2021年10月22日(金)公開
ビルド・ア・ガール
90年代UKロックシーンを背景にしたライター志望の少女の異色サクセス・ストーリー
1990年代前半のUKロックシーンを背景に、イケてない女子が辛口音楽評論家として成功する過程を追っていく青春映画だが、主演がビーニー・フェルドスタイン(『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』)というところが一つのポイントだろう。まさにはまり役と言っていい成り切りぶりだ。
文才はあるがスクールカーストは底辺のジョアンナ。家庭も裕福ではない。そんな彼女が、ロック好きの兄の勧めで音楽情報誌のライターに応募、仕事をゲットする……田舎の高校生がうまく行き過ぎ、とも思えるが、これは原作者キャトリン・モランの実体験を基にしているというから納得できる。
髪を赤く染め、奇抜でセクシーな衣装を纏ってイケイケのジョアンナ。だが取材で会ったロック歌手ジョン・カイトに惚れ込んでしまい冷静な記事が書けず失敗してしまう。これも純朴な少女にはありがち。そこから“イイ子”をやめて辛口評論家になって売れていくのはいかにもの90年代成功物語。
さらに彼女の人生は転機を迎えるのだが、それを導くエマ・トンプソンがわずかな出番ながら印象深い。監督はTV出身だそうだが、これが劇場長編デビューとは思えない見事な仕上がりだ。
ビルド・ア・ガール
2021年10月22日(金)公開
イギリス/2019/1時間45分/ポニーキャニオン、フラッグ
監督:コーキー・ギェドロイツ
出演:ビーニー・フェルドスタイン、パディ・コンシダイン、サラ・ソルマーニ、アルフィー・アレン、クリス・オダウド、エマ・トンプソン
©MONUMENTAL PICTURES, TANGO PRODUCTIONS, LLC, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, 2019
公開中
ディナー・イン・アメリカ
ありえない組み合わせの2人が化学反応を起こす“90年代パンクシーンに捧げるラブレター”
舞台は1990年代アメリカの片田舎。過保護に育てられた孤独で臆病な少女が、唯一パンクロックを聴くことで平凡な日常から逃避している……アメリカの田舎にいかにもありそうな話だが、そこからの展開が斬新だ。その少女パティは何故か警察に追われていた男サイモンを自分の家に匿ってしまう。しかもサイモンは、パティの好きなバンドの覆面リーダーだったのだ。出来過ぎの話と言わば言え、この設定自体がパンクではないか。
パティもサイモンも、平凡な世界からは切り離された言わばはぐれ者だ。そんな二人が出会うことによって、化学反応が起こる。衝動的・暴力的だったサイモンは優しさを見せ、内気だったパティも自らを主張する術を学ぶ。この変化こそが、今の社会を成り立たせている“常識”“普通”へのアンチテーゼだ。
この映画は共に世間から受け入れられていない二人の若者、パティとサイモンのラブストーリーでもあるが、通常の恋愛映画のような甘ったるさ、ロマンチックさはカケラもない。彼らにとってお互いに対する信頼、互いに影響し合えることこそが“愛”なのだ。監督自身が語っているように、これはまさに90年代パンクシーンに捧げるラブレターだ。
この2作以外にも英国のロックバンド“ザ・スミス”の名曲が全編を彩る『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』(パルコ配給)も12月公開決定。5人の若者が自分を探し彷徨う、ザ・スミスが解散した87年夏の一夜を描く一作。かつての名バンドの名曲が蘇る青春映画は今後も続々製作されそうだ。