〜今月の3人〜
土屋好生
映画評論家。『無防備都市』(1945)『戦火のかなた』(1949)…タヴィアーニ兄弟の原点ともいえる名画の数々。もう一度見たくなりました。
斉藤博昭
映画ライター。「ハリポタ」スタジオツアー東京を訪問。大広間など細部まで完璧に再現され、撮影時のセット取材の記憶が一瞬で甦った。
まつかわゆま
シネマアナリスト。FM川口カレイドシアターは第2第4週の木曜日1:20からに変更になりました。YouTubeもあり。
土屋好生 オススメ作品
『遺灰は語る』
ノーベル賞作家ピランデッロの遺灰の旅に様々な意味あいと固い決意を込めた作品
評価点:演出4/演技4/脚本4/映像5/音楽4
あらすじ・概要
タヴィアーニ兄弟の映画「カオス・シチリア物語」の原作者であるピランデッロ。彼が残した遺言に従って生誕の地シチリア島への遺灰の旅が始まる。果たしてトラブルもなく目的地にたどりつけるかどうか。
冒頭に登場するイタリアのノーベル賞作家ピランデッロの「死の床」の映像にまず圧倒される。「私は死んだのか?」とささやくピランデッロと思しき声。黒白のコントラストが目に焼き付くモノクロの映像は紛れもなくネオリアリズモの映像美の世界に通じるものがある。
実際この映画でも断片的に引用されるロッセリーニの『戦火のかなた』(1949)はもちろんのこと、やがてはピランデッロ生誕の地シチリアを描いた『カオス・シチリア物語』(1984)へと収斂していく。
それを「シチリアへの旅」という軽い言葉で締めくくるのではなくピランデッロ個人の「遺灰を故郷に」という強い思いを込めた言葉を遺言として残したところに並々ならぬ決意のほどがうかがえる。
これは今は亡きタヴィアーニ兄弟の兄ヴィットリオへの弟パオロからの追悼の旅であり、それは戦後ネオリアリズモ映画の旅であり、さらに激動のイタリア現代史への旅でもあるのだ。
終幕に登場するコバルトブルーの海。その海を通してわれわれがこのカオスの世界に生きる意味を問いかけてくる。
公開中/ムヴィオラ配給
© Umberto Montiroll
斉藤博昭 オススメ作品
『CLOSE/クロース』
監督が後悔の念を込めて自ら書いた脚本のせいか主人公の心情が全編通じて心に刺さる
評価点:演出4/演技5/脚本5/映像5/音楽4
あらすじ・概要
家族同士も仲の良い幼なじみのレオとレミだが、中学に入学すると、その親密な関係を周囲にからかわれる。やがてレオはレミを意識的に遠ざけるようになるが、ある日、取り返しのつかない悲劇が訪れる。
とにかくその人と一緒にいる時間が、シンプルにうれしい。それが僕たちの日常だった。その感情が友情なのか、何なのか。13歳の少年には、そんなことどうでも良かった。
でも2人の関係が“特殊”だと批判されれば、自分の心に嘘をついても、周囲になじもうとする。それもまた、13歳である。
ルーカス・ドン監督が自身の経験に後悔も込めて脚本を書いたためか、主人公レオの心情は全編を通して心に突き刺さってくる。自分の素直な感情や相手への慈しみがいかに人生で大切か……。
それを大人になって映画で訴えかける。監督の使命感が凝縮され、2人の少年も瞳で訴える奇跡の演技をみせ、傑作は生み出された。
冷静に物語をたどれば悲劇。でも観た後に脳裏から離れないのは、柔らかで美しい映像の数々だ。冒頭、2人が走る花畑。優しい夕方の光に照らされた、いくつもの花の色。そして終盤、室内のレオを照らす外光。
監督の少年時代への贖罪の光であり、同じ悩みや苦しみを経験する世界中の子供たちへ、未来を示す灯のようでもある。
公開中/クロックワークス、STAR CHANNEL MOVIES配給
© Menuet / Djaphana Films / Topkapi Films / Versus Production 2022
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まつかわゆま オススメ作品
『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』
インディ最後の冒険にシリーズおなじみメンバーも大集合で盛り上がる!
評価点:演出4/演技5/脚本4/映像5/音楽4
あらすじ・概要
1969年、引退を迎えたインディのもとに旧友の娘ヘレナがやって来て“アルキメデスのダイヤル”を探そうと持ち掛けるが、そのお宝はナチの残党も狙っていて、インディは冒険の旅に!
第一作から42年。80歳になるハリソン・フォード最後のインディ?! 冗談でしょと思った。が、本気なら、最後まで見届けましょうと腹をくくって観た。面白かった。満足した。
登場シーンは第一作と同時期の第二次世界大戦下。ナチス軍服の男がかぶせられた袋を取られると、うぉっ、インディやん! 頭ン中で鳴り響くテーマ曲! 一気に気分は1981年レイダース。
と、旧作へのオマージュたっぷりに40年来のファン心をくすぐりつつ、過去を掘る考古学者はもう流行らないと言いたげに1969年アポロ月面到着に沸くベトナム戦争中のアメリカから、“運命のダイヤル”を巡る、世界冒険の旅が始まる。
シリーズのキモである活劇の面白さを生かしつつも、善悪不明な時代、金を幸せの基準にする若者の時代、つまり今、を反映させつつ、インディは何のために命を懸けるのか。「過去を学ばない者は過ちを繰り返す」が今回のテーマ、なのだな。
公開中/ウォルト・ディズニー・ジャパン配給
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