壮大な世界観を映画の尺でどう描くか
──本作は星矢が聖闘士になるまでの道のりが描かれています。監督が脚本の再構築をされたそうですが、「聖闘士星矢」という壮大な物語を2時間という尺の脚本に落とし込んでいく上で苦労したのはどんなところでしょうか。
僕の最大の決断は「聖闘士星矢」を知らない方にその壮大な世界観をどう見せるのかということでした。ファンのための作品であれば基本的な設定の説明を省くことができますが、ご存じない方にはキャラクターだけでなく、原作コミックやアニメーションが紡いできた様々なエピソードによるストーリーラインを説明しなくてはなりません。しかし映画は2時間という時間制限がある。そこで、本作は星矢中心の物語にしました。星矢の旅路を描きながら、小宇宙(コスモ)や聖域(サンクチュアリ)とは何を意味し、作品の世界で生じている軋轢は何なのかといったことを散りばめました。
──原作に出てくるグラード財団の城戸光政をアルマン・キドとヴァンダー・グラードの2つのキャラクターに分け、アテナの生まれ変わりであるシエナの父と母の役割を持たせたのはどうしてでしょうか。
城戸光政をアルマン・キドとヴァンダー・グラードの2つのキャラクターに分けたことで、人や世界の二面性という大きなコンセプトを具現化したつもりです。この二面性は「聖闘士星矢」のアニメーションにもあり、二面性の対立やその間に起こる軋轢を描きました。
では、その二面性とは何なのか。1つが小宇宙(コスモ)や自分の中に内在するスピリチュアルな世界。それに対峙するものとして、テクノロジーや荒涼とした世界がある。グラードは女神アテナの力、聖域(サンクチュアリ)を人類に対する脅威と捉えて、キドは内在するスピリチュアリティを信じています。その二面性を設定だけでなく、環境においても可視化しました。例えば、星矢とキドがいるところはギリシア神話に寄り添い、有機的でナチュラルですが、グラードの周りはテクノロジーが詰まっていて、デザインが角ばっています。また、この二面性はどのキャラクターにも反映されていて、それぞれに葛藤がある。作品に通底するテーマです。