温かな優しさに包まれる感動作『オットーという男』
ごみの分別の仕方、公共スペースの使い方。わかっていても、急いでいたり、うっかりしたりして間違うことは誰にでもある。それを1つ1つチェックして、間違いの場に遭遇したらお説教を始めてしまう。「America’s Dad(アメリカのパパ)」と称され、世界中で愛されている名優トム・ハンクスが次に選んだのは、そんな真面目一辺倒で融通の利かない初老の男性オットーだ。
原作はスウェーデンの作家フレドリック・バックマンの「A Man Called Ove(邦題:幸せなひとりぼっち)」。世界各国で読まれ、42週連続でニューヨークタイムズのベストセラーリスト入りを果たし、2015年にはスウェーデンで映画化。アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされるほどのヒットを記録した。この作品に魅せられたトム・ハンクスが妻リタ・ウィルソンとともにプロデューサーに名乗り出たのだ。
監督は『チョコレート』(2001)で知られるようになり、最近では『プーと大人になった僕』(2018)を手掛けたマーク・フォースター。『ネバーランド』(2004)で組んだデヴィッド・マギーに脚本を託した。気難しく、人生に絶望していたオットーが向かいの家に越してきた子育て世代家族に翻弄されつつ、生きる喜びを見出していく姿がユーモアたっぷりに描かれている。
社交的で、オットーに偏見を持たずに接してくる主婦マリソルを演じているのが、メキシコで最も人気のあるコメディ女優の一人、マリアナ・トレビーニョ。主題歌「Til You’re Home」をリタ・ウィルソンが手掛け、セバスチャン・ヤトラとデュエットした。
若い頃のオットー役はトム・ハンクスの実の息子!
見どころの1つが若い頃のオットーをトムの息子トルーマンが演じていること。彼は『スプラッシュ』(1984)、『ビッグ』(1988)の頃のトムを彷彿させ、この役にぴったり。トルーマンは俳優ではなく、撮影監督志望で、『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021)、マーベルの『ブラック・ウィドウ』(2021)のほか、トムが主演した『この茫漠たる荒野で』(2020)で撮影助手をしている。トムには俳優の息子コリンもいるが、年齢的にトルーマンに白羽の矢が立ったのだ。
登場人物
オットー(トム・ハンクス)
最愛の妻も仕事も失い、生きる希望を見出せず、人生の終止符を打とうとするのだが…。
マリソル(マリアナ・トレビーニョ)
メキシコ出身の女性。不器用な夫、娘2人とともにオットーの向かいの家に越してきた。
【インタビュー】不機嫌だけど正しい? トム・ハンクスが語るオットー
「オットーはいつも不機嫌じゃないか。その通り。いつも誰かが間違いを犯すのを待ち構えているみたいじゃないか。それもその通り。しかし、同時に彼が何をしているかというと、誰かがちゃんと捨てなかったゴミを分別したり、入り口のゲートをきちんと閉めたりしています。いつも正しいことをしているんです。」
「彼が特に映画の序盤でイライラして不機嫌なのは、彼が独りぼっちで、コミュニティの一員になっていないからだと思います。ですが、引っ越してきたマリソルとトミーは、「いやいや、あなたもコミュニティの一員だ」「私たちはあなたの隣人だ」「あなたは私たちに関わらないといけない。私たちはあなたに助けを求めに行くし、私たちもあなたが求めてきたらあなたを助けるんだ」という調子です。それをオットーは嫌がるかって? もちろん! そのおかげでオットーの生活は素晴らしくなる? もちろん! すべてが同時に起きるんです」
『オットーという男』
2023年3月10日(金)公開
アメリカ/2022/2時間6分/ソニー・ピクチャーズ
監督:マーク・フォースター
出演:トム・ハンクス、マリアナ・トレビーニョ、マヌエル・ガルシア=ルルフォ