第34回東京国際映画祭2021のコンペティション部門で、みごと観客賞受賞。加えて、コンペティション部門初のスペシャルメンションを、フランスの女優、イザベル・ユペール審査委員長から贈られた、松居大悟監督最新作『ちょっと思い出しただけ』(2021)。30年以上の時を経ても、多くの映画監督やクリエイターからリスペクトされ続ける映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』(1991)と、監督のジム・ジャームッシュへのオマージュともいえる日本映画の誕生だ。このコロナ禍が続く、今の私たちに希望と勇気を与えてくれ、珠玉の宝物のようだ。多くの想いを胸にこの作品を完成させ、映画が持続可能であることを目の当たりにもさせてくれた松居大悟監督にインタビューすることが出来た。
カバー画像:©︎2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会 ©︎E-WAX

池松壮亮と尾崎世界観とのコラボ再び

2012年に『アフロ田中』でデビューし、日本映画界に頭角を現した松居大悟監督。早くも翌年には、『自分の事ばかりで情けなくなるよ』(2013)で、第26回東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門にノミネイトされ注目される。

続く、『ワンダフルワールドエンド』(2015)は、第65回ベルリン国際映画祭ノミネイトを果たし、Teddy Award を受賞。さらに、『アズミ・ハルコは行方不明」(2016)が、第29回東京国際映画祭2016コンペティション部門にノミネイトされるという、めざましい成果を発揮し続ける。

同時に演劇の劇団「ゴジゲン」の主宰でもあり、自らの演劇が中止となるも、その体験と想いを映画化したという、『アイスと雨音』(2018)を制作・公開するなど、その意欲溢れるエネルギーは測り知れない。

映画制作の折々には、『自分の事ばかりで情けなくなるよ』など、長きにわたり影響し合う存在の、ロックバンド「クリープハイプ」のミュージシャン尾崎世界観や、俳優の池松壮亮とのコラボレーションによる作品が際立つところにも注目させられる。

また、東日本大震災やコロナ禍に日本が見舞われるたび、映画がその事態を乗り越え、多くの人々を勇気づけられたらとの想いをたぎらす熱血の持ち主と聞けば、目が離せない存在だ。

そんな松居大悟監督が、長引くコロナ禍にもめげず、昨年の第34回東京国際映画祭コンペティション部門に戻ってきて、『ちょっと思い出しただけ』をノミネイト。前評判どおり、観客賞とさらなるスペシャルメンションにも輝くという快挙を見せつけてくれた。またもや、「クリープハイプ」の尾崎世界観とのコラボレーションによる作品でもある。

尾崎自身のオールタイムベストに挙げる、ジム・ジャームッシュ監督の代表作のひとつ、『ナイト・オン・ザ・プラネット』に着想を得て書き上げた新曲「ナイトオンザプラネット」に応え、松居監督がオリジナル脚本を書き上げたという。

松居監督初のオリジナルのラブストーリーが生み出された。

しかも、主演はまたまた、池松壮亮なのだから、これこそ東京国際映画祭へのリベンジ、いや、堂々の凱旋に他ならない。

画像: 池松壮亮と尾崎世界観とのコラボ再び

ダンサーをめざすも、怪我でその想いを断念、舞台照明を仕事にしている照生(てるお)とタクシードライバーの葉(よう)を、池松壮亮と伊藤沙莉が演じて、切なくも愛おしい恋の物語が展開。照生の誕生日7月26日の一日を、二人の出会いから別れまでの6年間に遡って描く演出で、ていねいに描くユニークな一本。観る者を惹き込んでいき、誰もが自分のことのように心打たれることになる。

淡々と進む映画の中にも、コロナ禍が終わらない今と、その前の自由な頃を思い起させる力強さが秘められた傑作だ。

コロナ禍のTIFFに再び挑戦しての快挙

── 改めまして昨年2021年の東京国際映画祭のコンペティション部門ノミネイト、そして、みごと、観客賞とスペシャルメンションに輝かれましたこと、おめでとうございます。

ありがとうございます。

── TIFFでのスペシャル・メンションっていうのは、初めてじゃあないですかね?

そうですね。僕もTIFFには、今回を含めて4回(スプラッシュ部門/『自分の事ばかりで情けなくなるよ』『アイスと雨音』、コンペティション部門/『アズミ・ハルコは行方不明』『ちょっと思い出しただけ』)関わって来たのですが、今までコンペティション部門で、そういう賞は初めて聞きました。

── しかも、審査委員長は、あのイザベル・ユペールさん。

嬉しいですよね。

── 今やフランスを代表する女優さんのお一人で、キャリアも長いし、たいてい、ちょっと曲者的な役柄を演じる強烈な存在感は、フランス映画界広しと言えども、右に出る方は、そうはいない。ちなみに松居監督は、彼女の作品で印象的だった映画というと?

『アスファルト』(2016)です。ユペールの役の不安げな明るさも良かったし、映画自体がとにかく素晴らしくて。

── あ、彼女が落ちぶれた女優さん役で、少年との交流で心を開いていくという、意外に優し気な女性を演じていましたね。サミュエル・ベンシェトリ監督作品で、第68回カンヌ国際映画祭に特別招待作品として上映されてもいます。ユペールさんは、多くの監督に協力的なところも素晴らしく、映画を愛していることが感じられます。

そうですね。こういう時期に東京の映画祭に来てくれるのも素晴らしいことです。

観客賞とスペシャルメンションに輝く

── 彼女からスペシャル・メンションを告げられた時、松居監督が思わず感涙にむせんでいる姿を目のあたりにして、私も我が事のように感激しました。作品を観る前から何か賞をお獲りになるだろうと思っていましたから。あの時は、どんなお気持ちでしたか?

そうですか、それは嬉しいですね。ありがとうございます。

今まで受賞から縁遠かったので期待しないようにしていて、本当に思ってもいなかったということもありましたし、まずは、スタッフたちのこととか、これまで、この映画祭に関わった過去の3回の作品のことなども思い出され、また、未だコロナ過が続く中、映画祭のために多くのボランティアさんたちが協力的に動いてくれていたことなどなど、たくさんのことと、たくさんの人のことが頭をよぎりました。光栄だなという気持ちでいっぱいになりました。

── 何しろ、コンペティション部門にノミネイトされた日本映画は、『ちょっと思い出しただけ』と『三度目の、正直』(野原位監督)だけでしたし、日本を代表して、みたいな責任も背負う形になりますものね。

やっぱり、TIFFという映画祭がきっかけで、(ベルリン映画祭とかの)海外の映画祭への道が開いたという実感もありますので、TIFFは特別な存在です。

── そうですよね。監督は多作で、多くのキャリアを積まれていますね。ユペールさんには、受賞後、改めてお会いになったりもされたんですか?

いや、スケジュールがパンパンみたいでしたし、すれ違いざま、「ありがとうございましたー」とお声かけただけでした(笑)

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