最凶蘇り怨霊モンスター“美雪”で強烈なインパクトを残す。映像化に挑んだ中田秀夫監督に作品への思いを語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)
ホラー映画を怖がるのではなく、楽しむ世代が育ってきている
──全体的に斜め下からのアングルが多い気がします。
ホラーは不安感や恐怖感を煽るために、狙いのときに引きの画で俯瞰に入るとき以外は、下から撮ることが割と多いかもしれません。
──音や音楽が怖れに大きな影響を与えているのを感じますが、その辺りについて、いかがでしょうか。
映画は視覚芸術のようですが、音楽のように時間芸術でもあり、“交響曲のよう”といったら大袈裟かもしれませんが、セリフと音楽と効果音が相まって映画のサウンドトラックを形成しています。その3要素の上げ下げで、僕らが願うように、観客のみなさんのエモーションを誘導する。それはどんなジャンルの作品でも重要だと思っています。
その中で、ホラー映画は不安や恐怖のエモーションを煽ることが必要。例えば、先程の「裏切らないでね」のセリフはその前まで聞こえていた蝉の声をすっと消す。そうすることでセリフを強調させました。
夏のロケ現場での撮影は蝉の鳴き声が入りがちです。冒頭の庭はセットで撮影したので、蝉の鳴き声は入りませんが、ここで少し入れておけば、後々どうしても蝉の鳴き声が落とせないところとのバランスが保てます。そういう現実面から最初から入れておくのですが、後から加えたものなので、自由に落とすことができたのです。
──ホラー映画は時代とともに変化してきていると思います。この作品において、それを意識して取り入れたことはありましたか。
僕が若い頃と違い、今の若者たちはハロウィンになると、自分たちでホラー映画やアニメの怖いキャラクターのふん装をして楽しむようになりました。ホラーを怖いものとして遠ざけるのではなく、エンターテインメントの1つとして自分から演じてしまうのです。アクション映画を楽しむように、ホラー映画を楽しむ世代が育ってきているのを感じます。地味にじわっと怖いJホラーとは違うものを要求されているような気がして、この作品というよりも、ここ数作品はそちらに舵を切っています。
“お母さんの指を庭に埋めたら、トカゲの尻尾のように生えて出てきた”という話は言葉にすると笑ってしまうような内容ですが、アメリカのホラーに近い発想です。僕はこうした題材に初めて取り組みました。
恐怖の対象の美雪は生きているときは生霊として主人公の前に現れ、死んでも蘇って、滅ぼしたと思っても、しつこくしつこく蘇りを繰り返すニュータイプのホラーヒロインです。美雪がどのくらい何度も蘇るかといったところに着目して、ご覧いただければと思います。
<PROFILE>
監督:中田秀夫
1961年生まれ、岡山県出身。東京大学卒業後、にっかつ撮影所に入社し、1992年テレビドラマ「本当にあった怖い話」の監督を務め、1996年に『女優霊』で映画監督デビュー。その後監督を務めた『リング』(98)が大ヒットし、ジャパニーズホラーブームを巻き起こした。アメリカでリメイクされた『ザ・リング2』(05)でハリウッド映画監督デビュー。近年の監督作品としては、『スマホを落としただけなのに』(18)、『貞子』(19)、『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』(20)、『事故物件 恐い間取り』(22)、『嘘喰い』(22)、『“それ”がいる森』(22)がある。
『禁じられた遊び』2023年9月8日(金)全国ロードショー
<STORY>
エロイムエッサイム、エロイムエッサイム… その言葉は、最凶の禁忌<タブー>
死者を蘇らせる、「禁断のあそび」が、始まる
「トカゲはね、尻尾が切れても、また生えてくるんだ。」
「本当?じゃあ、この尻尾からまたトカゲが生えてくるの?」
「ああ。土に埋めて、おまじないするとまた生えてくるんだよ。」
微笑ましい親子の日常。庭に響く、少年の唱えるおまじない…それは、他愛ない冗談のはずだった。
が、そんな幸せな日々が一転――家族に悲劇が起きてしまう。
映像ディレクター・倉沢比呂子(橋本環奈)は、かつての同僚である伊原直人(重岡大毅/ジャニーズWEST)の家で、庭の盛り土に向かい、不可解なおまじないを唱え続ける直人の息子・春翔を目撃する。
謎の呪文、トカゲの尻尾、指、白い影、蠢く盛り土、封印された家…
そして彼女の身に異常な現象が起こりはじめる。それは、子どもの純粋な願いによって解き放たれた災いだった。
この庭には、何かがいる。
最凶の禁忌が比呂子と直人に襲いかかる!
果たして、2人はこの迫りくる恐怖から逃れられるのか――?
<STAFF&CAST>
監督:中田秀夫
原作:清水カルマ『禁じられた遊び』(ディスカヴァー文庫)
脚本:杉原憲明
出演:橋本環奈、重岡大毅(ジャニーズWEST)、堀田真由、倉 悠貴、正垣湊都、猪塚健太、新納慎也、MEGUMI、清水ミチコ、長谷川 忍(シソンヌ)、ファーストサマーウイカ
©2023映画『禁じられた遊び』製作委員会