梶芽衣子主演作品の影響を受けた『マッド・ハイジ』
──世界中で愛されている「アルプスの少女ハイジ」を大胆にアレンジして、R18+指定のエログロバイオレンス描写を満載にしたエクスプロイテーション映画にしたのはなぜでしょうか。
サンドロ・クロプシュタイン監督(以下、サンドロ)「ジャンル映画はハリウッドに行かないと撮れないと思われています。しかし、スイスには歴史的にも風景にもいろいろあるのだから、他では撮れない、スイスならではのものが撮れるはず。しかもスイスではエクスプロイテーション映画が1つも作られていません。それならば、自分たちでエクスプロイテーション映画を撮ってみたい。そこから発想が始まりました。
では、テーマは何にするか。スイスといえばチョコレート、チーズ、超精密な高級腕時計、スイスアーミー御用達の十徳ナイフを思い浮かべるでしょう。しかし、それらをすべてひっくるめても「ハイジ」には敵いません。僕たちはジャンル映画の中でも特にホラーやファンタジーが好きですが、日本のアニメ「アルプスの少女ハイジ」のファンでもあります。そこでハイジの B 級エログロバイオレンスバージョンを作って、スイス映画史上初のエクスプロイテーション映画にすることを思いついたのです」
──日本のTVアニメ「アルプスの少女ハイジ」のファンなのですね。
サンドロ「僕は『アルプスの少女ハイジ』がスイス人作家ヨハンナ・シュピリの児童書と知るよりも前に日本のアニメを見ていました。ですから、僕にとって『アルプスの少女ハイジ』といえば、日本のアニメのことです。僕たちが描いたハイジは好奇心旺盛で、天真爛漫。しかもポジティブですから、アニメのハイジに似ていますよね(笑)。それをベースにして、僕たちのハイジは 24 歳の大人の女性に成長します。そして、いろんなことが起こり、恋人や家族、そして自らの尊厳を奪われた憤怒と怨念がハイジを血塗られた戦士へと変貌させたという“戦うハイジ”にしました」
ヨハネス・ハートマン監督(以下、ヨハネス)「僕もサンドロと同じです。多分、スイスのほとんどの子どもが日本のアニメでハイジを知るんじゃないかな。しかも、まさか、あのアニメが日本の作品だとは思ってもみないでしょう。というのも、みんなドイツ語の吹替版を見て育ってきたのです。僕が日本のアニメ『アルプスの少女ハイジ』を好きなのは女性が主人公でかっこいいから。僕たちはその主人公をそのまま成長させたものにしました」
──日本のアニメ「アルプスの少女ハイジ」にどのような影響を受けていますか。
サンドロ「この作品では制約を設けないで、遊び心を持ってアプローチし、自分たちにとってしっくりくる、自分たちらしい脚本を作っていきました。ただ、大人になったハイジとぺーターの関係がどうなっているか。そこはみなさんの期待に応えて、サービスしています」
ヨハネス「原作の設定ではクララはドイツ人ですが、アニメを知っている人に『あっ!』と思ってもらえるよう、日本人の女性をキャスティングするというアイデアもありました。最終的にアルマル・G・佐藤にお願いしましたが、彼女は日本人とスペイン人のハーフで日本語を流暢に話します」
──他の作品で参考にしたものはありましたか?
サンドロ「クエンティン・タランティーノ監督の作品は『キル・ビル』はもちろん、他の作品も参考にしています」
ヨハネス「ほかにも、ディストピアな未来を描いた『マッドマックス』(1979)、女性受刑者を描いたアメリカの「Black Mama, White Mama」や梶芽衣子主演の『女囚さそり』シリーズ、マーシャルアーツ映画や『少林寺三十六房 』のような伝説的な香港のスタジオショウ・ブラザースによるカンフー映画、そしてパム・グリア主演の『コフィー』(1973)や梶芽衣子主演の『修羅雪姫』(1973)といった女性リベンジものに触発されました。見てすぐにわかるものと、ちょっと隠れた、映画フリークにしかわからないものがあると思います」