子ども自身の存在意義に関わる親のカミングアウト
──LGBTQを題材にした作品ですが、父と子の関係性や人の価値観についても描かれています。着想のきっかけからお聞かせください。
同性愛を取り上げるということはすぐに決まったのですが、切り口で悩みました。同性愛をありきたりな描き方にはしたくない。脚本を担当したジュリア・シュタイガーヴァルトと話し合いを重ねているうちに、「年齢を重ねた男性を主人公にしたらどうだろうか」と思いつきました。しかも60代になってから本来のセクシャリティに気がついたのではなく、残りの人生を一緒に過ごすパートナーを見つけたということを主題にする。プロットの段階では主人公を30代にする案もありましたが、そういう理由で60代にしました。
また、主人公を60代にすることで、子どもも登場させられます。カルロの息子であるサンドロとトニの娘であるペネロペは“父親同士の結婚”に反対しますが、それは同性愛に対する嫌悪感だけではなく、父親と母親との関係性、ひいては自分の存在意義にも関わってくるから。子どもたちの思いを描くことで、普遍的な視点も入りました。
トラブルは起こるものの、それを通じてサンドロは父親が感じる幸せとは何だろうかということに思いが及ぶようになります。しかしペネロペは父親に愛された記憶に乏しく、カルロに理想的な父親像を見出してしまう。物語がそこからもう一段階広がっていきます。
これまでの映画は男女のラブストーリーを描くことが多かったと思いますが、今回は男性2人にして、周りからどういう風に受け止められるかというところに重点を置きました。
──脚本に落とし込んでいくのはスムーズにできましたか?
プロットを練り上げ、原案を脚本に落とし込み、それを映像にする。それぞれの段階を振り返ってみて、ここで苦労したなと思い出す場面は幸いなことに一度もないのです。ベテラン俳優の方々に役を演じてもらうことを想像するだけでワクワクしてきますから。いわゆる制作にまつわる面倒くさいことは多々ありましたが、もう後には引けないと思って進めていきました。
ロケ地となった別荘はかなりこだわりを持って探しました。この建物は2つの母屋のほかに6つの離れがあり、食事をするところや洋服が置いてあるところなど細かく分かれています。景観が素晴らしく、特に夕陽の時間帯は息を吞むほど見事だったので、撮影が終わってもキャストが帰らずに夕陽を堪能していました。そんなことは監督人生で初めてのことです。このことが撮影をする際にとてもポジティブに作用し、魔法が掛かったかのような効果を発揮してくれたと思っています。