オスカー最有力の1本をクローズアップ
『スリー・ビルボード』(2017)のマクドナー監督最新作
長年の友情がある日突然壊れた男たちがたどる葛藤の物語
『スリー・ビルボード』(2017)のマーティン・マクドナー監督が、1923年、アイルランド西海岸沖にある島の、内戦に揺れる本土と対照的なのどかな情景を舞台に、友情が壊れた二人の男の葛藤を、時に神秘的に、時に刺激的に描く。
ベネチア国際映画祭でマクドナーが脚本賞を、主演のコリン・ファレルが男優賞を受賞。他にブレンダン・グリーソン、ケリー・コンドン、バリー・コーガンらが共演し、いずれもオスカー候補が噂される演技を披露。
いにしえからの言い伝えで死を予言するという精霊が舞い降りるイニシェリン島の世界観を用いて、人間の切なさや滑稽さ、人生の皮肉をマクドナーが紡ぎだす。
【大予想】オスカー大量ノミネートか?
ゴールデングローブ賞で最多ノミネート作品となった本作は、今度のアカデミー賞でも多くの部門で候補になるのではないかとみられている。作品賞のほか、マクドナーの監督賞と脚本賞、ファレルの主演男優賞、グリーソンとコーガンの助演男優賞、コンドンの助演女優賞、編集賞は固いとされていて、作曲賞、撮影賞などでも期待がかかっている。
ちなみに先に発表された重要な批評家賞「ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞」では脚本(マクドナー)、主演男優(ファレル)、助演男優(グリーソン)の3賞を受賞している。
あらすじ・ストーリー
内戦が勃発した本土と対照的に平和が保たれているアイルランド西海岸沖のイニシェリン島で暮らすパードリック(ファレル)はペットとして飼っているロバを可愛いがり、パブでの他愛ない仲間たちとのおしゃべりをこよなく愛するお人好しの男。
だがある日、長年の飲み友だちコルム(グリーソン)に突然絶交を言い渡されてしまうパードリック。コルムは残された人生を無駄なおしゃべりでなく、創作活動など有意義なことをして暮らしたいという。ショックを受けたパードリックは、妹シボーン(コンドン)、風変わりな隣人ドミニク(コーガン)らの力を借りて友情を復活させようとするが……。
【ここに注目】アイルランド内戦について
物語の背景で描かれるのがアイルランド内戦。アイルランド独立戦争後、1922年から1923年に起きたもので、アイルランド自由国の成立後、その支配権をめぐって英愛条約を推進する暫定政府と反条約派のアイルランド共和国軍(IRA)が争った武力闘争。
パードリックとコルムの仲たがいとイニシェリン島民たちのほころびは、本島で起きている内戦と鏡映しになっている。「2人の小競り合いが島の向こうの大喧嘩と同時進行している」とは監督の弁。内戦ではしばしば兄弟同士、友人同士が衝突し、歴史的に恐ろしい残虐行為に終わった。こうした背景を注意しながら観ると本作はますます深みを増してくるはずだ。
『イニシェリン島の精霊』
2023年1月27日(金)公開
アイルランド、イギリス、アメリカ/2022/1時間54分
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
監督:マーティン・マクドナー
出演:コリン・ファレル、ブレンダン・グリーソン、ケリー・コンドン、バリー・コーガン
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