カバー画像：Photo by Amy Sussman/BAFTA/Contour by Getty Images
黒澤明の名作『生きる』が第二次世界大戦後のイギリスを舞台に蘇る『生きる LIVING』
黒澤明の不朽の名作『生きる』（1952）を第二次世界大戦後のイギリスに舞台を移して新たに映画化。小説「日の名残り」「わたしを離さないで」などで知られるノーベル賞作家カズオ・イシグロが脚色を手掛け、新しい『生きる』を誕生させた。主演は本年度アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたイギリスの国民的俳優ビル・ナイ。監督は2011年に『Beauty』（原題）でカンヌ国際映画祭のクィア・パルムを受賞したオリヴァー・ハーマナス。
1953年。第二次世界大戦後、いまだ復興途上のロンドン。公務員のウィリアムズ（ビル・ナイ）はいわゆる“お堅い”英国紳士。仕事では事務処理に追われ、家では孤独を感じ、無意味な人生に虚しさを感じている。ある日、医者から癌を宣告され、余命半年であることを知った彼は自分の人生を見つめ直す。そしてかつての部下マーガレット（エイミー・ルー・ウッド）と交流する中で、啓示を受けたかのように新しい一歩を踏み出すことを決意。その一歩は、やがて無関心だったまわりの人々をも変えていく。
【インタビュー】“素晴らしい役で嬉しくなりました”ビル・ナイ、『生きる LIVING』を語る
──『生きる LIVING』に出演した経緯を教えていただけますか？
ある晩、カズオ・イシグロと（製作者の）スティーヴン・ウーリーと夕食を共にしました。夕食が終わると、イシグロが私のところに来て『君が出るべき次回作がわかったよ』と言うのです。私は『まあ、気が向いたら教えてくれ』と答えました。その後、スティーヴンから電話があり、その作品とは黒澤明の『生きる』を再構築し、舞台をロンドンに移したものだということを聞きました。私はそれについて、全く異存がありませんでした。実際に脚本を読んで、とても感心し、素晴らしい役で嬉しくなりました。私は前世でとても良い人間だったに違いないですね。
──あなたの演じたウィリアムズというキャラクターはどのような人物ですか？
ウィリアムズはおそらく25年近く、ひとり親の状態です。ひどく型にはまった人間で、悲しみの中に閉じ込められています。人は大きな悲しみから自分を守るために、極めて狭い指針に沿って行動するようになり、あまり感情を感じないようにするために慣習の中に自分自身を見出すようになるのです。彼は医師から（余命半年という）診断を受けるまで、一度も自分のスケジュールから逸したことはなく、ひどくショックを受けます。映画では彼が残りの時間をどう過ごすかが描かれています。
──本作の内容についてどのようなことを感じましたか？
この映画は、私たちが死というものとどう向き合うか、そして与えられた時間をどのように整理し、楽しみ、感謝するのが最善なのかを描いています。人は、毎日を人生最後の日のように生きるべきだと言いますが、そんなことは誰にもできません。この映画は、窮屈な生活を送っている普通の人が、生命の危機に直面したときにどうするのかを知る機会でもあります。どこまで話していいのかわかりませんが、結末を損なわない範囲で言うと、主人公が発見したのは、自分の人生に意味と時間的価値を与えてくれるのは、他の誰かのために何かをすることだ、ということです。これが基本的なテーマだと思います。
ノーベル賞作家カズオ・イシグロが語る、『生きる』英国版にビル・ナイが不可欠だった理由
私が（プロデューサーの）スティーヴン・ウーリーに売り込んだアイディアというのは、『黒澤作品「生きる」の英国版を作るのはどう？』というものではなく、『黒澤作品「生きる」の英国版を、ビル・ナイ主演で作るのはどう？』というものでした。つまり、それ（ビル・ナイの出演）はすべてにとって絶対不可欠な要素だったのです。私たちの誰もが、彼以外が演じることは一度たりとも考えられなかったと思います。私たちの願いは、このストーリーをビル・ナイが演じたものを見たいというものに尽きました。
（主人公の）ウィリアムズはとても英国的で、ユーモアのセンスがあり、常にアイロニックなユーモアのセンスを持っていると思います。私はこの役をそういう風に見ていました。だから、ビルでなければならなかったんです。他にもたくさんの素晴らしいイギリス人俳優があの役を演じることができたと思いますが、このアイロニックなユーモアが独特に調和された感覚を持ち合わせているとは思えませんでした。それは、ビル・ナイにしか捉えられない、表層の奥にある哀愁のようなものなのです。
『生きる LIVING』
2023年3月31日（金）公開
イギリス／2022／1時間43分／東宝
監督：オリヴァー・ハーマナス
出演：ビル・ナイ、エイミー・ルー・ウッド、アレックス・シャープ、トム・バーク
©Number 9 Films Living Limited
