将来を期待されていた青年の変死体が発見された。殺人の容疑者として捕らえられたのは、両親に見捨てられながらもノースカロライナの湿地帯でたった一人、自然に抱かれて逞しく生きてきた少女だった。映画『ザリガニの鳴くところ』は動物学者ディーリア・オーエンズによる同名ミステリー小説を原作としています。「読み始めたら止まらなかった」と原作に惚れ込んだ女優リース・ウィザースプーンが映像化権を得て、自らプロデューサーを担当。主人公の少女を、英ドラマ「ふつうの人々」で注目を浴びたデイジー・エドガー=ジョーンズが演じています。メガホンを取ったオリヴィア・ニューマン監督にキャスティングの決め手や現場でのエピソードについてお話をうかがいました。(取材・文/ほりきみき)

幼いころのリース・ウィザースプーンを彷彿させるジョジョ・レジーナ

──幼いカイアを演じている子役のジョジョ・レジーナが素晴らしいですね。

ジョジョは大人の女優と同じように準備してから現場に入ってくれました。そんな子役はこれまで見たことがありません。

画像: ジョジョ・レジーナ演じる幼き日のカイア

ジョジョ・レジーナ演じる幼き日のカイア

彼女の共感力には目を見張るものがあって、役を深いところまで掴むことができます。センシティブなシーンの撮影前には静かなところに行って、自分の経験とカイアの状況を照らし合わせて、役を自分の中に取り込んでいました。父親が母親の衣服や描いた絵を燃やすシーンを撮影する日は現場に入ってきたときから気持ちができていました。お父さまにコーチングされていることもありますが、「なぜカイアのお父さんはこんなに意地悪なの?」「なぜカイアはこんなに辛い目に遭わないといけないの?」と言いながら涙目になっていくので、すぐにカメラを回しましたが、私も思わず一緒に泣いてしまいました。

もう1つ素晴らしかったのは彼女のスタミナです。かなり暑い中での撮影でしたから、疲れていたと思いますが、愚痴を言わずに頑張ってくれる。こちらが意識して休憩を取らせて、水分補給をしてもらいました。

とにかく一緒に仕事をしていて楽しいのです。プロデューサーのローレン・ノイスタッターが「あの年齢だった頃のリース・ウィザースプーンを彷彿させるね」と言っていました。どんな女優に育っていくか、今後が楽しみです。

──チェイスを演じたハリス・ディキンソン、テイトを演じたテイラー・ジョン・スミスのキャスティングの決め手についてもお聞かせください。

ハリスは数年前から注目していました。チェイスは自信がありそうに見えて、本心では自信がない男です。彼がなぜカイアに対して酷い振る舞いをするのか。彼は高校時代が頂点でそれ以上は大成せず、それにも関わらず自分に課せられている多大な期待や自分が何者であるかわからない辛さ、自分が生きたい道を選べない不満を心に抱えているからであり、ハリスならチェイスの複雑な人間性をしっかり理解して表現してくれるのではないかと思ったのです。ネットには「テイト役にどうだろう」と書かれていましたけれどね。

実はテイラーにもチェイス役のオーディションを受けてもらいました。しかし、テイラーが演じるチェイスには彼の温かい人柄がにじみ出てしまい、ちょっと違和感があったのです。それでチェイスはハリスに演じてもらいました。

画像: (右)テイラー・ジョン・スミスが演じるテイト

(右)テイラー・ジョン・スミスが演じるテイト

テイラーは現場にくると空気感に光が差すような人です。無条件でカイアを愛しているテイトをテイラーが演じると、父親から課される期待とカイアに対する愛情の間で葛藤しているのがリアルに伝わってくる。それでテイトをお願いしました。

──本作はサスペンスであり、カイアのサバイバルの物語であり、壮大なラブストーリーでもありますが、監督がいちばん伝えたかったのはどんなことなのでしょうか。

殺人事件から始まり、そこにカイアのサバイバルの物語と壮大なラブストーリーが並走するといういろんなジャンルを内包している作品です。その中で私が重視したのは、カイアが子ども時代に何を経験し、そのトラウマがその後の彼女の人生にどのように影響したか。そして何よりも、カイアが自然からさまざまなことを学び、それが彼女の人となりと本質的に関係していることを示したいと思いました。

画像: (右)ジョーンズに演技指導をするオリビア・ニューマン監督

(右)ジョーンズに演技指導をするオリビア・ニューマン監督

母親が父親から暴力を受けていましたが、女性はそういう状況のときに寄る辺がないもの。そんなときにどうやって生き抜いていけばいいのか。カイアは生い立ちの中で教訓として学んでいき、自分は犠牲者にならないように立ち向かっていくわけですが、それができたのは自然からいろいろなことを学んでいたということが重要なのです。

<PROFILE>
オリビア・ニューマン

画像3: 【インタビュー】映画『ザリガニの鳴くところ』オリヴィア・ニューマン監督が語る、デイジー・エドガー=ジョーンズの繊細な演技

アメリカ・ニュージャージー州出身の映画監督。

権威あるサンダンス脚本家・監督ラボの卒業生であり、彼女の手掛けた短編映画は、ニューヨーク映画祭、パームスプリングス国際短編映画祭、アスペン短編映画祭など数多くの映画祭で上映された。

男子ばかりのレスリング部に入部する女子高生を描いた長編デビュー映画『ファースト・マッチ』(2018)は、Netflixが出資・配給し、2018年のSXSWでプレミア上映された。同作品は、同映画祭で観客賞(最優秀長編作品賞)を獲得。高い評価を受け、本作の監督に抜擢された。

TV でも、「シカゴ・ファイア」や「シカゴ P.D.」のいくつかのエピソードを監督。ローラ・デイヴのミステリー小説が原作の TV シリーズ”The Last Thing He Told Me”(2022)の監督と共同製作を手掛けることが決まっており、ジェニファー・ガーナーらが出演する予定。
夫と 2 人の子供と共にロサンジェルスに在住。

映画『ザリガニの鳴くところ』全国の映画館で公開中!

画像: 映画『ザリガニの鳴くところ』予告1 11月18日(金) 全国の映画館で公開 www.youtube.com

映画『ザリガニの鳴くところ』予告1 11月18日(金) 全国の映画館で公開

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STORY

1969年、ノースカロライナ州の湿地帯で、裕福な家庭で育ち将来を期待されていた青年の変死体が発見された。容疑をかけられたのは、‟ザリガニが鳴く”と言われる湿地帯でたったひとり育った、無垢な少女カイア。

彼女は6歳の時に両親に見捨てられ、学校にも通わず、花、草木、魚、鳥など、湿地の自然から生きる術を学び、ひとりで生き抜いてきた。そんな彼女の世界に迷い込んだ、心優しきひとりの青年。彼との出会いをきっかけに、すべての歯車が狂い始める。

法廷で少しずつ語られていく、カイアが辿ってきた想像を絶する半生。浮かび上がる殺人の動機と、一向に見つからない決定的証拠。事件の真相に辿り着いたとき、タイトル「ザリガニの鳴くところ」に込められた本当の意味を知ることになる。

『ザリガニの鳴くところ』
全国の映画館で公開中!
監督:オリヴィア・ニューマン
脚本:ルーシー・アリバー
原作:ディーリア・オーエンズ、友廣純 訳『ザリガニの鳴くところ』(早川書房)
製作:リース・ウィザースプーン、ローレン・ノイスタッター
出演:デイジー・エドガー=ジョーンズ、テイラー・ジョン・スミス、ハリス・ディキンソン、マイケル・ハイアット、スターリング・メイサー・Jr.、デヴィッド・ストラザーン
音楽:マイケル・ダナ
オリジナル・ソング:テイラー・スウィフト「キャロライナ」
原題:Where the Crawdads Sing
2022年/125分/G/アメリカ
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
公式サイト:https://www.zarigani-movie.jp/

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