描いたのは内面的に自由であることの大切さ
──大学で原子力工学を学ぶ、内気なサロールとアダルトグッズ・ショップのオーナーであるカティアという歳の離れた女性2人のシスターフッドの物語を思いついたきっかけから教えてください。
モンゴルはソ連に続き、世界で2番目に社会主義国となりましたが、1990年に民主化を行い、閉鎖的だった社会は一気にオープンになりました。しかし性にまつわることはまだまだオープンになっていません。そんな中、2017年にイタリアに行ったとき、アダルトショップを見たのです。まるでコンビニのように人目を気にせず入れるようになっていたことに驚きました。その時から、誰もが経験する“性”をフックに、内面的に自由であることの大切さを描いた作品を撮りたいと思っていました。
歳の離れた女性2人のシスターフッドの物語にしたのは、自分の若い頃がサロール、未来がカティアとしてイメージが浮かんだのです。主人公を女性にしたのは、男性よりも女性の方が内面的な世界の表現が巧みだからです。
──サロールが性に目覚めていく過程を微笑ましく描いています。その辺りの微妙な気持ちを脚本にするのは男性である監督には難しかったのではありませんか。
確かに女性の内面は私にとって永遠の謎。いろいろ調べてみましたが、いまだによくわかりません。アートの頂にあるのは女性ではないかと思っています。
──サロールだけでなく、カティアもサロールの影響を受けて変わっていきますね。
カティアは自由に生きているようで、実は過去に縛られています。サロールと時間を共有していくうちに本来、サロールに人生を教える立場であるはずですが、結果としてサロールから教わるという関係になっていきます。
私の父親はモンゴルで有名な俳優ジャンチブドルジです。私にとって芸能界はとても近い世界で、芸能人の晩年がどんなものであるのか、よく知っていました。カティアが若い頃、バレエダンサーだったという設定にしたのはその影響で、もしかするとカティアの姿には私の父親が投影されているかもしれません。
──サロールの男友達のトブドルジは人生を決めきれずにいます。監督の若い頃を投影しているのでしょうか。
トブドルジは私ではなく、モンゴルの都会に多くいる、イマドキの若者です。私が住んでいるアパートの前にも彼のような若者が何人もいますが、親の期待が大きく、自分が何をしたいのかがわからず、もがいています。トブドルジはこの作品の中で唯一、モンゴルの社会性が見えてくるところ。今の若い子が抱える問題を反映させ、彼らの象徴として描きました。