亡き妻を今でも愛し、息子から敬愛される生粋の漁師。移り気で女性に目がなく、娘を泣かせてきたリッチでインテリな美術商。そんな2人が結婚すると言い出しますが、それぞれの子どもたちは素直に受け入れられず…。映画『泣いたり笑ったり』は60代の同性愛の男性2人の結婚式を巡って引き起こる家族内の大騒動をコメディタッチで描いています。原案から関わったシモーネ・ゴーダノ監督に本作に対する思いやキャストへの演出についてうかがいました。(取材・文/ほりきみき)

自分の性格を役に取り込んで演じたジャスミン・トリンカ

──ペネロペを演じたジャスミン・トリンカは本作でイタリア・ゴールデングローブ賞最優秀女優賞に輝きましたね。

ジャスミン・トリンカはイタリアを代表する女優の1人です。「フォルトゥナータ」で第70回カンヌ国際映画祭ある視点部門の女優賞を獲得して凱旋したタイミングで撮影に入りました。今までモノクロ映画のようなシリアスな作品を中心に出演され、コメディは初めて。どのように演出したらいいのか、撮影に入る前はとても心配でした。しかし、幸いにも私のことを監督としてすごく信頼してくれたのです。台本を深くまで読み込んだ上で、一つ一つの場面を細かく確認しながら撮影に臨んでくれました。

画像: ペネロペ(ジャスミン・トリンカ)

ペネロペ(ジャスミン・トリンカ)

彼女が演じるペネロペは知的階級に属し、少し冷淡な印象を与える登場人物です。しかし、ジャスミン・トリンカ本人はペネロペとは正反対のタイプで、人間味にあふれています。そこでジャスミンの性格をペネロペに取り込み、ジャスミンらしく演じてみたらどうかと提案してみました。するとトニとカルロの2人が演じる場面で、本来はいないはずのジャスミンが入ってきてしまったのです。私が監督としてストップを掛けましたが、彼女が2人の男性を見ている視線があまりにも力強く、ペネロペの父親に対する心情が伝わってきたので、「ここはそれを入れるべきだ」と思い、ジャスミンが入っているカットを採用しました。こうしてできあがったのがペネロペです。

ジャスミンは才能にあふれ、自由に演技ができる女優です。「この作品に出演することでコメディに対する怖さが克服できた」と言っていました。そのくらい自ら役に飛び込んでくれたのです。

──カルロ役のアレッサンドロ・ガスマン、トニ役のファブリツィオ・ベンティヴォッリオとはいかがでしたか。

役者によって役に対するアプローチが違ったので、こちらからのアプローチも違っていました。
ファブリツィオ・ベンティヴォッリオはすべて事前に準備して、動きを頭に入れて、役に臨むタイプです。アドリブを入れるのがあまり好きではなく、何でも事前に相談してくれました。あるとき「相談がある」と言われて、彼がいるカフェに行ったところ、彼が髭をつけていたのです。それでトニは髭のある男性となりました。

画像: トニ(ファブリツィオ・ベンティヴォッリオ)

トニ(ファブリツィオ・ベンティヴォッリオ)

一方のアレッサンドロ・ガスマンは監督が判断すべきところでは判断を待ち、自分の判断で大丈夫だと思えば自分で考えて動く。とても寛容な役者さんでした。

画像: カルロ(アレッサンドロ・ガスマン)

カルロ(アレッサンドロ・ガスマン)

アレッサンドロはファブリツィオよりも先にキャスティングが決まっていました。アレッサンドロに本読みをしてもらったところ、トニ役でもカルロ役でもいけると思いました。ただこれまでの映画ですでにトニのような役を演じたような気がしましたし、お父さまのヴィットリオ・ガスマンもトニと同じような役をやっていたので、アレッサンドロにはカルロ役をやってもらい、ファブリツィオにトニ役をやってもらいました。

偏見や先入観を捨て、子どものように純粋な受け止め方をしてほしい

──様々なテーマを内包する作品ですが、監督がいちばん伝えたい思いはどんなことでしょうか。

ひとことで言えば、愛情はすべての障壁を超えられるのではないかということ。偏見や先入観があると相手の立場を素直に受け入れて、信じることは難しい。化粧室で自分の父親が他の男性と触れ合っているところを見たら、自分もサンドロと同じような反応をしてしまうのではないかと思います。しかし、カルロの次男ディエゴは「大丈夫だよ、トニはいい人だとわかっているよ」といっていました。偏見や先入観がなく、純粋な受け止め方をする子どもたちから、私たちは学んでいくことができるのではないかと思うのです。

オープンな国に見えるイタリアでもシビル・ユニオン法が制定されるまでには大変な時間が掛かりました。同性愛以外にも、乗り越えなければならない様々な問題が鬱積していたのです。日本ではそういった法制が整っていないと聞いています。この映画のメッセージが小さな一歩になって、自分と違う考えを持っている人に対しても、別の側面から見られるようになってもらえればうれしいです。

PROFILE
シモーネ・ゴーダノ

1977年8月31日、イタリア、ローマ生まれ。ローマのDAMSで映画を学び、2002年から短編映画の撮影を始め、FilmmasterやMercurioでは広告の仕事にも携わる。2017年に、映画監督・脚本家・プロデューサーのマッテオ・ロヴェーレとの出会いにより、『Moglie e marito(妻と夫)』で長編映画監督デビューを果たし、ナストロ・ダルジェント賞コメディ作品賞にノミネートされた。監督第2作目となる本作『泣いたり笑ったり』では、イタリア・ゴールデングローブ賞でジャスミン・トリンカが主演女優賞に輝き、ナストロ・ダルジェント賞のコメディ部門でコメディ作品賞、さらにアレッサンドロ・ガスマン、ファブリツィオ・ベンティヴォッリオが主演男優賞にノミネートされる。最新作は、ステファノ・アコルシ、ミリアム・レオーネ出演の『マリリンの瞳は黒かった』(21)。

『泣いたり笑ったり』
2022年12月2日(金) YEBISU GARDEN CINEMA、シネマート新宿、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー
監督・原案: シモーネ・ゴーダノ
脚本・原案: ジュリア・シュタイガーヴァルト
出演: アレッサンドロ・ガスマン、ジャスミン・トリンカ、ファブリツィオ・ベンティヴォッリオ、フィリッポ・シッキターノ
2019年/イタリア/イタリア語・フランス語/100分/2.35 : 1/5.1ch/字幕:山田香苗/原題:Croce e delizia/英題:An Almost Ordinary Summer
配給:ミモザフィルムズ
© 2019 Warner Bros. Entertainment Italia S.r.l. – Picomedia S.r.l. – Groenlandia S.r.l.
公式サイト:https://mimosafilms.com/naitari/

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