日本公開のインド映画の興収記録を更新した『RRR』(2022)。本作だけなく、世界中でインド映画への注目は高まるばかり!今観たい話題作の紹介に合わせて、その面白さに迫ります。(文・高倉嘉男/デジタル編集・スクリーン編集部)

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インド映画入門! インド映画はなぜ面白い?

面白さのヒミツ1:世界一映画好きな国民に愛されるインド映画!

しばしば「世界一の映画大国」と呼ばれるインド。その第一の根拠は年間製作本数の多さだ。しかしながら、それは本質的な理由ではない。1895年にフランスで発明された映画は、元々物語好きで、五感に直接訴える舞踊劇に親しんできたインド人の国民性に合致し、広く愛されるようになった。

多くのインド人にとって、映画は幼少時から生活の一部、人生の一部だ。新作は毎週公開され、話題作ともなればお祭り騒ぎになるし、公共空間は大音量の映画音楽で満たされ、メディアは映画界のニュースをこぞって報道する。スターは神のように敬われ、寺院が建つことまである。インドの日常生活は映画の情報で満たされ、映画は人々を憧れの異世界に誘う。

画像: チェンナイの映画館 Photo by Getty Images

チェンナイの映画館

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作り手側も、旺盛なサービス精神と共に観客第一の映画作りをする。インド映画は、商業映画という自身の立ち位置を忘れておらず、「映画は映画館で観るもの」という映画館至上主義を頑なに守り続けている。

世界中で映画が「娯楽の王様」の地位から陥落して久しい中、インド映画は世界一映画好きな国民から愛され続ける幸せを享受している。

これが、インドが「世界一の映画大国」である最大の理由であり、インド映画の面白さの秘密である。

面白さのヒミツ2:国内で切磋琢磨、各地で特色ある映画作り

インド映画はハリウッド映画に唯一対抗できる存在だとされる。全世界において、ハリウッド映画全体の観客動員数よりも、インド映画全体の観客動員数の方が多いという統計まである。

近年ではハリウッド映画のインド市場進出も進んでおり、インドの映画製作者は危機感を感じ始めている。それでも、依然としてインドの自国映画占有率は9割前後を維持し、まだまだ国産映画の人気が圧倒的だ。そもそも彼らはハリウッド映画を差し迫ったライバルとは捉えていない。

言語ごと、地域ごとに独立しているインドの映画産業は、単に言語や地域が異なるだけでなく、それぞれ特色のある映画作りをしている。ほんの一例だが、最大市場を抱え、都会的でユニバーサルな映画作りを得意とするヒンディー語映画、徹底的な娯楽路線を貫き、血生臭い抗争を暴力的に描くのを好むテルグ語映画、低予算ながら脚本重視の映画作りに定評のあるマラヤーラム語映画などなどである。

これらの各映画産業が相互にライバル関係にあるといってよく、切磋琢磨し影響を与え合い、時に人材交流や助け合いもしながら、より優れた映画を送り出そうと努力している。このダイナミズムこそがインド映画のパワーの源泉である。

面白さのヒミツ3:インド映画最大の武器「歌と踊り」!

インドにおいて大衆娯楽映画の製作者たちは、映画館で楽しんでもらうためだけに映画を作っている。これは当然のことと思われるかもしれないが、他国では映画館以外での映画の消費も考慮しているとされ、インド映画のユニークな点に数えていい。

視界いっぱいに広がる巨大スクリーンと立体的な大音響、そしてノリノリの観客が揃った場での鑑賞体験だけを念頭に作られるインド映画が最大の武器とするのがダンスシーンだ。

世界の流行とインド音楽を混ぜ合わせた音楽、14億人の人口を総動員したかのような大人数での群舞、めくるめく万華鏡のような色彩、そして中心で踊るスターたちの超絶ダンス。インドの娯楽映画には必ずといっていいほどそんな豪華絢爛なダンスシーンが差し挟まれ、観客を魅了する。

映画館が最高潮に盛り上がるのも歌と踊りのシーンだ。近年は、歌曲がBGMとして流れる、ダンスを伴わないソングシーンも増えた。

ソングシーンやダンスシーンは必ずしも唐突に挿入されるわけではない。優れたインド映画では、歌や踊りがストーリーを引き立てる工夫がなされている。歌詞まで吟味して楽しめるようになると、その相乗効果をさらに味わえるようになるだろう。

面白さのヒミツ4:多様性の中の統一性

それぞれ特色があるといっても、インドの各映画産業が全くバラバラというわけでもない。むしろ、インド映画全体を俯瞰すると、そこには共通する特徴も見出せる。

まず挙げられるのは歌重視の映画作りだ。歌には踊りが伴うことが多いが、まずは歌詞付きの音楽を何らかの形で映画に組み込むことを前提にしていることが注目される。そして、ストーリーが歌詞を引き立て、歌詞がストーリーを引き立てる工夫がされている。

スター中心の映画作り、いわゆる「スターシステム」も共通している。特定のスターを念頭に企画が始まり、撮影や編集段階でもスターを引き立てることに全力が費やされる。だからインド映画を観るとついつい主人公に惚れてしまう。

家族重視の価値観もインド映画全体に通底している。時に男女の恋愛よりも家族の絆が優先されるほどだ。

インド映画の世界には、必ずどれかの言語の映画から足を踏み入れることになるが、そこからの楽しみ方は自由だ。同じ言語、同じスターの作品を深掘りするのもよし、他言語のインド映画を見比べるのもよし。インド映画の圧倒的な多様性に気付くと目眩がするが、そこに共通点もあると分かると、それらが探索の心強い羅針盤になるだろう。

面白さのヒミツ5:インド映画の基盤「スターシステム」

画像: 街中にもポスターが Photo by Getty Images

街中にもポスターが

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インド各地の映画界では少数の男性スターが絶対的な権力を握っている。スター中心に映画作りが行われるこの構造は「スターシステム」と呼ばれている。

まず、映画の企画自体がスターを中心に始まる。企画の発案者がスターにプレゼンをし、スターが出演を承諾したところで、プロデューサー、監督、ヒロイン、その他のキャストやスタッフが集められ始める。映画の成否は主演スターの肩ひとつに掛かっている。

スターも、主演作が失敗すると市場価値が下がるので、出演作選びには慎重だし、時に映画の内容に干渉もしながら、プロモーションまで責任を持つ。

映画の中身についても、スターを絶対的なヒーローに祭り上げた脚本にもとづき、スターの魅力を最大限引き出す絵作りが行われ、その一挙手一投足にスポットライトが当たり続ける。

インド映画を観ると主演俳優に自然に惚れ込んでしまうのは、スターが元々持つカリスマ性に加えて、このスターシステムに依存する部分も少なくない。

スターシステムを基盤にしたインド映画を楽しむコツは、ズバリ、素直にスター中心の映画鑑賞をすることだ。推しのスターを作って主演作を観ていくことで、スターの魅力が積算され、インド映画の楽しみは何倍にもなる。

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