ちょっと癖のある客たちを温かく迎え入れる古書店主のリベロが、ある日、店の外で本を眺める移民の少年エシエンに声を掛け、好奇心旺盛な彼に本を貸し与え始める。エシエンはリベロが語る読書の素晴らしさに熱心に耳を傾け、2人は感想を語り合ううちに、いつしか友情で結ばれていく。映画『丘の上の本屋さん』は “イタリアの最も美しい村”のひとつ、チヴィテッラ・デル・トロントを舞台に、丘の上の小さな古書店で繰り広げられるハートウォーミングな物語です。心優しい店主リベロ役を務めたのは、『フォードvsフェラーリ』(2019)、『我が名はヴェンデッタ』(2022)のレモ・ジローネ。公開を前にレモ・ジローネ氏にお話をうかがいました。(取材・文/ほりきみき)

エシエンは本を読んで思考が深まっていく

──リベロの店に通ってくる少年エシエンを演じたディディー・ローレンツ・チュンブくんは映画初出演とのことでしたが、共演されていかがでしたか。

ディディーと一緒に仕事をするのはとても楽しかった。私には孫がいるので、ディディーも自分の孫のように思え、リベロのエシエンに対する接し方は祖父として孫に接するのと同じだとイメージしました。

ちなみに私の娘はかつて日本人と結婚して、今は4人の子どもがいるシングルマザーとして子育てをしながら日本に住んでいます。

画像: エシエンは本を読んで思考が深まっていく

──リベロとエシエンの本に関する会話がこの作品の魅力の1つです。後半は会話部分が聞こえませんが、どんな話をされていたのでしょうか。

会話を毎回入れていると繰り返しになってしまう部分も出てきます。エシエンが本を読んで、思考が深まっていくことが伝わればよかったので、後半の会話は本編では使わなかったのです。それは最初からわかっていたので、そこの部分では演じていたディディーや私自身の話をしたりしていました。

私はアフリカのエリトリアというかつてイタリアの植民地だったところで生まれて、23歳までそこで暮らしていました。現地の子どもたちと一緒の学校に通った経験もあります。彼らがどういう状況に置かれているかを自分の目で見てきました。そのとき感じたことがリベロを演じる際に影響を与えていたかもしれません。エシエンは頭のいい子だと描かれていますが、確かにそういう子たちもいました。

本を読むことで自分自身の身を危険から守ることができる

──リベロのお店にはエシエンのほかにも、さまざまなお客さんがやってきます。最後に来た「なぞなぞ好きの男」は監督が演じていました。監督との共演はいかがでしたか。

先程もお話しましたが、監督とは以前からの友人なので、彼が繰り出してくる言葉遊びの会話は楽しかったです。私自身はクロスワードと数独パズルを嗜む程度ですけれどね。ちなみにあの会話はアドリブではなく、ちゃんと脚本に書いてあります(笑)。

画像: 本を読むことで自分自身の身を危険から守ることができる

──この作品を通じて伝えたかったことはどんなことでしょうか。

本を読み、知識を身につけると自分自身の身を危険から守ることができると伝えたい。例えば独裁主義に対して、“どうやって距離を置くのか”、“どうやって立ち向かっていくのか”ということもわかる。リベロは作品の中で政治的に明確な立場を取っていて、必ず貧しい人の側に立つのですが、それは彼が本を読んできたからです。

そして、いちばん大事なメッセージは映画のタイトルにもなっている“幸せになる権利”だと思います。それをみんなに知ってほしい。リベロがエシエンに渡した最後の本を選んだ理由も、私が演じた役にリベロという自由を意味する名前がついている理由もそこにあります。

※邦題は『丘の上の本屋さん』ですが、原題の『II diritto alla felicità』には「私は幸せになる権利がある」という意味です。

PROFILE
レモ・ジローネ

1948年12月1日、エリトリア、アスマラ生まれ。1972年に、『Roma rivuole Cesare』(ヤンチョー・ミクローシュ監督)で映画デビューを果たし、『白熱マフィア戦争/皆殺しの抗争』(78/パスクァーレ・スクイティエリ監督)、『ヘヴン』(02/トム・ティクヴァ監督)、『至宝 ある巨大企業の犯罪』(11/アンドリア・モライヨーリ監督)、『ようこそ、大統領!』(13/リッカルド・ミラーニ監督)等の数多くの作品に出演。その後ロサンゼルスへ渡り、『夜に生きる』(16/ベン・アフレック監督)と『フォード vs フェラーリ』(19/ジェームズ・マンゴールド監督)に出演。最新作の『我が名はヴェンデッタ』(22/コジモ・ゴメス監督)がNetflixにて配信中。

<STORY>
イタリアの風光明媚な丘陵地帯を見下ろす丘の上の小さな古書店。訪れる風変りな客たちを温かく迎え入れるリベロの店は街のちょっとしたオアシス的な存在でもある。ある日、店の外で本を眺める移民の少年エシエンに声を掛けたリベロは、好奇心旺盛なエシエンに、コミックから児童文学、中編小説、長編大作、さらに専門書まで次々と店の本を貸し与えていく。エシエンから感想を聞きながら、様々な知識やものの見方や考え方など、リベロはジャンルを超えて叡智を授ける。そしてイタリア語で「自由(Libero)」を意味する自身の名の通り、エシエンに自由であること、誰もが幸せになる権利を持つことを伝えていくのだった。

『丘の上の本屋さん』
3月3日 (金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

監督・脚本:クラウディオ・ロッシ・マッシミ 
出演:レモ・ジローネ、コッラード・フォルトゥーナ、ディディー・ローレンツ・チュンブ、モーニ・オヴァディア
2021年/イタリア/イタリア語/84分/カラー/2.35 : 1/5.1ch
原題:II diritto alla felicità 
字幕:山田香苗 
後援:イタリア大使館、イタリア文化会館
提供:シネマライズ、ミモザフィルムズ 
配給:ミモザフィルムズ 
公式サイト:http://mimosafilms.com/honya/

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