18世紀後半、未曾有の大飢饉に苦しむ東北で村社会の閉鎖性、集団による同調圧力、身分や性別における格差といった現代にも通じる社会問題に抑圧され続けた女性が、自らの意思で人生を選び取り、前に進み始める。山田杏奈主演『山女』は「遠野物語」に着想を得た福永壮志監督のオリジナル作品です。なぜ、遠野物語だったのか、主人公・凛に山田杏奈をキャスティングした決め手、撮影で大事にしたのはどんなことだったのか。福永監督に語っていただきました。(取材・文/ほりきみき)

闇を恐れずに撮る

──撮影はダニエル・サティノフさんですが、昔の日本の物語の撮影を海外の方にお願いしようと思ったのはなぜでしょうか。

アメリカでは撮影監督が照明も含めて、トップダウンでオーダーを出す撮影監督システムが取られています。僕にとってはその形がやりやすいことや、何かしらの驚きを求めての人選であって、日本のカメラマンとは絶対に組まないというわけではありません。

また、全然違うバックグラウンドや物の見方をする人間が集まって作ることで、面白いものができるのではないかと思っているというのもあります。

照明技師の宮西(孝明)さんはベテランの方ですが、穏やかで柔軟性もあり、ダニエルとはとてもいいペアだったと思います。ダニエルは「TOKYO VICE」をシーズン1から撮っていますが、この作品をきかっけに、シーズン2では宮西さんが照明として参加していました。

画像: 闇を恐れずに撮る

──捕らわれた凛のところに、父親が夜陰に紛れてやってきたシーンは父親の後ろに月があり、父親を演じていた永瀬正敏さんの顔が真っ暗で全く見えませんでした。

当時は昼間でも家の中は暗かったはず。そういう暗さをちゃんと出すことがリアリティに繋がるのではないか。ダニエルとは撮影に入る前に「闇を恐れないようにしよう」と話し合いました。

あのシーンも最初から顔を映さずに撮りましょうといったのではありません。撮影中に僕もフレームを見て、表情がまったく見えないと思ったのですが、月明りは後ろからきているので、現実であればあの場所で彼の顔が見えないのは当然。それまでの画作りからは自然な流れでしたし、永瀬さんは声のトーンだけでも感情が伝わってくるので、ここはこれでいいと思いました。

力強い演技をしてくださった永瀬さんがいて、ダニエルも闇を恐れずに撮ってくれた。いろいろな相乗効果の結果、あのシーンができました。

──本作を撮影したことで、監督の中で何か心境的な変化はありましたか。

何かしらの影響はあったと思いますが、今の段階で明確に自分の中に意識していることはありません。まだ旅の途中というか、変わったと思うときはいつかくるのだろうかという感じです。ルーツに限定することなく、自分がそのときに撮りたいと思ったものをテーマに、これからも常に何かを求めて作っていくと思います。

<PROFILE>
監督:福永壮志

初長編映画『リベリアの白い血』が15年のベルリン国際映画祭パノラマ部門に正式出品、ロサンゼルス映画祭で最高賞受賞、16年のインディペンデント・スピリットアワードでジョン・カサヴェテス賞にノミネートする。長編二作目の『アイヌモシㇼ』は、20年のトライベッカ映画祭の国際ナラティブ・コンペティション部門で審査員特別賞、グアナファト国際映画祭で最優秀作品賞を受賞。本作『山女』が長編三作目となる。近年では、米ドラマシリーズ『SHOGUN』の7話、『TOKYO VICE2』の5話、6話の監督を務める。

『山女』6月30日(金)より全国順次公開

画像: 映画『山女』本予告|6月30日(金)全国順次公開 www.youtube.com

映画『山女』本予告|6月30日(金)全国順次公開

www.youtube.com

<STORY>
未曾有の大飢饉に襲われた18世紀後半、先々代が起こした火事の責任から、凛の一家は村人から蔑まれ、疎まれていた。凜は間引きされた赤ん坊を川に捨てる役目を、父親の伊兵衛は死体の埋葬という誰もが忌み嫌う仕事を引き受けて、何とか生きている。
ある日、飢えに耐え切れなくなった伊兵衛が事件を起こす。凜はその罪を被って、自ら村を去り、決して足を踏み入れてはいけないとされる山奥に入っていく。そこで山男と出会い、凛は魂を解き放っていくのだが…。

『山女』
監督:福永壮志
脚本:福永壮志、長田育恵
出演:山田杏奈、森山未來、二ノ宮隆太郎、三浦透子、山中崇、川瀬陽太、赤堀雅秋、白川和子、品川徹、でんでん、永瀬正敏
2022年/日本・アメリカ/98分/カラー/シネマスコープ/5.1ch
配給:アニモプロデュース
©YAMAONNA FILM COMMITTEE
公式サイト:https://yamaonna-movie.com/
2023年6月30日(金)より全国順次公開

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