大人の恋愛劇に定評のあるパトリス・ルコント監督の最新作『メグレと若い女の死』が公開されます。原作はルコント監督の名前を一躍有名にした『仕立て屋の恋』の原作者ジョルジュ・シムノンの代表作「メグレ警視シリーズ」の中の同名小説です。主人公メグレ警視役を務めるのは、フランスの名優ジェラール・ドパルデュー。身長180センチ、体重100キロという原作に忠実な姿で作品に重厚な存在感を与えています。公開に先駆けて、ルコント監督に作品への思いをうかがいました。
(取材・文/ほりきみき)

心の底から演じるのが好きと伝わってくるジェラール・ドパルデュー

──メグレを演じたジェラール・ドパルデューとは今回が初めてですね。

今回、メグレを考えたときにドパルデューが思い浮かびました。彼ならではのメグレを作ってくれるだろうと思ったのです。さっそくドパルデューに連絡したところ、彼はメグレについてよく知っていて、喜んで受けてくれました。

ドパルデューのことはずっと前から尊敬しており、いつか一緒に映画を作りたいと思っていたのです。今回初めて一緒に仕事をしましたが、本当に素晴らしい役者でした。

画像: Maigret 2 © Stéphanie Branchu

Maigret 2 © Stéphanie Branchu

──ジェラール・ドパルデューと一緒に仕事をしてみていかがでしたか。

他の役者にジョークを言ったりして、現場に和やかな雰囲気を作ってくれたかと思うと、撮影が始まればすぐにメグレになり切るのです。私自身がカメラを回すこともあったのですが、撮りながら彼の演技に涙することもありました。

彼はとにかく活き活きと演じていました。たくさんの映画作品に出ていますが、演じることに飽きることがないのでしょうね。心の底から好きだという気持ちがそばにいると伝わってきました。

メグレがどう感じているかを体感させるカメラワーク

──監督ご自身がカメラを回すこともあったのですね。カメラワークで意識したことはありますか。

技術的なこだわりを持ちつつ、ストーリーに即した撮り方をするので、作品ごとに撮影の仕方やカメラワークは違います。今回はカメラがメグレ自身でした。カメラがメグレの視点を追い、自分の周りに起きた、どのようなことについて注意深く見ているか、それをどう感じているかを観客に体感させるカメラワークになったと思います。

──1950年代という設定ですが、若者が都会に憧れて田舎から出てくるものの、満足な職につけず、事件に巻き込まれてしまうという話は現代にも起こり得る内容だと思いました。この作品を通じて、監督はどんなことを伝えたかったのでしょうか。

大都会が若者を惹きつけるということはパリ以外にも、時代に関係なくあると思います。自分が置かれた場所、自分の周りに幸せを見つけることを考えてみてほしいです。

──原作小説のタイトルは「メグレと若い女の死」ですが、映画のタイトルを「Maigret」(※)とされたのはなぜでしょうか。※邦題は『メグレと若い女の死』。

メグレシリーズは世界中で何度も映像化されていますが、「ルコントが撮るメグレはこれだ」というつもりで、あえて原作と同じにせず、シンプルに「Maigret」としました。それにメグレについてはもう撮りません。なぜなら、この作品以上のものを撮れるとは思えないのです。

PROFILE
パトリス・ルコント

1947年、フランス・パリに生まれる。IDHEC(フランスの映画学校)で学び、5年間漫画家、イラストレーターとして活躍し、その後、映画監督に。『ダンデム』(87)で批評家から注目され、日本で初めて劇場公開された『髪結いの亭主』(90)が大ヒット。その前作である『仕立て屋の恋』(89)もその後に日本で公開。以後、ミニシアターブームを牽引する存在となった。『リディキュール』(96)ではアカデミー賞最優秀外国映画賞にノミネート。新作が公開されるたびに注目されるフランス映画界の巨匠。

映画『メグレと若い女の死』3月17日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

画像: 【予告編】『メグレと若い女の死』 www.youtube.com

【予告編】『メグレと若い女の死』

www.youtube.com

<STORY>
1953年のパリ。ある日モンマルトルのヴァンティミーユ広場で、シルクのイブニングドレスを着た若い女性の刺殺体が発見される。血で真っ赤に染まったドレスには5か所もの執拗な刺し傷。この事件の捜査を依頼されたメグレ警視は、死体を見ただけで複雑な事件になる予感がするのだった・・・・・・。死体のそばに持ち物類は何もなく、事件を目撃した人もいない。彼女が誰なのか、どんな女性だったのかを知る人もいない。そんな状況で、靴や下着など若い女性が身につけていた他のものとは明らかに不釣り合いな高級なドレスが彼女を特定する唯一の手がかりに。メグレ警視は捜査を進めていくうちに、身元不明の彼女がどうして殺されなくてはいけなかったのか、彼女はどんな人生を送ってきたのかを探っていく。この事件に異常にのめり込んでいくメグレ警視。何が彼をこれほどまでに駆り立てるのか・・・・・・。

『メグレと若い女の死』
3月17日(金)全国公開
原作:ジョルジュ・シムノン「メグレと若い女の死」
監督:パトリス・ルコント
脚本:パトリス・ルコント、ジェローム・トネール
撮影:イヴ・アンジェロ
音楽:ブリュノ・クーレ
出演:ジェラール・ドパルデュー、ジャド・ラベスト、メラニー・ベルニエ、オーロール・クレマン、アンドレ・ウィルム
2022年/フランス/ 89分/カラー/シネスコ/5.1ch/原題:Maigret/日本語字幕:手塚雅美
配給:アンプラグド 
©2021 CINÉ-@ F COMME FILM SND SCOPE PICTURES.
公式サイト:https://unpfilm.com/maigret/

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