましたし、そのほうが面白いと思い、パズルのような構成を映画にも生かしました。17歳の時に作品を撮っていたら、今回のものとは全く違うものになっていたと思いますよ。
―アレックス役のフェリックス・ルフェーヴルとダヴィド役のバンジャマン・ヴォワザン、二人をキャスティングして良かったなと思ったシーンはありましたか?
「どちらかが死んだら墓の前で踊る」と約束するシーンがありますよね。あの時の撮影では、演じる二人の深い絆を感じて感動しました。
―最近はLGBTQ+を多角的に描く作品が多くなっています。映画における同性愛の表現の変化はどのように実感されていますか。
マイノリティの人たちを描く作品が増えているのはとても良いことで重要なことです。精神的に開かれた人が増えてきたということだと思います。でも世界には同性愛を禁止し、死刑を科している国もあります。本当に痛ましいことです。マイノリティの恋愛感情もきちんと生かしてあげるのが正当な社会のはずなのに、それができていない。そんな中で、マイノリティの人たちが映画の中でポジティブに描かれることは、政治的な観点からしてもとても良いことだと思います。隠さずに「自分はこういう人間なんだ」と主張できる社会が大事です。
―そうした社会の変化は監督の作品に影響を与えていますか?
いいえ(笑)。短編映画の頃からそうですが、興味があるのは「愛」なんです。
―本作は「愛」を描くラブストーリーとしてはもちろん、監督の過去作同様サスペンス要素も大きい作品だと思いました。
映画ではアレックスがなぜ逮捕されたかを分からないようサスペンス要素を加えました。「アレックスがダヴィドを殺した?」とか想像してもらえるように。予定調和ではなく、観客が頭の中で映画に参加していくこと自体が面白いと思うんです。
本作のタイトルは「Cruel Summer」でも良かったかもしれませんね
―ダンスフロアでダヴィドがアレックスにウォークマンのヘッドフォンをかけますね。こちらは『ラ・ブーム』のオマージュであり、新作では同作主演のソフィー・マルソーさんを起用されています。彼女への思い入れはありますか。
ソフィー・マルソーは、僕らの時代のアイドルで『ラ・ブーム』もみんな観ていました。(同作のロケ地でもある)アンリ=キャトル校は僕自身の母校ですし、同世代の女優として彼女に興味があり、オファーもたくさんしていました。本作のあのシーンはシナリオにも書かれていなかったのですが、機材トラブルを待っている間に思いついたんです。あの頃はウォークマンが大流行していて、好きな相手の頭にウォークマンをつけるのもすごく流行っていました。
―二人は同じ音楽を聴いていないのも印象的です。
そのとおり。同じリズムで踊っていないんです。これからの悲劇を象徴しているような、映画の核心なんです。アレックスは恋愛を理想化していますが、ダヴィドは現実的です。二人の間の違いが明確に表されています。
―もともと本作の題名は『Summer of 84』とされたかったそうですが、The Cureの「In Between Days」を使用するために変更されたそうですね。
思春期のとき、イギリスのニューウェーブの音楽が好きだったんです。「In Between Days」も大好きで。もちろんフランスの若者みんなが好きだったと思います。特に僕がこの曲を好きなのは、エネルギッシュな面もある一方でメランコリックな面もあるところ。それが10代のことを言い当てていると思ったんです。その年代が持つ勢いに加えて、失われた幼少期に対する物悲しさからあふれ出るものが同時に描かれていますからね。
―この曲以外にも「Cruel Summer」や「Sailing」などが印象的に劇中で使用されます。すべて監督の選曲ですか?
もちろんです!僕が10代のころはこうしたポップスがあふれていました。ポップスのいいところは、歌詞がどんなストーリーにもあてはまるような、ある種の凡庸さがあることです。本作のタイトルはもしかしたら「Cruel Summer」でも良かったかもしれませんね。
PROFILE
監督・脚本/フランソワ・オゾン
1967年生まれ。短編『サマードレス』(96)や 長編第一作『ホームドラマ』(98)が国際映画祭で評判を呼び、『焼け石に水』(00)でベルリン国際映画祭テディ賞を受賞。以降、ベルリン、カンヌ、ヴェネチアの世界三大映画祭の常連となる。『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』(18)は、第69回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞。本作では、第46回セザール賞で監督賞にノミネートされる。その他の監督作に、『8人の女たち』(02)、『スイミング・プール』(03)、『ぼくを葬る(おくる)』(05)、『しあわせの雨傘』(10)、『危険なプロット』(12)、『彼は秘密の女ともだち』(14)、『2重螺旋の恋人』(17)などがある。ソフィー・マルソー主演の『Tout s’est bien passe(原題)』が公開待機中。
『Summer of 85』は全国にて好評公開中
STORY
セーリングを楽しもうとヨットで一人沖に出た16歳のアレックス(フェリックス・ルフェーヴル)。突然の嵐に見舞われ転覆した彼を救助したのは、18歳のダヴィド(バンジャマン・ヴォワザン)。二人は急速に惹かれ合い、友情を超えやがて恋愛感情で結ばれる。アレックスにとってはこれが初めての恋だった。互いに深く想い合う中、ダヴィドの提案で「どちらかが先に死んだら、残された方はその墓の上で踊る」という誓いを立てる二人。しかし、ダヴィドの不慮の事故によって恋焦がれた日々は突如終わりを迎える。悲しみと絶望に暮れ、生きる希望を失ったアレックスを突き動かしたのは、ダヴィドとあの夜に交わした誓いだった─。
監督・脚本:フランソワ・オゾン
出演:フェリックス・ルフェーヴル、バンジャマン・ヴォワザン、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、メルヴィル・プポー
配給:フラッグ、クロックワークス 公式サイト:summer85.jp 【PG-12】
原題:Ete 85/英題:Summerof 85 公式Twitter/Instagram:@summer85movie
© 2020-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-France 2 CINÉMA–PLAYTIME PRODUCTION-SCOPE PICTURES