少年が事故で亡くなった母親の指を土に埋めて呪文を唱えると、母親は死から蘇った。彼女は異様な執着で次々と恐ろしい現象を起こし、自分にとって不都合な人間を襲う。映画『禁じられた遊び』は清水カルマによる同名小説(ディスカヴァー文庫刊/19)の実写化。W主演を務めるのは橋本環奈と重岡大毅(ジャニーズWEST)。橋本は映像ディレクターとして働く倉沢比呂子を、重岡は突然の事故で妻を亡くした伊原直人を演じた。共演のファーストサマーウイカは2人を追い詰める直人の妻、
最凶蘇り怨霊モンスター“美雪”で強烈なインパクトを残す。映像化に挑んだ中田秀夫監督に作品への思いを語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

何も言わなくても役を理解できている職人気質な橋本環奈

──主人公の倉沢比呂子を橋本環奈さんが演じています。比呂子を演じてもらうにあたり、監督から橋本さんに何を伝えましたか。

ホラーの芝居は表現の幅をかなり大きく、演じている本人が大袈裟に感じるくらいの芝居を要求することがあります。今回は恐怖の対象が美雪という何度も蘇るモンスターですから、橋本さんにはかなり強めでシャープな演技をやってもらおうとスタッフサイドでは話していました。しかし、橋本さんは言わなくても十分わかっていて、魅せてくれたのです。

撮影にはシーンを最初から最後まで撮り切ってしまうアメリカ的手法と、細かくカットを分けて撮っていく、邦画の昔からの手法とがあります。どちらが得意かを橋本さんに聞いたところ、「どちらでも大丈夫です」とさらっと言われました。若いけれどプロフェッショナルな方ですね。職人気質と言えばいいのか、本を一回読めば、役どころがパンと入るみたいなところがありました。

画像: 何も言わなくても役を理解できている職人気質な橋本環奈

──比呂子は過去と現在ではかなり雰囲気が違いますが、橋本さんはしっかり演じ分けていました。

その演じ分けも特に細かく説明をしませんでしたが、ちゃんと演じ分けていました。着ているものが昔と今ではまったく違うことが助けになっていたとは思いますけれど。かつてはフェミニンでガーリーな雰囲気でしたが、今は現場に出て、怖い男性相手にも怯まずにどんどん突撃して取材しなくてはいけませんから、基本的に動きやすさを重視した格好をしています。

──監督から見た橋本さんのここに注目してほしいというシーンはありますか。

映画的にはメインの場面ではありませんが、比呂子と直人が美雪と死闘を繰り広げた後、疲労困憊しながら、直人の家に戻ってきたときの別れ際のシーンが印象に残っています。美雪は比呂子と直人の関係を疑っていましたが、それは勘違い。お互いに淡い恋心を持っていたけれど、何もなかった。そんな2人がモンスター化した美雪をやっつけるために協力し合ったことで、観客は「このままラブモードに行くのか」と期待しますよね。帰ろうとした比呂子を直人が名前で呼んで、比呂子が振り向く。「ここは“呼び止めてくれてありがとう”という気持ちで少し笑顔になれますか」と橋本さんに話したところ、「やってみます」と言ったものの、彼女は、はっきりとは笑わなかった。しかし、すごくいい表情でした。僕が伝えたかたちではないけれど、そこでは何をどう表現すべきかを彼女なりにスッと一瞬にして飲み込んだのです。どんな表情だったのかは、作品をご覧になって確認してください。お見事でしたよ。

──美雪が冒頭シーンで直人の耳元に「もう私を裏切らないでね」と囁きます。美雪の顔は笑っていますが、これから起こることが察せられるほど怖いシーンでした。美雪を演じたファーストサマーウイカさんにはどのような演出をされましたか。

冒頭の家族3人のシーンの撮影のときに「笑顔はここだけですから、しっかり幸せ感を出してください」と伝えました。妻として、母として幸せそうであればあるほど、その後に起きる悲劇が怖く感じるのです。

「もう私を裏切らないでね」というセリフは“この夫婦、浮気絡みで何かあったんだろうな”ということを強く匂わせるものですが、ウイカさんも勘どころのとてもいい方なので、あまり細かく言わなくても、しっかり演じてくださりました。幸せそうにしていたと思ったら、急にふっと無表情で冷たく、ガラスのような目になっていましたからね。

美雪は7年前にも生霊として比呂子の前に現れています。白い服で生霊の怖さをかなりどぎつく表現しましたが、それはJホラーのオーソドックスな幽霊のイメージそのもの。そして蘇ってからのモンスター。その3つのブロックの落差が大きければ大きいほど美雪は怖く印象に残るということも伝えました。

前半の美雪の決め台詞は「私の夫に近づかないで」。比呂子にそっと囁きます。そこもあまり細かいことは言っていません。セリフの意味合いを脚本からちゃんと読み取ってくれていました。

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