作品選びにお悩みのあなた! そんなときは、映画のプロにお任せあれ。毎月公開されるたくさんの新作映画の中から3人の批評家がそれぞれオススメの作品の見どころポイントを解説します。

〜今月の3人〜

土屋好生
映画評論家。かつて『いまを生きる』(1989)という映画がありました。でも最近の岸田首相、いささかその題名を乱発気味では?

前田かおり
映画ライター。ソウォン役のチョン・ヒョンジュン君は11歳。激カワで名子役。長ーい目で追いかけたい。

松坂克己
映画ライター・編集。ついに下の子が家を出て独立、二十数年ぶりに二人暮しに戻った。ちょっと寂しさも。

土屋好生 オススメ作品
モリコーネ 映画が恋した音楽家

数々の映画音楽の名曲を生み出したマエストロの知られざる素顔が浮かび上がる

画像1: 数々の映画音楽の名曲を生み出したマエストロの知られざる素顔が浮かび上がる

評価点:演出4/演技4/脚本3/映像4/音楽4

あらすじ・概要

エンニオ・モリコーネはいかにして生まれたか。父の後を継ぐようにトランペット奏者となり、次いで編曲家から映画音楽へ。そして室内楽の作曲へと戻っていく半生を振り返るマエストロはそこに何を見たか。

91年の生涯に残した映画とテレビの作品は500以上。しかも小学校時代の同級生というセルジオ・レオーネと組んだ『荒野の用心棒』(1964)に『夕陽のガンマン』(1965)といったヒット作を並べると彼こそ映画音楽を作るために生まれてきた音楽家といっても過言ではない。連発するヒット作の中で忘れられないのは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(1984)。映像と音楽の絶妙なコラボレーションが耳に溶け込んで離れないこの旋律こそ映画音楽の金字塔といってもいいのではないか。

画像2: 数々の映画音楽の名曲を生み出したマエストロの知られざる素顔が浮かび上がる

そこから浮かび上がる音楽家エンニオ・モリコーネの人物像は繊細で多感な抒情派というか、素顔は純粋で真っ直ぐな詩人タイプだったのではないか。指揮をするモリコーネの後姿をとらえた一枚の写真を見ていると、そこから映画音楽家特有のオーラがにじみ出ているよう。がそれもこれもこの映画の監督たるジュゼッペ・トルナトーレの仕掛けた技で、モリコーネの弟子であり親友でもあった彼の見事なモリコーネ讃歌になっているのは言うまでもない。

公開中/ギャガ配給
© 2021 Piano b produzioni, gaga, potemkino, terras

前田かおり オススメ作品
パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女

クールな女性“運び屋”が悪の一味に追われる少年と繰り広げる韓国ノワールらしい逃走劇

画像1: クールな女性“運び屋”が悪の一味に追われる少年と繰り広げる韓国ノワールらしい逃走劇

評価点:演出4/演技4.5/脚本4/映像4.5/音楽4

あらすじ・概要

ワケありな荷物を届ける運び屋のウナは海外への逃亡を図る賭博ブローカーとその息子ソウォンを運ぶ依頼を受ける。だが,アクシデントからウナはソウォンらを追う悪徳警官たちから命がけの逃亡をするハメに…。

パラサイト 半地下の家族』(2019)で主人公一家の長女役のパク・ソダムが凄腕の運び屋を演じるクライムアクション。冒頭、「女のドライバーじゃ無理だろ」と完全に舐め切っている依頼人を尻目に、アクセルを一気に踏み込むと釡山の街を疾走していく。

狭い路地裏も駆け抜けるテクニックはもちろん、緩急つけた逃走プランは痛快。何よりジュース片手にハンドルを握って余裕をかますクールなソダムには痺れるばかりだ。

画像2: クールな女性“運び屋”が悪の一味に追われる少年と繰り広げる韓国ノワールらしい逃走劇

物語はそんな彼女演じるウナが悪徳警官率いる一味から追われる少年ソウォンと必死の逃亡劇を繰り広げる姿を描く。幼い少年を守って姐御肌のヒロインが孤軍奮闘するあたりは『グロリア』(1980)を彷彿とさせる。だが、ウナが脱北者であるという韓国ならではの設定がシンプルなストーリーに奥行きをもたらし、骨太な作品にしている。

特に、幼くして凄まじい体験をしたことでいっぱしの相棒になるソウォンとの描写は心憎い。彼らを追いかける悪徳警官たちの外道ぶりもハンパなく、韓国ノワールらしさも満載。ぜひとも第二弾を作って欲しいと切に望む。

公開中/カルチュア・パブリッシャーズ配給
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松坂克己 オススメ作品
SHE SAID/シー・セッド その名を暴け

ピューリッツァー賞受賞の記事を基にした二人の記者による重大な告発を描く

画像1: ピューリッツァー賞受賞の記事を基にした二人の記者による重大な告発を描く

評価点:演出4/演技5/脚本5/映像4/音楽3

あらすじ・概要

NYタイムズの二人の記者は、大物映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインが性的犯罪を犯しているという噂を聞きつけ、調査を開始する。だが被害者たちの多くはワインスタインとの示談に応じていた……。

#MeToo運動を爆発させる契機となったニューヨーク・タイムズ紙の記事を書いた二人の女性記者の話だが、彼女たち自身が書いた本が基になっているだけに調査の過程やディテールなどがよく分かる。

彼女たちが記者であるだけでなく、母であり妻でもある家庭人の側面も忘れずに描かれており、そんな普通の人間によってこの調査報道がなされたのだということにも気づかせられる。記者の一方、キャリー・マリガン演じるミーガン・トゥーイーが調査開始当時は産休中で産後鬱だったことも事実で、そのような細部をおろそかにしない脚本が好感を呼び起こしてくれる。

画像2: ピューリッツァー賞受賞の記事を基にした二人の記者による重大な告発を描く

二人の書いた記事は、アカデミー賞も受けている大物プロデューサーによる性的暴力に対する告発を引き起こすことになるわけだが、その事実の華々しさではなく、実際に記事を発表するまでの苦労が丹念に描写されており、作り手側の真実と正確さを求める態度が伝わってくる。

いまだからこそ作られるべき、そして見られるべき作品だ。

公開中/東宝東和配給
© Universal Studios. All Rights Reserved.

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