必然的だった池松壮亮のキャスティング
──池松さんはいかがでしたか。
映画祭で会ったり、彼が出た『宮本から君へ』を見たりして、すごいなと思っていたので、「池松くんと寛一郎くんのバディっていいんじゃないですか」とプロデューサーの原田さんから提案があったとき、すぐさま、いいねと返しました。彼は個人的に池松くんと仲が良かったのですね。池松くんのキャスティングは原田さんと僕が企画を煮詰めていく中で必然的に出たことです。
大人びているという言い方は変ですが、彼はすごく知識欲があるし、これから先、自分がどういう風な俳優を目指していくのか、どういう高みに行きたいのかという意識が強い。この時代の資料を渡して解釈を深めてもらいましたが、しっかり読み込んでいましたし、なんたって、あの衣装を着て、待ち時間にドストエフスキーの「地下室の手記」について、寛一郎くんと話しているんです。これから積み重ねていくにあたって何が栄養分として必要なのか。自分で発見して、それを吸収していっているんだなと思いました。
しかも、この作品では僕が何をしようとしているのかを感じ取ってくれているような気がしました。監督のポジションにもなれる子じゃないですかね。僕と原田さんがこの作品で具体的に何を狙ってモノ作りをしていて、どういう結果を目指しているのかというビジョンに感銘を受けて、出演してくれたと思うのです。そうじゃなければ、ケツをまくってウンチをするのなんてできませんよ。まぁ恥ずかしいと言っていましたけれどね(笑)。この作品のために何かしようと作品そのものに乗っかってくれました。
──声を出せなくなったことで子どもたちに字を教えることを躊躇うおきくに孝順和尚が「役割は役を割ると書く。できないことはできる者がすればいい」と説得していました。「役割は役を割ると書く」という解釈は思いもつかなかったので、できないことはできる者がすればいいというセリフが心に響きました。これは監督が日頃から考えていることなのでしょうか。
俺は結構、言葉遊びが好きで、「この言葉にきっと語源があるんだな」とか、普段から考えているんです。「俳優というのは人にあらず、人を憂うと書くな」とか、自分なりに分析しているんです。
──最後にひとことお願いいたします。
社会的テーマを掲げて、そこだけをアピールして人々を啓蒙するような作品は僕には作れません。映画として、江戸を舞台とした若者たちの自由への渇望を描きました。武家にはなれないけれど、叶えたい夢を持ちながら、社会に喧嘩を売りつつ、決して諦めずに、それぞれの将来を追求していく。そういう映画として感動してもらえればと思います。その結果、“これは江戸時代の話ではなくて、今、受け取るべき内容が含まれているんだ”と気づいてもらえるであろうことを期待しています。
PROFILE
脚本・監督: 阪本順治
1958 年、大阪府出身。大学在学中より石井聰亙(現:岳龍)監督の現場にスタッフとして参加。1989 年、赤井英和主演『どついたるねん』で監督デビューし、ブルーリボン賞作品賞など数々の映画賞を受賞。藤山直美主演『顔』(2000)では、日本アカデミー賞最優秀監督賞、キネマ旬報日本映画ベスト・テン1位など主要映画賞を総なめにした。
【その他の監督作】
『KT』(2002)、『亡国のイージス』(2005)、『魂萌え!』(2007)、『闇の子供たち』(2008)、『座頭市 THE LAST』(2010)、『大鹿村騒動記』(2011)、『北のカナリアたち』(2012)、『人類資金』(2013)、『団地』(2016)、『エルネスト』(2017)、『半世界』(2019)、『一度も撃ってません』(2020)、『弟とアンドロイドと僕』(2022)、『冬薔薇(ふゆそうび)』(2022)
『せかいのおきく』
2023年4月28日(金)GW全国公開
<STORY>
22歳のおきくは、武家育ちでありながら今は貧乏長屋で父と二人暮らし。毎朝、便所の肥やしを汲んで狭い路地を駆ける中次のことをずっと知っている。ある時、喉を切られて声を失ったおきくは、それでも子供に文字を教える決意をする。雪の降りそうな寒い朝。やっとの思いで中次の家にたどり着いたおきくは、身振り手振りで、精一杯に気持ちを伝えるのだった。
江戸末期、東京の片隅。おきくや長屋の住人たちは、貧しいながらも生き生きと日々の暮らしを営む。そんな彼らの糞尿を売り買いする中次と矢亮もまた、くさい汚いと罵られながら、いつか読み書きを覚えて世の中を変えてみたいと、希望を捨てない。お金もモノもないけれど、人と繋がることをおそれずに、前を向いて生きていく。そう、この「せかい」には果てなどないのだ。
出演:黒木華 寛一郎 池松壮亮 眞木蔵人
佐藤浩市 石橋蓮司
脚本・監督:阪本順治
企画・プロデューサー:原田満生
音楽:安川午朗
撮影:笠松則通
照明:杉本崇
録音:志満順一
美術:原田満生
装飾:極並浩史
小道具:井上充
編集:早野亮
VFX:西尾健太郎
衣装:大塚満
配給:東京テアトル/U-NEXT/リトルモア
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