キャラクターの分析でメイクが変わる
──デイミアンは、この映画をいかにも1920年代というルックにしたくなかったと言っています。メイクについても同じだったのでしょうか。
衣装デザイナーのメアリー、ヘアスタイリストのジェイミー・リーと私は、常に連携を取っていました。メアリーが衣装合わせの写真を私とジェイミーに送ってくれるので、衣装が20年代風だったら、メイクとヘアをもっとモダンにするといった感じ。そうやってバランスを取るようにしていました。
それに、ネリーは私たちと同じ。ハリウッドで成功したいと奮闘しています。彼女は時代を超越して、誰もが共感できる人でなければなりません。彼女がブルーの服を着てプレミアに出席するシーンで、私は色の濃い口紅を選びました。モノクロ映画ではその方が映えるのです。周囲がとても20年代風なので、アイメイクはナチュラルに。そんな風に背景にも配慮しつつ、決めていきました。
──ネリーの赤のドレスやオーバーオールにはどのようなメイクを考えたのでしょうか。
あのパーティについてはスタジオ54をイメージしました。あのようなクレイジーなパーティシーンがあったのは、あのクラブくらいしか思いつきませんから。80年代や90年代には、ロサンゼルスにもクールなクラブがありました。メイクアップアーティストの中にそのクラブで働いたことがある人がいて、彼女が当時の写真をたくさん見せてくれました。それはとても参考になりました。
ネリーはまだ映画業界に足を踏み入れていませんが、このパーティに潜り込んできました。衣装デザイナーのメアリーは、“ネリーにはお金がなく、あったのは赤の布地だけだった”と考え、ドレスを作ったそう。彼女はコスメを買うお金もないはずだから、メイクは赤の口紅だけ。彼女はバッグも持っていないから塗り直しができない。だから、パーティが進むにつれて、彼女の口紅が剝げていく。しかし彼女がスタジオに雇われてからは、メイクもフルになりました。無名の女性と映画スターの差がそこにも出てくるのです。
彼女は何を持っていて、何を持っていないのか。そういったキャラクターの分析でメイクが変わる。これまでに私がかかわったどんな映画よりも衣装、ヘア、メイクを通じてストーリーを語っています。
──ジーン・スマートのキャラクターは、いつも衣装やヘア、メイクが完璧でした。
彼女は尊敬されているジャーナリスト。ゴシップコラムニストではあるけれど、成功した女性なので、ハリウッドのパーティに招かれる。彼女はいつも完璧にドレスアップし、ネイルもしている。彼女はこのストーリーにおける、揺らぐことのない柱でもあります。
──彼女のメイクはどのようにデザインしたのでしょうか。
ジーンにはたくさんのメイクアップが必要なので、メイクアップアーティストの1人をジーン専任にしました。このキャラクターを分析して彼女に伝えたところ、とてもいいメイクをしてくれました。ジーンも彼女の仕事を気に入ってくれたようです。
──男性のキャラクターやエキストラについてはどうされたのでしょうか。
男性の場合は、ヘアカットと肌をきれいにしておくぐらいでした。ただ、マニーのキャラクターは変化していきます。最初はメキシコ人の青年。その後、彼は映画スタジオのエグゼクティブとなり、最後はまたハリウッドに戻ってきて、過去に想いを馳せる。マニーの変化はとても大事なので、デイミアンとたっぷり話をして、マニーのヘアメイクにはかなり時間を掛けました。最初の頃は彼の肌がきれいに見えるように、ファンデーションを多めにつけています。ひげをきっちり剃ることはしていません。その次の段階では継続性を持たせるためにヘアは変えませんでしたが、ひげをきっちり剃りました。その後は、特殊なラテックスを使って老けメイクをしています。