演技の幅と醸し出す寛容さがにじみ出たフランソワ・クリュゼ
──施設長ロレンゾを演じたフランソワ・クリュゼについてもお聞かせください。
フランソワとは助監督時代に仕事をしたことがあるのですが、今回、彼の方から電話をくれ、「なぜ誘ってくれないのか」と言われました。「主演ではないからだ」と答えると、「役には主役も脇役もない。あるのは偉大な映画だけ。僕が出たいのは君の作る映画だ」と言ってくれたのです。とても感動しました。
ロレンゾはフランスの現代社会の問題に深く関わっている人物です。ロレンゾがとても傷つきやすい人物であることを伝えた上で、フランス社会における移民の受け入れ拒絶などの問題について、フランソワとよく話し合いました。
ジブリルが施設を抜け出してショッピングモールで見つかったシーンは素晴らしかったですね。社会から排除され、身も心も傷ついた彼がロレンゾと話すことで人間的な側面を取り戻す感動的なシーンですが、演技の幅と醸し出す寛容さがにじみ出ていました。
──フランソワ・クリュゼが撮影現場でケガをされたそうですね。
撮影の初日にファーストカットを撮っているとき、アキレス腱を痛めてしまったのです。フランソワからは降板の申し出がありましたが、脚本を一部書き直し、撮影スケジュールを組み直して、そのまま出演してもらいました。フランソワが『最強のふたり』(2011)で見せた傷つきやすく脆い側面をうまく出してくれたと思います。ロレンゾという役どころにより深みを加えることができました。
──施設で暮らす少年たちは実際にパリの移民施設に暮らす若者たちとのことですが、どのようにキャスティングされたのでしょうか。演技の経験のない少年たちへの演出は難しかったのではありませんか。
移民役の少年はオーディションで選びました。キャスティング・ディレクターが300人以上の少年のインタビュー映像を撮り、それを見て100人ほど選んで実際に会い、最終的には40人を選びました。その中にギュスギュスとジブリル、ママドゥ役の候補が数人ずついたのです。撮影を進めながら、最終的に誰がその3人を演じるか、決まっていきました。
移民役の少年たちには本物らしさを追求するために、あえてシナリオを渡していません。撮影は脚本通りに行い、ベテラン俳優のオドレイやフランソワが彼らから自然な演技を引き出していったのです。映画の中の彼らの感情表現は本物です。映画を見れば感じていただけると思います。
──本作を通じて、伝えたいメッセージについてお聞かせください。
移民の若者たちが安定した生活を送るにはどうしたらいいのか。フランスには有益な解決策や教育の機会はありますが、彼らが知らないだけ。それをこの作品で描き、学ぶ意欲のある若者がCAP(職業適性能力資格)を手に入れることを願っています。
<PROFILE>
ルイ=ジュリアン・プティ
1983年9月6日、英国・ソールズベリー生まれ。2004年にESRA(École Supérieure de RéalisationAudiovisuelle)を卒業後、リュック・ベッソンなど著名な監督のもとで、約30本ものフランス映画や国際的な長編映画で助監督を務める。いくつかの短編映画を手掛けた後、2013年に『Discout』でアングレーム映画祭ヴァロワ賞を受賞。食料廃棄を告発し、予告編で得た広告収入をレスト・デュ・クール協会に寄付した。2019年にはホームレス女性のための受け入れセンターの日常を描いた『社会の片隅で』を発表し、フランスで130万人を超える動員を記録し大成功を収めた。
『ウィ、シェフ!』5月5日(金・祝)全国公開
<STORY>
一流レストランのスーシェフとして働くカティの夢は自分のレストランを開くこと。だが、シェフと大喧嘩して店を飛び出し、ようやく見つけた仕事は移民の少年たちが暮らす自立支援施設だった。質より量、まともな食材も器材すらない。不満をぶつけるカティに施設長のロレンゾは少年たちを料理アシスタントにすることを提案した。フランス語がちょっと苦手な少年たちと、天涯孤独で人づきあいが苦手なカティ。料理が繋げた絆は少年たちの未来だけでなく、一匹狼だったカティの人生も変えていく。
監督:ルイ=ジュリアン・プティ
脚本:ルイ=ジュリアン・プティ、リザ・ベンギーギ・デュケンヌ、ソフィー・ベンサドゥン
出演:オドレイ・ラミー、フランソワ・クリュゼ、シャンタル・ヌーヴィル、ファトゥ・キャバ、ヤニック・カロンボ、アマドゥ・バー、ママドゥ・コイタ、アルファ・バリー、ヤダフ・アウェル、ブバカール・バルデ
原題:LA BRIGADE
配給:アルバトロス・フィルム
2023年5月5日(金・祝)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
© Odyssee Pictures - Apollo Films Distribution - France 3 Cinéma -Pictanovo - Elemiah- Charlie Films 2022