カンヌなどの国際映画祭に短編作品を次々と出品。高い評価を得て、その活躍ぶりが注目されている監督集団「5月」。新たなチャレンジが、初の長編映画作品となった香川照之主演『宮松と山下』である。サンセバスチャン国際映画祭NEW DIRECTERS部門に正式出品され好評を得た。東京藝術大学大学院映像研究科の「佐藤研」こと、「佐藤雅彦研究室」の教授、佐藤雅彦(カバー写真・中央)と、研究生であった関友太郎(写真・左)、平瀬謙太朗(写真・右)の三人のユニット、監督集団「5月」に、その取り組みの企てや成果のほどをうかがうことが出来た。

三人組の監督で注目され、世界中の監督と渡り合う

── なるほど。

佐藤:もっと言うと、研究室って面白くてですね、例えば「佐藤研」っていうのは佐藤雅彦(自身)とは違うんですよ。僕は中心にいないんです。僕が理想としている「佐藤雅彦」がいて、それが研究室の中心なので、それを目指す僕自身がある程度ストイックなれたりとか、頑張れたりするんです。

理想の自分を真ん中に置くんですね、「佐藤研」として。だから僕自身は、すごく緩い人間だったり、だらしない人間だったりするんですが、「佐藤研」の流れで、この二人と映画づくりをやると、三人の理想としている監督になってで、自分ができないものができる。

で、もっと具体的に言えば、身体的拡張とか能力的拡張もできるんですよ。

── そうなんですね。興味深いです。

佐藤:で、僕が例えばアイディアを出すと、関と平瀬が具現化してくれるとか、例えば平瀬もここまで持ってくれば、先生は何かそれに対して何か答えてくれるっていう、何かものすごい能力の拡大が、この「5月」では行われている感じです。一つの個性で。で、やっとこれで世界中の監督と渡りあえるかもしれないなあと。つまり三人で一人前なんですよ。

── そういうことなんですね。

佐藤:ええ。カンヌ国際映画祭はやっぱり面白いと思ってくれたのは、それまで監督の強い個性で映画が作られるものだという常識がある中、「この人たちは、なんと五人でやってるぞ」と。常識なんか全然気にもしないで、形にとらわれないでやってるぞっていうところが、やっぱり非常に新しく映ったんだと思います。本作を出品したサンセバスチャン国際映画祭でも、そればっかりですからね。

撮影現場での三人の監督の動きとは

── その点でも注目されますよね。で、三人で一つの個性で映画づくりをされるとして、そうは言っても撮影の現場ではいかがなんでしょう。

演技指導を受ける時、監督が三人いたら、俳優さん側も、ちょっと戸惑いませんか? 三人が一緒になって引導を渡したりとか、あるいは監督が順番にそれぞれ意見を言うんですか。それとも、代表して誰か一人が、指導に当たるのか? そこには教授と門下生というヒエラルキーが生れ、意見が一致するのでしょうか?

佐藤:はい、これもまた平瀬がお応えします。

一同:(笑)

平瀬:基本的に脚本も三人で書きますし、編集も三人でやります。全てのことを三人でやるっていうのが、私たちのスタイルなんですが、現場だけは違います。

役者の方々への演出は関が担当しています。カメラの横にいて、じゃあ次はこうしてとか、もう少しこうしてっていうことは、関がやってくれているんです。

── ああ、やはりそうなんですね。

平瀬:私と佐藤先生は、モニターの前に控えてまして、私は目の前に映ってるものが、目指してるものに到達できているか、もっと良くできることはないのかってことに気を配っています。

一方の先生は、このシーンの次はどんなことを撮ったら面白いかとか、ここでできるものはもっとどんなことがあるか、という少し先のことに意識がいってるかな、と思います。だから現場だけは、三人それぞれ役割分担がある。ちょっとだけ向き合ってることが違うんですが、それでも厳密にすごく担当が決まってるということではなくて、例えば先生が演出を俳優の方に伝えに行くこともありますし、逆に関が次にこういうの撮ったらどうだろうかというアイディアを、モニタ前の先生と私のもとに持ってきてくれることもあります。

ものすごく緩やかに重なり合いながら、それぞれの領域がなんとなくあるっていうような感覚です。

佐藤:「c-project」で作っていた、『どちらを』という黒木華さんが主演してくれた短編映画の現場では、まだ全員で役者の方々に演出をつけていて、今日は、誰が行くか、今回は誰と誰が行くのかって言って、黒木さんご自身も、今度はこの監督が来たわとか、今度はこの人が来たのね、とかっていう余裕を持って現場に臨んでくださって。後で聞いたら、そういうことを喜んでくれたみたいなんですけれど。彼女は演技的な、技術的にも非常に能力の高い人ですから。

── 俳優さんの力量が分かってしまいそうですね(笑)

佐藤:黒木さんには、もうそのくらい余裕がありましたね。

とはいうものの、俳優さんや女優さんには、関が対面した方が現場がスムーズじゃないかっていうことになって、市川実日子さんが主演して下さった『散髪』という短編を撮る時から今の体制にして、今回の『宮松と山下』も、そのようにやっています。

主演の香川照之も巻き込んでの撮影

── 今回の香川照之さんを起用するというアイディアは、平瀬さんのご発案で、エキストラという役柄についての発案は関さんだったとか?

:そうですね。

平瀬:いや、香川さんについては、私から言い出したかどうかは定かではなくて…。

── 香川さんなら、今回の映画はできると、ご三方で確信したとうかがっておりますが。

佐藤:そうですね。香川さんは、あれだけ著名な方だし、実力がある方だから、主演俳優さんとしては、誰からとなく出てきたような気がします。

それが凄く、誰もの頭の中にあって、現実的に香川さんが演じてくれたらこの作品はできるねって、一致した話になったと思います。

── 失礼ながらもう香川さんがいなかったら、これ完成しなかったんじゃないかっていっても良いくらいですね。

佐藤:本当にその通りです。

── 香川さんご自身が、本作については、「狂っている!」「変態性が強い」というような、最高の褒め言葉を残されていらっしゃいますね。

そういう香川さんも巻き込んでしまって、ご一緒に撮って行ったというようなところもあるのではないでしょうか?

そして、さらにうかがいたいのは、香川さんでないとあり得ないという出演のオファー前、そして実際に完成し終えてから、やっぱり香川照之さんという俳優さんは凄いというような思いになりましたでしょうか?

画像: 主演の香川照之も巻き込んでの撮影

佐藤:これはやっぱり三人がそれぞれ、一言ずつお応えしたほうが良いと思います。

この企画のエキストラっていう映画の手法にも絡むような設定を考えついた時に、いろいろな役柄が出てきます。同時に、地の役柄も出てくるから、我々もやってみないと、一つ一つ明確にはイメージできないでいるわけです。それを香川さんと一緒にやれば、それらを捕まえることができるのではという期待や確信がありましたね。

例えば記憶が戻った時に、その一言目の台詞を香川さんはどういう顔でこれ言うのかって、我々はやっぱり、演じてもらうまでは不明なんですよ。

ただ、香川さんだったらっていう、ものすごい信頼感というか、香川さんとなら一緒に見つけることができる。何か人間の奥底にあるものを、表情で表すことができるだろうなと思いました。それを一緒に悩んでくれて、一緒に見つけることができるだろうなって。

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