チャイ売りの少年が映画と出会い、やがて世界で活躍する映画監督になる。映画『エンドロールのつづき』はパン・ナリン監督自身の自伝的物語の映画化です。キャストは全員グジャラート州出身であることにこだわり、故郷であるグジャラート州でロケを敢行。監督の幼少期の思い出が詰まった故郷の独特な雰囲気や風情を見事に再現しています。2022年度アカデミー賞®国際長編映画賞インド代表に選出され、バリャドリード国際映画祭では最高賞にあたるゴールデンスパイク賞をインド映画として初めて受賞。世界中の映画祭から喝采を浴びた話題作です。本作に込めた思いをパン・ナリン監督にうかがいました。(取材・文/ほりきみき)

Film、Food、Friend、Futureと4つのFがキーワード

──サマイのお母さんが作る料理も赤や緑の色が鮮やかでした。作品に登場した料理は監督の故郷、グジャラート州ではお馴染みの料理なのでしょうか。

グジャラート州では9割近くの人が完全菜食主義なので、肉だけでなく卵や魚も食べません。食は大きな文化的な伝統でもあり、州の外、例えばデリやムンバイに行ったら、グジャラートの菜食主義の食事に出会うことはほぼないのです。海外でインド料理と呼ばれているものは北インドのものが多く、グジャラート州で食べられているものとは全く違います。食がグジャラート州の歴史の大きな部分を占めるということもあって、映画を通じて知ってほしいという気持ちもありました。

僕の生まれ育った家庭は母だけでなく父も料理が上手で、兄弟たちも食に対してすごく興味と執着がある。今でも家族に電話を掛けると「今日、何食べた?」という話題になることが多いです。手を伸ばせばハーブや野菜があって、それらを使って母が料理を作っているというのは子どもの頃の大きな記憶です。映画に出てくるキッチンは母のキッチンをイメージして作りました。

サマイは母親の作ったお弁当と交換で、映画をタダで見せてもらっていますが、それは僕自身の経験です。物語のポイントの1つで、いかに食から友情が生まれるかということのメタファーでもあるのです。

映画も食もいろんな材料が1つになって作られているということも伝えたい思いでした。この企画は4つのFがキーワードになっています。フィルム(Film)のFと食べ物(Food)のF、友人(Friend)のF、そして未来(Future)のFです。

画像1: Film、Food、Friend、Futureと4つのFがキーワード

──リュミエール兄弟、スタンリー・キューブリックなどの巨匠たちをさまざまな色で表現されていましたが、ご自身を色で表現するとこの作品のどの辺りになるでしょうか。

色ではないのですが、子どもたちが通学のときに電車の中で遮光をして、穴を空けて、ピンホールカメラのようにして光だけを使って映像を作るシーンが映画作家としての自分を表現しているシーンではないかと思っています。そのシーンを見るたびに、幼いながら本当に粋なことをしていたなと思います。

画像2: Film、Food、Friend、Futureと4つのFがキーワード

女性のバングルでさまざまな色を映し出したのは、実際に似たような場面に遭遇したことがあるのです。モハメッドさんと会って、映写機がスプーンになり、フィルムがバングルになったという話をした後、バスで街に帰ったのですが、そのバスで結婚式に向かう女性たちと一緒になったのです。彼女たちはさまざまな色のバングルをしていました。

6時間のバス旅でしたから時間を持て余し、バングルを見ながら、「あれがキューブリックかもなぁ」、「この女性は気がつかずに黒澤明のバングルをしているんじゃないか」といったことをふっと思いついたのです。それが自分の映画の一部になるとは、そのときはまったく想像もしていなかったのですが、今になってみると印象深い思い出です。

PROFILE
監督:パン・ナリン

インド共和国・グジャラート州出身。ヴァドーダラーのザ・マハラジャ・サヤジラオ大学で美術を学び、アーメダーバードにあるナショナル・インスティテュート・オブ・デザインでデザインを学んだ。初の長編映画『性の曼荼羅』(01)がアメリカン・フィルム・インスティテュートのAFI Festと、サンタ・バーバラ国際映画祭で審査員賞を受賞、メルボルン国際映画祭で“最も人気の長編映画”に選ばれるなど、30を超える賞を受賞し、一躍国際的な映画監督となった。

BBC、ディスカバリー、カナル・プラスなどのTV局でドキュメンタリー映画も制作しており、“Faith Connections”(13・原題)はトロント国際映画祭の公式出品作品として選ばれ、ロサンゼルス インド映画祭で観客賞を受賞した。2022年にグジャラート州出身の映画監督として初めて映画芸術科学アカデミーに加入。他の代表作に『花の谷 -時空のエロス-』(05)、『怒れる女神たち』(15)などがある。

<STORY>

9歳のサマイはインドの田舎町で、学校に通いながら父のチャイ店を手伝っている。厳格な父は映画を低劣なものだと思っているが、信仰するカーリー女神の映画は特別と、家族で街に映画を観に行くことに。人で溢れ返った映画館、席に着くと、目に飛び込んだのは後方からスクリーンへと伸びる一筋の光…そこにはサマイが初めて見る世界が広がっていた。映画にすっかり魅了されたサマイは、再び映画館に忍び込むが、チケット代が払えずつまみ出されてしまう。それを見た映写技師のファザルがある提案をする。料理上手なサマイの母が作る弁当と引換えに、映写室から映画をみせてくれるというのだ。サマイは映写窓から観る色とりどりの映画の数々に圧倒され、いつしか「映画を作りたい」という夢を抱きはじめるが―。

『エンドロールのつづき』
2023年1月20日(金)新宿ピカデリー他全国公開
監督・脚本:パン・ナリン
出演:バヴィン・ラバリ
2021 年/インド・フランス/グジャラート語/112分/スコープ/カラー/5.1ch/英題:Last Film Show/日本語字幕:福永詩乃/G/応援:インド大使館/
配給:松竹
ALL RIGHTS RESERVED ©2022. CHHELLO SHOW LLP
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/endroll/

This article is a sponsored article by
''.