作品選びにお悩みのあなた! そんなときは、映画のプロにお任せあれ。毎月公開されるたくさんの新作映画の中から3人の批評家がそれぞれオススメの作品の見どころポイントを解説します。

〜今月の3人〜

土屋好生
映画評論家。佐藤忠男、河原畑寧、山根貞男…映画批評の大先輩の訃報相継ぐ。時代の変わり目なのだろうが寂しい限り。

北島明弘
映画評論家。蔵書の整理中。「黒死館殺人事件」が版元は別とはいえ五冊もあったのには我ながらびっくり。

まつかわゆま
まつかわゆまシネマアナリスト。ホントは娯楽映画派なんだけどといいつつ海外ドキュメンタリーの100本ノックに挑戦する日々です。

土屋好生 オススメ作品
ワース 命の値段

9.11の国家的補償金分配問題を担当する弁護士の人間的成長をじっくりと見せる

画像1: 土屋好生 オススメ作品 ワース 命の値段

評価点:演出4/演技4/脚本3/映像4/音楽3

あらすじ・概要
2001年9月11日の同時多発テロから22年。その歴史的な大事件の陰で被害者とその遺族に対する政府の補償問題の真相が明らかとなりつつある。その交渉の最前線で死力を尽くした弁護士の記録である。

あの『バットマン』のマイケル・キートンが弁護士に扮するのだから、心してスクリーンに向かわなければ…と思いきや、これが意外と素直な展開で拍子抜けした感じ。とはいえテーマは9.11の国家的な補償金分配問題に立ち向かう弁護士という役どころだけに、バットマンもビックリの変身ぶり。果たして難問解決となるかどうか。

画像2: 土屋好生 オススメ作品 ワース 命の値段

結論から言えば計算高い合理主義者を絵で描いたような辣腕弁護士が人間的にどう変身していったか、その変身=成長の過程をじっくりと見せてくれるのだが、膨大な補償対象者の様々な要望をどうまとめ上げるか、そしてそれをキートンがどう具現化するのか、実話だけに弁護士の奮闘ぶりには目を見張らせるものがある。

加えて事件を契機に人間的に成長していく弁護士仲間らを見ていると、これを美談と片付けられないものがある。またキャスティングもキートンに改心を促す反対派の1人に異能の俳優スタンリー・トゥッチを配して万全の構え。いうまでもなくこの渋い俳優の面々が映画を甘い美談から救っている。

公開中/ロングライド配給

©2020 WILW Holdings LLC. All Rights Reserved.

北島明弘 オススメ作品
アラビアンナイト 三千年の願い

G・ミラー監督による「アラジンと魔法のランプ」をベースにした摩訶不思議な物語

画像1: 北島明弘 オススメ作品 アラビアンナイト 三千年の願い

評価点:演出5/演技5/脚本4/映像5/音楽4

あらすじ・概要
魔人を解放したこれまでのヒロインは、願いを叶えてもらいながら、最後には再び魔人を瓶の中へ閉じ込めた。アリシアは“三つの願い”を拒否するが、魔人の話を聞いたあとで、出した結論とは……。

アラビアン・ナイトと聞くと、たいていの人は「アリババ」「シンドバッド」「アラジン」といったファンタスティックな冒険譚を連想するだろう。本作は最も有名な「アラジンと魔法のランプ」をベースに、摩訶不思議なストーリーが『マッドマックス』のジョージ・ミラー監督によって展開されていく。

ガラスの小瓶に閉じ込められていた魔人が、自分を解放したアリシアに三つの願いを叶えてやると言う。だが、物語論の研究者であるアリシアは断った。願いを叶えないと、長年待ち望んでいる楽園に行けない魔人は、シバの女王とソロモン王の挿話を皮切りに、自分が瓶に閉じ込められては解放され、また閉じ込められるという三千年に及ぶ波瀾万丈な体験を語りだす。

画像2: 北島明弘 オススメ作品 アラビアンナイト 三千年の願い

オスマン帝国の後宮におけるエロティックな場面、大規模な戦闘場面やVFXを駆使した驚異のヴィジュアル場面、さらに皇位継承をめぐる陰謀、ロマンティックな要素も織り込まれて、アラビアン・ナイトというにふさわしい内容に仕上がっている。

公開中/キノフィルムズ配給

© KENNEDY MILLER MITCHELL TTYOL PTY LTD.

まつかわゆま オススメ作品
エンパイア・オブ・ライト

扉の向こうには私ではない私がいた。“光の帝国=映画館”愛の溢れる傑作

画像1: まつかわゆま オススメ作品 エンパイア・オブ・ライト

評価点:演出5/演技5/脚本4/映像5/音響4

あらすじ・概要
1980年、海辺の町に建つ映画館エンパイア。ここで働く中年女性ヒラリーの前に、新入りとして夢をあきらめた黒人青年スティーブンが現れる。傷ついた鳩を助けたことから二人は親しくなっていくのだが…。

映画館や劇場が閉鎖され、映画や演劇は不要不急の物と言われたコロナ禍の世界。いや、違う! 劇場で見る映画や演劇、つまりここではないどこか、私ではない私が物語の中にいると信じさせてくれる“あの場所”が、絶対必要なんだと、映画愛や映画館愛を謳う作品が並んだ賞シーズン。演劇人でもあるサム・メンデスも本作で声を上げた。

かつてはこの町の娯楽の殿堂だった映画館のさびれ具合は、イギリスとイギリス映画の斜陽ぶりを表し、サッチャー政権下の格差と差別と不寛容が映画館の外を侵し始めていることを示す。その不穏さはどことなく今と重なり、“闇”は映画館のロビーに闖入してくる。けれど、スクリーンのある光の帝国、別世界への入り口は守られ、観客はそこで癒されるのが、ザ・映画館なのだ。

画像2: まつかわゆま オススメ作品 エンパイア・オブ・ライト

メンデスの母がモデルだというヒロイン、ヒラリーを演ずるオリヴィア・コールマンがいい。傷ついたおばちゃんの恋は切なくも力強い。筆者はGG賞で彼女に投票したが、なぜオスカー候補から外れたのか疑問だ。

公開中/ウォルト・ディズニー・ジャパン配給

© 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

前回の連載はこちら

This article is a sponsored article by
''.