真面目一辺倒で融通の利かない初老の男性オットーが向かいの家に越してきた子育て世代家族に翻弄されつつ、生きる喜びを見出していく。映画『オットーという男』は「America’s Dad(アメリカのパパ)」と称され、世界中で愛されているトム・ハンクスがパブリックイメージとは正反対のキャラクターを演じて話題になっています。しかも主題歌「Til You’re Home」をトムの妻であるリタ・ウィルソンが手掛け、オットーの若い頃を実の息子であるトルーマン・ハンクスが演じているのです。メガホンを取ったマーク・フォースター監督に作品への思いやキャストについての話をうかがいました。(取材・文/ほりきみき)

トム・ハンクスは演じることを心の底から楽しんでいる

──トム・ハンクスはどんな方でしたか。

トムはハリウッドの映画業界でとても評判がいいのですが、評判通りの方でした。この作品の企画開発で4年間ご一緒し、特に撮影の数カ月はかなり濃密に関わったのですが、何と言っても仕事に対する姿勢が素晴らしい。現場は朝8時から始まりますが、定刻通りにきて、撮影の合間にトレーラーに戻ることがないのです。ずっと現場にいて、撮っていないときは瞑想。結果的に夕方まで現場にいました。私はそうする役者さんとは初めてでしたから驚きましたね。しかも40年間スターであり続けているにも関わらず、この仕事に対する情熱が若いころのまま。演じることを心の底から楽しんでいる。素晴らしく偉大な俳優だと思います。

画像: Photo By Jose Velasco/Europa Press via Getty Images

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──オットーの若いころを実の息子であるトルーマン・ハンクスが演じています。現場でのトルーマンはいかがでしたか。

『ビッグ』や『スプラッシュ』の頃のトムに似ていると思ったので、説得して回想シーンに出てもらいました。彼は撮影監督を目指しているので、演じることには興味がなかったのです。トム・ハンクスの息子という立場だけでもプレッシャーなのに、トムが演じる役の若いころを演じなくてはならないのはかなりのプレッシャーですからね。それでも、カメラの前では怯むことがなく、いい演技を見せてくれました。もしかしたら、今後、演技にも興味を持つようになるかもしれないと思いました。

望んでいた通りの絶妙なバランスを保ってくれたマリアナ・トレビーニョ

──オットーは若いころから自身に抱えている問題がありました。マリソルがそれをユーモアで捉えて、オットーも前向きな気持ちになります。シビアな状況も笑いで救われることがある。作品にユーモアを込めることについてどう思いますか。

ユーモアのある笑いは人を癒すツールになり得ると思います。あのシーンはマリソルがダブルミーニングに気がついて笑うのですが、人生で最も辛い瞬間でも光は見えることを表現しています。

マリソルを演じたマリアナ(・トレビーニョ)がとてもいい演技をしてくれたので、まさに望んでいた通りの絶妙なところでバランスを保ってくれたと思っています。

画像: マリソル(マリアナ・トレビーニョ)

マリソル(マリアナ・トレビーニョ)

──この作品はオットーとマリソルのシーンが多いのですが、マリソルを演じたマリアナ・トレビーニョはいかがでしたか。

マリアナはメキシコでは素晴らしい実績のある女優です。今回、初めて一緒に仕事をしましたが、トム・ハンクスとの相性は抜群でした。オットーがドアを閉めてしまっても、マリソルが諦めずにドアを叩き続けるシーンが好きですね。まるでオットーが心を開くまで、心に訴えかけているように見えました。まさに彼女の存在があったからこそ、オットーは自分の人生を生きる理由や目的を改めて見つけることができた。そこがこの物語の素晴らしいところです。

──以前、トム・ハンクス主演で黒澤明の『生きる』をリメイクする話がありました。その話はいつの間にかなくなりましたが、この映画はトム・ハンクスにとって『生きる』に値する映画になった気がします。

黒澤明という言葉を聞いただけで、大いなる誉め言葉だと思います。ありがとうございます。本当にトムにとっての『生きる』だったのかもしれません。

オットーはまるでシェイクスピアのキャラクターのように、普遍性を持っています。オットーの身の上に起きたことは誰にでもあり得ることで、舞台を日本や私が住んでいるスイス、南米に移しても成立します。もしかするとこの原作は今後、違う文化圏で再解釈されて映像作品になったりするかもしれません。

PROFILE
マーク・フォースター

1969年11月30日、ドイツ生まれ。スイスで成長し、1990年に渡米後、ニューヨーク大学で映画を学ぶ。ハル・ベリーが主演しアカデミー賞主演女優賞を受賞した『チョコレート』(2001)や、ジョニー・デップ、ケイト・ウィンスレットが出演し、アカデミー賞®7部門、ゴールデングローブ賞5部門、英国アカデミー賞(BAFTA)11部門にノミネートされた『ネバーランド』(2004)などを手掛けた。

ユアン・マクレガー主演の『プーと大人になった僕』(2018)も高く評価された。
その多才な映画製作スタイルは多岐なジャンルにわたっている。ダニエル・クレイグ主演のジェームズ・ボンド・シリーズ第22弾『007/慰めの報酬』(2008)、ブラッド・ピット製作・主演の『ワールド・ウォー Z』(2013)、オリジナル脚本で監督し、ブレイク・ライヴリーとジェイソン・クラークを主演に迎えた執拗な愛の物語『かごの中の瞳』(2016)などがある。

その他にも、感動的なドラマ『君のためなら千回でも』(2007)は、アカデミー賞®、ゴールデングローブ賞、英国アカデミー賞にノミネートされた。ウィル・フェレル主演の想像力あふれるコメディ『主人公は僕だった』(2006)は2006年トロント国際映画祭で上映され、評論家や観客から絶賛を受け、フェレルはゴールデングローブ賞にノミネートされている。

『オットーという男』は3月10日(金)公開

画像: 『オットーという男』予告1 3月10日(金)全国の映画館で公開 www.youtube.com

『オットーという男』予告1 3月10日(金)全国の映画館で公開

www.youtube.com

<STORY>
オットー・アンダーソン。町内イチの嫌われ者で、いつもご機嫌斜め。曲がったことが大っ嫌いで、近所を毎日パトロール。ゴミの出し方、駐車の仕方、ルールを守らない人には説教三昧、挨拶をされても仏頂面、野良猫には八つ当たり、なんとも面倒で近寄りがたい・・・。それが《オットーという男》。そんな彼が人知れず抱えていた孤独。最愛の妻に先立たれ、仕事もなくしたオットーは、自らの人生にピリオドを打とうとする。

しかし、向かいの家に引っ越してきた家族にタイミング悪く邪魔され、死にたくても死ねない。それも、一度じゃなく二度、三度も…。世間知らずだが、とにかく陽気で人懐っこく、超お節介なメキシコ出身の奥さんマリソルは、オットーとはまるで真逆な性格。突然訪ねてきて手料理を押し付けてきたり、小さい娘たちの子守や苦手な運転をオットーに平気で頼んできたりする。この迷惑一家の出現により “自ら人生を諦めようとしていた男”の人生は一変していく――。

『オットーという男』
監督:マーク・フォースター
脚本:デヴィッド・マギー
製作:リタ・ウィルソン、トム・ハンクス
原作:フレドリック・バックマン『幸せなひとりぼっち』(ハヤカワ文庫)
出演:トム・ハンクス、マリアナ・トレビーニョ、マヌエル・ガルシア=ルルフォ、レイチェル・ケラー
2022年/126分/G/アメリカ
原題:A Man Called Otto
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
公式サイト:https://www.otto-movie.jp/
2023年3月10日(金)全国公開

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