93歳とは思えないほど元気なリーヌ・ルノー
──マドレーヌの波乱に満ちた生涯に驚きました。フランスにはモデルになった女性がいるのでしょうか。
物語は完全に創作されたものでモデルはいません。しかしマドレーヌがシャルルに「1950年代は今とは違っていた」と話すように、50年代にはフェミサイドの話が実際にたくさんあったにも関わらず、当時、司法が女性にとってかなり不利だったのは事実です。
──マドレーヌを演じたリーヌ・ルノーとはダニー・ブーンの紹介でこの作品の前から知り合いだったとのことですが、監督と女優として一緒に仕事をして、いかがでしたか。
93歳(撮影当時)とは思えないほど元気で、とても活き活きとした人です。「この作品はまるで私の遺言のような物語で、私が演じるために待っていてくれた気がする」と言っていました。私はこの作品が彼女にとって最後の作品になるとは思っていませんけれどね(笑)。
回想シーンで若い頃のマドレーヌとアメリカ兵がキスをするのですが、そのシーンを撮影するときに、リーヌは出番がないのに撮影に立ち会いたいと言ってきたのです。そのときは、なぜ、そんなことを言うのか、わかりませんでしたが、撮影が終わるとリーヌは2人に近づき、素晴らしかったと褒め、「本当にそんな感じだったわ」と話し掛けていました。パリが解放された日に彼女自身もアメリカ兵とキスをしていたのです。
──タクシー運転手シャルルを演じたダニー・ブーンとは『戦場のアリア』でもご一緒されています。コメディアンであり、自身で監督もされる方ですが、ダニー・ブーンの役へのアプローチなどについて監督が感じたことをお聞かせください。
ダニーは『戦場のアリア』(2005)で初めてドラマチックな役を演じましたが、今回も勝るとも劣らないドラマチックな役です。リーヌも出演することを条件に、この作品への出演を快諾してくれました。彼は喜劇が上手ですが、演技派の役者でもあります。今回はリーヌとの素晴らしい化学反応を見せてくれました。というのは彼にとってリーヌは母親のような存在で、自分自身を投影してシャルルを演じていたような気がするのです。
──ダニー・ブーンから何か提案はありましたか。
最後にダニーはマドレーヌが入所した施設に妻を連れて行き、受付の女性に「どうしても妻をマドレーヌに会わせなくてはならない」と言います。これは脚本にはなく、ダニーのアドリブです。感動的なセリフで、とてもよかったと思ったので、そのまま本編に残しました。