カバー画像:director photo JA ©EponineMomenceau
カンヌ国際映画祭の「常連」として
── そして、今回の作品は「多様性」を感じさせる作り方をしていますね。まず、オディアール監督以外にも、二人の女性監督が共同で脚本づくりをなさった。原作はアメリカの作家の短編作品。舞台は多様な国々の人々が暮らすパリ13区。登場人物の設定も、それを演じる俳優たちも中国系、アフリカ系のフランス人を起用しています。世界的に多様性が重要視されている今、それを意識してこの映画を作られたのでしょうか?
それはあるでしょうね。多様性を意図したと思います。
その中で、皆が知っているパリではないパリを描いてみようと思った。そのために、多様な人々が暮らすパリ13区を選び、ここの持つ、パリであってパリではないようなエキゾチックな風景、空気、私も知らないような様々な建築物のあるパリを描こうと。モノクロームを使うことは必然で、それによって客観的な視点と距離をとることが可能になったと思います。
── ところで話は変わりますが、私もカンヌ国際映画祭には何度か参りましたが、オディアール監督の作品は、毎年のようにノミネイトされていたように感じられてなりませんでした。この映画祭への想いをお聞かせいただけますか?
いえ、私の作品が毎年ノミネイトされたということはないですよね(笑)。ただ、確かに常連であるとは言えると思いますし、たくさんの賞をいただいたり、評価していただいたことは本当のことです。
カンヌ国際映画祭は、他の映画祭にはない世界観がありますね。普遍的なものがあり、特にコンペティション部門にノミネイトされるということは、もうそれだけで世界中に私の作品が知られるということになります。上映されることで世界が広がるのです。
そして、選ばれた私の作品が、あの大きな会場の満席の観客を前にして、大きな画面で、良い映像で大音響で上映されると圧倒され、2時間の作品が、まるで10分くらいに思えるような感覚に陥って、あっという間の出来事に思えたりします。
そういう何ともいえない雰囲気の会場で観ていると、とても疲れたりもしますが、この上ない喜びでもある、そんな想い出が残りますね。
見知らぬ人々の営みから広がるイメージ
── これからの監督の作品もまた、カンヌ映画祭で持続可能となることでしょう。いろいろと貴重なお話をありがとうございました。
『パリ13区』が、世界中の多くの皆さんに観ていただくことを願っております。
ありがとうございます。私も、それをを期待しています。
(インタビューを終えて)
ジャック・オディアール監督といったら、ご自身でもおっしゃっているように、カンヌ国際映画祭の「常連」監督であり、同時に「大物」という印象が強く、お目にかかるまでは緊張した。
が、オンラインをとおして、そのおしゃれでフランクで率直、まさしくパリジャンそのものという人柄が溢れ、魅了されてしまった。
新しい試みに、少年のように夢中になれる情熱の持ち主。映画作りを本当に楽しんでいる人生を歩み、まだまだ、やりたいことで一杯という持続可能性を感じさせる。
インタビューの中でも、ちょっと脇に逸れて、
「そうそう、面白いことがあったんだ。道を歩いていたら近くにいた人がスマホを見ながら慌てていた様子だったから、ひょっとして出会い系サイトにでもにアクセスしていたんだろうか?とか想像しちゃった。少し離れたところにいた人は急に走り出していて、恋人と会うのに懸命なのかなと思ったりして……。そんな風にいろいろ想いを巡らせたら、(一人で孤独な時でも)少しは楽しくなるかもね」
などと嬉しそうに発言もして下さった。
見知らぬ人々のごく当たり前の日常の営みも、監督にとっては映画作りのヒントになっていくに違いない。
「孤独」である時が、「自由」な時間であるということを教えていただいた。
限られた時間の中で、作品についてうかがいたいことを優先したインタビューになり、せっかくの出会い系サイトや恋愛についてのお話を深めることが出来ず心残りである(笑)。別の機会にうかがえることを楽しみにしたい。
『パリ13区』
2022年4月22日(金)、新宿ピカデリーほか全国公開
監督/ジャック・オディアール
脚本/ジャック・オディアール、セリーヌ・シアマ、レア・ミシウス
出演/ルーシー・チャン、マキタ・サンバ、ノエミ・メルラン、ジェニー・ベスほか
原題/Les Olympiades
日本語字幕/丸山垂穂
原作/アンバー・スウィート」「キリング・アンド・ダイング」「バカンスはハワイへ」エイドリアン・トミネ著(「キリング・アンド・ダイング」「サマーブロンド」収録:国書刊行会
提供/松竹、ロングライド
配給/ロングライド
2021年/フランス/仏語・中国語/105分/モノクロ・カラー/4K 1.85ビスタ/5.1ch/R18+
©︎ShannaBesson ©PAGE 114 - France 2 Cinéma
公式Twitter/@paris13thmovie