カバー画像:©️Masahiro Miki
台湾合作作品だから出来たこと
── すごい行動力と、素晴らしい人脈です。
編集を自分以外の人に任せるというのは初めてでしたが、監督は撮ったものを客観的には観ることが出来にくいもの。今回はそのことが良い方向に向かったようにも思います。もちろん、まかせっきりではなく、自分の意見を反映もしてもらっています。
── で、話は戻りますが、小川さんと奥原監督の今回の世界は、ちょっと飛躍してもいるかもしれませんが、私などは、『シベールの日曜日』(1962)を思い出させてくれました。
現実にも、たびたび起きている少女と大人の男の交流というものに、世間は当然のこと、目くじらを立てる。そして、男が悪くて、少女は犠牲者みたい伝えられる。男は世間から排除されるみたいなことになりますよね。
ああ、そういう点では、フランス映画もどこかで参考になっていると思います。ただ、今は時代が変わって、こういう世界はそう簡単には描けないですよ。
── そうなんです、コンプライアンス。ポルノのジャンルなら別ですが、こういうテーマは凄く、自主規制や忖度されやすくて、扱わないみたいな。そうなると、テレビとは違うのに、映画もつまらなくなってしまう。
そうそう、みんなやらないから、そこに挑んでみたい気持ちもありましたね。
やってやろうと。
── こちら、観る側ですから、無責任にも、やったー、やって下さったー、と拍手!(笑)
でも、すっごく気を遣いました。誤解されそうなセリフ削ったし。苦労はしましたよ。
── それで、そのへんのことは、宣伝段階では、ビジュアル面でもサラリと表現されていますが、どのくらい「禁断」なのかは、あまり出さない方がいいと考えているんですかね。美しく、全体像を明らかにしないワンシーンごとに、観る側は、秘密の時間を覗き見ているような演出に魅了されれていく。
うーん、まあ、そうですね。とにかく彼女、主演のルシアさんは難しいシーンを良く演じたと思いますよ。出ずっぱりに近いですから。そして、相手は永瀬正敏さん。台湾でも彼の映画はいくつも観られていて、彼の存在は知られています。
台湾映画『KANO 1931海の向こうの甲子園』(2014)の大ヒットで、決定的に認知されたみたいです。ちなみに『KANO 1931海の向こうの甲子園』(2014)の監督は今回、マリの父親役で出演しているマー・ジーシアンです。
新人女優を台湾で起用
── それにしても、彼女の落ち着きぶりは大したものです。危ういシーンを臆せず堂々と演じています。日本の女優さんだったら、ああはいかないでしょうね。
最初から、その選択肢はなかったですから。
彼女なりのプレッシャーはあったと思いますが、良くやり抜いてくれた。
── むしろ、からみだったら演じる男優、女優で緊張を分かち合えるところも、彼女の今回の演技は、女優が一人で演じるということですから、その場を支えたということですよね。何らか賞を獲ったって良いくらいの取り組み方でした。
そして、それはキャステイングに成功なさったということでしょう。
うん、うん、そうですね。
── そして、永瀬正敏さんの清潔感があるから、「官能」にはならないですよね。
そうですね。いわゆる「エロ爺い」みたいなものがない方ですから、あの役者さんとしてのストイックさが演技にも滲みます。
── 今回の男を演じるにあたり、ずいぶんとアドバイスをもらえたとのことですが?
そうですね、この役はやりがいを感じていただけるだろうと、まずは脚本を読んでいただき、会うことになりました。お会いいただくということは、役を引き受けてくれるということです。でも、お忙しい身ですから、お会いした時はもう、カメラ回っているみたいな状況でした。
それで、映画づくりに俳優と監督が仲が良くなくてはならない、ということもありませんから、(意見相違はあって当たり前とは思いますが)お持ちになった彼が演じる「翻訳家」についてのアイデアと、私のイメージに差があり、そこでだいぶ意見を交わしましたが、まずは思うように演じていただきまして。それを見せてもらい、私が修正を入れていくという感じで進めていきました。
何しろ、彼はただものではない監督の下で、若い頃から演技をしてきたキャリアがあるわけですから、俳優としての技術が凄い。
永瀬正敏の俳優技術と映画への愛
── ジム・ジャームッシュ監督の作品で演じてもいますしね。
それと、相米慎二監督、山田洋次監督の作品でも演じていますからね。
── この拙連載の前回でご紹介しました松居大悟監督『ちょっと思い出しただけ』(2021)にも、ちょっとだけ出演されていましたが、映画づくりを応援するみたいな姿勢が素晴らしい方ですね。
そう、映画愛がある方です。
── そういう永瀬さんの演技も含め、監督は具体的に、「エロス」と「芸術」の境界線について、撮りながらのご苦労はありましたか?
「エロ」と「エロス」も、「ス」が入るかどうかでえらく違いますね。
「エロ」だって立派にアートになり得ると思いますが、今回は「エロス」の方です。 腐心したというほどのことはありません。
原作がありますし、そこで描かれている世界は「エロ」とは無縁のものですから。 マリの体が不自由な状態に置かれ、そこで生まれる不自然な体の動きを撮りたいと思い、撮影に臨みました。 それによってマリの欲望や心理状態を表現したかったのです。 役者、スタッフとも共通の認識を持っていたので、その意味ではあまり戸惑うこともありませんでした。
ただ、具体的にどうするかということでは悩みましたが、そういう時は、撮影監督のユー・ジンピンと永瀬さんに助けられました。
ジンピンは写真家から映画に入っ方なので、非常にアイデアが豊富でしたし、 永瀬さんはいつも、「もっと何かあるはずだ」とやはり様々なアイデアを提案してくれました。
── そうだったんですね。
完成した作品をご覧になって、原作者の小川洋子さんはどう感じられたんでしょうか?
直接うかがえてはいないですが、恋愛というものは、本人がこれが恋愛なんだと思えば、例え他者がそれを否定したとしても、紛うことなき恋愛だと。たとえそれが一方的であっても幻想であっても、不可思議な形態であっても。この映画にはその特異な恋愛の様が見事に描かれている。というようなご意見を述べられているようでした。
── 予定時間を大幅に上回り、貴重なお話をありがとうございました。
いや、いや、こちらこそインタビューしていただいて、いろいろ想い起すことも出来て良かったですよ。
(インタビューを終えて)
北京在住のご経験もあり、日本国外にも広く目を向ける奥原監督だからであろうか、インタビューにお答えいただく姿勢が、フランクで大陸的で、初めてお目にかかった気がしない。リラックスした楽しい時間が流れた。
日本の小説を台湾で花開かせる映画作り。
『ホテルアイリス』が外国映画のような魅力を持って、登場することに成功している。だから、男と女の「禁断」のコミュニケーションの話が、「エロス」を越えて、「芸術」作品として感じることが出来るのだ。
原作者からも、「特異な恋愛の様が見事に描かれている」と評価された、この作品は女性がときめいて愉しめる映画となった。
『ホテルアイリス』
2021年2月18日(金)より、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋 ほかロードショー
監督/奥原浩志
製作/北京谷天傳媒有限公司 、長谷工作室 、紅色製作有限公司
プロデューサー/李鋭 、奥原浩志 、陳宏一 、 浅野博貴 、 山口誠 、小畑真登
原作/小川洋子(『ホテル・アイリス』幻冬舎刊)
攝影/ユー・ジンピン(余靜萍)
音響/チョウ・チェン(周震)
美術/金勝浩一
衣装・メイク/KUMI 、 花井麻衣
音楽/スワべック・コバレフスキ
編集/陳宏一 、 奥原浩志
出演/永瀬正敏 、ルシア(陸夏)、菜 葉 菜、寛 一 郎 、大島葉子、
マー・ジーシアン(馬志翔)、パオ・ジョンファン(鮑正芳)、 リー・カンション(李康生)
日本語字幕翻訳/奥原浩志
宣伝デザイン/成瀬慧(resta films)
予告編監督/遠山慎二(resta films)
配給/リアリーライクフィルムズ、長谷工作室
2021年/日本・台湾合作/100分/日本語・中国語/ビスタサイズ/5.1ch
公式Facebook/https://onl.la/AhgYCQq
公式Twitter/@hoteliris_movie