この世界は絶望しか見えない。それでも救うべきなのか? 身寄りを亡くし、自身の生きる希望を失いかけていた女子高生が “信じてくれた人達のため”という想いと“こんな世界終わっちゃえばいい”という感情に戸惑いながらも世界を救うために奔走する。映画『世界の終わりから』は紀里谷和明監督が企画から脚本、編集までこなし、孤独と絶望に満ちた世界を必死に生きる主人公の葛藤を描いています。公開を前に、この作品で最後と言い切る紀里谷監督にインタビューを敢行。テーマに対する思いやキャストへの演出について語ってもらいました。(取材・文/ほりきみき)

『CASSHERN』で問いかけたメッセージの帰結

──バルト9で行われた特別試写会で拝見しました。映像と音による没入感が素晴らしく、生きる希望を失っていた一人の女子高生が世界を救うために奔走する壮大な物語に引き込まれました。まずは企画のきっかけからお聞かせください。

この作品の前に「新世界」という別の企画を進めていました。世界が混沌としていて、先行きがわからず、不安な状態であることをテーマにしていたのですが、諸事情から暗礁に乗り上げました。しかし、映画を作るという話だけは残ったので、まったく違う切り口から作ってみたいと思ったのです。

紀里谷和明監督

──監督のデビュー作である『CASSHERN』(2004)、そして『GOEMON』(2009)、『ラスト・ナイツ』(2015)にも通じるテーマですね。

僕は世界で起き続ける不条理について常に考え続けてきました。

20年前に『CASSHERN』を撮った頃は僕の中にまだ希望がありましたが、今は絶望しかありません。それはオーディエンスの方々の多くも同じだと思います。僕がTwitter上のアンケートで、心のどこかで世界が終わればいいと思ったことがあるかどうかを聞いたところ、65%がイエスだったのです。日本だけ切り取っても、それくらい今の世界は絶望が支配している。あってはならないことですが、事実です。そこに目を向けないまま、この何十年かをやってきたので、一度ちゃんと向き合わなくてはいけないということが僕の中にありました。

この作品は『CASSHERN』で問いかけたメッセージの帰結みたいなもの。あの時に出せなかった答えに20年掛けてやっと辿り着きました。

──監督はTwitterで「みなさんはこの世界好きですか?」とも聞かれていますが、61.3%の人が好きと答えていました。

そこに希望があるのです。この作品は絶望と孤独、希望の話。人は世界を愛しているのに、世界は残酷。いまだにウクライナの戦争が終わっていません。シリア、アフガニスタン、コソボ、イラクと遡っていけばキリがない。戦争は常に行われ続けてきました。そこに議論の余地はありません。ではどうするのか。僕、個人としては、人間にどれだけの存在価値があるのかという疑問を呈さなくてはならない。このスケールでこのテーマを扱って、ここまで言い切っている作品は他にはないと思います。

──監督の中で答えが出ていたということですが、脚本執筆はスムーズにできたのでしょうか。

脚本のタタキは1ヶ月半くらいで出来上がりました。僕が何十年もかかって辿り着いた答えなので、哲学的、思想的なことに関しては澱みなく出てくるのです。

私が初めて脚本を書いたのは20年前の『CASSHERN』でした。それまで脚本を書いたことも、読んだこともなかったので、今、振り返ると稚拙な文が多分にある。それに対する批判は正しいと思います。

しかし、『CASSHERN』の後、すぐにアメリカのエージェント全社からオファーがあり、その中の一社と契約したところ、毎日のように脚本が送られてきたのです。みなさんがご存知の作品の脚本も読みました。年間で100本以上読んでいたと思います。そこから脚本の勉強をし、ワークショップにも通いました。技術的なレベルは『CASSHERN』のときより格段に上がっています。この作品はすごくわかりやすい4幕構成にし、きっちり30分、30分、30分、最後だけ45分でまとめました。

──物語やキャラクターに関してはいかがでしょうか。

キャラクターに関しては、最初に勝気な女子高生が思い浮かび、頭の中でその子で追っ掛けていきましたが、何かが違った。創作のエンターテインメントの中ならいるかもしれませんが、実際にはそんな勝気な子はいない。僕が物語を面白くしようと思ったから勝気にしていたことに気がついたのです。その途端、志門ハナという全く別人格が思い浮かびました。今度はハナを追い掛けていったら、他のキャラクターがどんどん出てきたのです。それくらいキャラクターたちが語りかけてくれたんだと思います。いくら頭の中で、ああしようこうしようと考えてもダメ。所詮キャラクターたちに書かされるものなのです。主人公のハナに感謝です。

子どもって残酷な部分もありますが、本来はみんな優しい。優しいが故に搾取されてしまう。搾取という意味もわからない子もいる。そういう子たちが現代社会の中でどうなっていくのか。そこを描いています。

画像: ハナ(伊東蒼)

ハナ(伊東蒼)

──ヤングケアラー、貧困、SNSによる個人情報の流出など現代社会が抱えるさまざまな問題点がハナにのしかかってきます。若い世代は何処かしら共感できることがあると思いました。

出来上がった作品を見て、もっとわかりやすく表現してもよかったかなと思ったところはあります。例えば、ハナのおばあさんが亡くなり、看護師が帰るときに優しい言葉を掛けますが、請求書を渡す場面も入れるとか、バイト先でセクハラを受けたり、クビになったりとか。しかし、それはエンターテイメントとして盛り上げるための映画のロジックでもある。僕の嫌らしい気持ちが入ってしまうことになりますし、わかりやすくしてしまうとキャラクターを限定してしまいます。

作っているときになるべく志門ハナというキャラクターを掘り下げすぎないように気を付けていました。ハナがどこで生まれ、どう育ったのか。具体的なことは描かず、できるだけ多くの人を感じながら作っていきました。それで正解だったと思います。

This article is a sponsored article by
''.