性的描写は排除し、純粋に心で人を愛する姿を描く
──サンギュとキャサリンのカップルだけでなく、6組の恋物語と1組の仕事上のパートナーの物語がバランスよく描かれていました。監督にとって初めての群像劇ですね。
ハン・ジミンさんとキム・ヨングァンさんの2人を中心としてその周辺に家族や友だちの話など、さまざまなストーリーを散りばめるような構成にしました。
私は恋愛に国境が関係ないのと同じように、年齢も関係ないと思っています。高校生から60代までのさまざまなカップルを登場させました。高校のグラウンドでサンギュとキャサリンが遊んでいるシーンがありますが、あのシーンも高校生以上に子どものようにはしゃいでいる姿を見せ、年齢とは関係なく、誰でも少年少女のようなピュアな恋愛ができると表現したかったのです。他の映画を見ると恋愛作品には大抵、性的な描写がありますが、私はそういったことを排除して、純粋に心で人を愛する姿を描くよう、気を配りながら映画を撮っています。
また、恋愛だけではなく、男同士の友情も取り上げました。マネージャーと歌手という関係性ですが、これも今だったらあり得る話だと思ったのです。
この作品はたくさんの俳優の方が出演してくれて楽しかったのですが、それぞれの方とゆっくり会話をする余裕がなかったのが残念でした。「この人とまた仕事をしたい」「この人とはどんな映画を撮ろうか」という気持ちで撮っていました。
──キャストの方々は初めての方が多かったと聞いています。
今回のキャストの中で一緒に仕事をしたことがあったのは毎週土曜日にホテルでお見合いをする整形外科医のジンホを演じたイ・ジヌクさんとホテルのドアマンのサンギュを演じたチョン・ジニョンさんの2人。他の方々は初めてお会いして撮影をしましたが、前から知っているような感じで親しみやすい方たちばかりでした。
ソジンを演じたハン・ジミンさんは姉御肌で、現場を引っ張ってくれるようなところがありました。ホテルのマネージャーという役どころでしたが、現場においてもそんな感じでした。
悪循環な人生を送るジェヨンを演じたカン・ハヌルさんとモーニングコールを担当するスヨンを演じたユナさんのカップルはお二人とも演技が上手で、お似合いのカップルだなと思って見ていました。カン・ハヌルさんが演じたキャラクターは他のキャラクターと比べると現実的といいますか、負け犬のような役でしたが、名前がジェヨンで私と同じです。それで余計に親しみを感じながら、シナリオを書いていました。
ホテルのドアマンのサンギュと初恋の人に再会したキャリアウーマンのキャサリンのカップルのうちのキャサリンを演じたイ・ヘヨンさんは見た目に強い印象を与えますし、今回、演じた役も強烈なキャラクターだったのですが、撮影初日に私の携帯に「緊張しています」とショートメッセージを送ってこられました。ご本人はそのくらい緊張されていたようですが、現場でそんな素振りはまったく見せませんでした。彼女の知らない一面を見た気がします。
新米ハウスキーパーのベク・イヨンを演じたウォン・ジナさんは本当に多芸多才で、今回、歌っている歌は元々の歌詞もありましたが、本人が脚色して自分の歌詞で歌っています。歌も歌手レベルの実力でしたし、ダンスもうまい。何をやっても上手にできる俳優さんだと思いました。
ホテルのCEOヨンジンを演じたイ・ドンウクさんは他の方よりも少し年齢が上でした。とても重厚感のある俳優さんですが、みなさんを笑わせてくれるようなところがあって親しみを感じました。
高校生のセジク役のチョ・ジュニョンさん、アヨン役のウォン・ジアンさんは今回、映画が初めてでした。普通、初めて映画に出るとなると委縮して演技が固くなってしまいがちですが、2人ともきちんと練習して現場に臨み、気後れせずに演じていました。
私が監督としてデビューしたのは1980年代でしたが、当時はセリフが同時録音ではなく、後からアフレコをすることが前提。初めて映画に出る人は演技に未熟なところを感じることが多かったのですが、最近の人は違うんだなと思いました。
意外だったのは売れっ子になった歌手のマネージャーのサンフンを演じたイ・グァンスさん。イメージとは大分違っていました。イ・グァンスさんはテレビで見るとすごく面白くて活発な感じなのですが、お会いしてみると物静かで、キャラクターのことを真摯に考えて演技に臨む方でした。今回の役どころは涙もろいマネージャーで、真面目なキャラクターだったということもありますが、現場では余計なことは一切話さないのです。あまりにも静かなので、最初に会ったときに「無口ですね」と伝えたら、「はい、無口です」と答えてくれました。そんな真面目なところも面白いですよね。