短い登場時間でも存在感と背景まで分かるように見せる演出

──柳葉敏郎さんと佐々木蔵之介さんが対峙するシーンは見ているだけで圧を感じました。現場ではどのように演出をされていたのでしょうか。

柳葉さんが演じた九条も佐々木さんが演じた黒田も銀行という職場で自分の抱えている罪悪感や本音を隠しながら、仕事をしてきました。それが長い年月を経て凝縮され、溜まりに溜まった思いが確執となってぶつかり合う。多くを語らなくても表現できるところは柳葉さん佐々木さんだからこそだと思います。

演出で何より大事にしたのは、そぎ落とした表現の中でどこまでその人物の背景まで感じさせるかということ。黒田には長年働いても達成できない思いがあるだけでなく、自分の過去のある行動に後ろめたさを感じている。佐々木さんは何度もご一緒していますので、こちらはあまり身構えることなく、全幅の信頼を置いています。今回も特にこうしてほしいとは話はしていませんが、組織の中で自分が埋没してしまった時間を過ごしているというある種の虚無感を佐々木さんがうまく表現してくれました。

技巧的な点では、柳葉さんの照明を夕暮れの逆光として作りました。それを踏まえて、柳葉さんは笑顔を見せながら脅迫していく。腹の底から恐ろしさを感じるようなお芝居をされて、僕自身も現場で映像見ながら恐ろしい執念だなと思ったくらいです。

画像3: © 2023映画「シャイロックの子供たち」製作委員会

© 2023映画「シャイロックの子供たち」製作委員会

画像4: © 2023映画「シャイロックの子供たち」製作委員会

© 2023映画「シャイロックの子供たち」製作委員会

── 一方、阿部サダヲさん、柳葉敏郎さん、柄本明さん、橋爪功さんが対峙するシーンはキツネとタヌキの化かし合いのような雰囲気で、セリフは少ないものの、それぞれの思惑が伝わってきました。

柄本さんも橋爪さんもさすがでしたよね。本心では何を思っているのかわからないというお芝居をうまくやってくださいました。緊迫した取引の場面を、表情の変化だけで観客を飽きさせずに見せられるというのは本当に素晴らしいです。

群像劇はこれまで数多くやってきました。登場時間が少なくても、その人の存在感と背景まで分かるように見せていくという演出は難しいけれどやりがいはあります。

橋爪さんはもっと過剰気味に演技されるのかと思っていましたが、今回は阿部さんがハイトーンで登場されるので、全体を考えて、ちょっと不気味さを孕んだ抑え気味の芝居をされたようです。キャストもベテランの方々ばかりですから、お互いの芝居を見ながら、相手がどう演技するかを見ながら調整して演じられていました。うまくバランスが取れていたのではないかと思います。何事も全体像が大事ですから。僕もそこは注意して演出したつもりです。

人生を否定せず、愛を叫ぶような主題歌「yes. I. do」

──主題歌であるエレファントカシマシの「yes. I. do」はどのようなイメージで依頼しましたか。また、できあがってきた楽曲を聞いていかがでしたか。

この作品は脚本を読み込んでも出来上がりがイメージしにくい作品でしたから、主題歌以外はできているものをお渡しして、「宮本さんの解釈でいいから、なるべく人生を否定せず、愛を叫ぶような主題歌をお願いします」と伝えたところ、2回ご覧になった上ですぐに作り始めてくれました。
最初は宮本さんらしい嘘のない力強い楽曲だなと聴いていましたが、時間が経てば経つほど作品の内容に寄り添ったいい主題歌だと思います。

画像5: © 2023映画「シャイロックの子供たち」製作委員会

© 2023映画「シャイロックの子供たち」製作委員会

──公開を前に今のお気持ちをお聞かせください。

コロナ禍での撮影というとても高いハードルがあったにもかかわらず、この作品が1つの形になったことでほっとしています。俳優のみなさんも不自由な行動制限がある中で協力的に参加してくださり、映画がたくさんの人に支えられてできていることを改めて実感しました。

2時間の作品ですが、多くの人物が登場し、多面的な楽しみ方ができるよう作りました。時間を忘れて、「この先どうなるのだろう」とわくわくしながら見ていただける映画になりました。繰り返し見ることで気づくようなこともあるはずです。登場人物の誰かをご自身に重ね合わせてご覧いただければうれしいです。

PROFILE
本木克英

早稲田大学政治経済学部卒業後、1987年松竹に助監督として入社。森崎東、木下恵介、勅使河原宏などの監督に師事する。1994年文化庁在外芸術家派遣研修制度にて一年間米国留学。帰国後2年間のプロデューサー業を経て、『てなもんや商社』にて監督デビュー。

主な作品は『釣りバカ日誌』シリーズ11~13』(2000~2002年)、『ドラッグストア・ガール』(2004年)、『ゲゲゲの鬼太郎』(2007年)、『犬と私の10の約束』(2008年)、『鴨川ホルモー』(2009年)、『おかえり、はやぶさ』(2012年)、『超高速!参勤交代』(2014年)、『超高速!参勤交代リターンズ』(2016年)、『空飛ぶタイヤ』(2018年)、『少年たち』(2019年)、『居眠り磐音』(2019年)、『大コメ騒動』(2021年)など。

映画『シャイロックの子供たち』2023年2月17日(金)全国公開

画像: 映画『シャイロックの子供たち』本予告【2023.2.17(金)公開】 www.youtube.com

映画『シャイロックの子供たち』本予告【2023.2.17(金)公開】

www.youtube.com

<STORY>

東京第一銀行の小さな支店で起きた、現金紛失事件。お客様係の西木(阿部サダヲ)は、同じ支店の愛理(上戸彩)と田端(玉森裕太)とともに、事件の真相を探る。

一見平和に見える支店だが、そこには曲者揃いの銀行員が勢ぞろい。出世コースから外れた支店長・九条(柳葉敏郎)、超パワハラ上司の副支店長・古川(杉本哲太)、エースだが過去の客にたかられている滝野(佐藤隆太)、調査に訪れる嫌われ者の本店検査部・黒田(佐々木蔵之介)。そして一つの真相にたどり着く西木。それはメガバンクにはびこる、とてつもない不祥事の始まりに過ぎなかった。

『シャイロックの子供たち』
2023年2月17日(金)全国公開 
監督: 本木克英
脚本: ツバキミチオ
出演: 阿部サダヲ、上戸彩、玉森裕太、柳葉敏郎、杉本哲太、佐藤隆太、柄本明、橋爪功、佐々木蔵之介 ほか
脚本:ツバキミチオ
音楽:安川午朗
主題歌:エレファントカシマシ「yes. I. do」(ユニバーサルシグマ)
2023年/122分/G/日本
配給:松竹
© 2023映画「シャイロックの子供たち」製作委員会
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/shylock-movie/

This article is a sponsored article by
''.