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興行収益とは関係なく好きな映画を撮り続ける姿勢
今も続行中の残虐シーンが強烈なサスペンス「ソウ」シリーズ(2004~)で注目を集め、人気ホラー映画シリーズ「インシディアス」(2010~)、「死霊館」(2013~)を展開しつつ、カーアクション映画『ワイルド・スピード SKY MISSION』(2015)やスーパーヒーロー映画『アクアマン』(2018)も手がける。
そんな多彩な映画を監督するジェームズ・ワン監督の特徴は、監督作のタイトルや画面からだけでは掴みにくいが、彼の行動に注目すると、この監督ならではの魅力が見えてくるような気がする。
実はジェームズ・ワンは、ハリウッドでも屈指のヒットメイカー。Box Office Mojoの歴代全米興行収益を見ると、彼が監督したシリーズ第7作『ワイルド・スピード SKY MISSION』は66位で、現時点では「ワイルド・スピード」シリーズ中最大のヒット作。
彼が監督した『アクアマン』は76位で、DCスーパーヒーロー映画では『ダークナイト』(2008)の17位、『ワンダーウーマン』(2017)の37位には及ばないが、77位の『スパイダーマン:ホームカミング』(2017)、79位の『ガーティアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014)よりもヒットしている。
では、ワン監督のホラー映画はというと、最もヒットした『死霊館』(2013)が477位。次にヒットした『死霊館 エンフィールド事件』(2016)は757位。最新監督作『マリグナント 狂暴な悪夢』(2021)はベスト1000には入らない圏外。
それでもワン監督は、今も『アクアマン』の続編を監督しつつ、ホラー映画のプロデュースや企画を続けている。こういう、興行収益とは関係なく好きな映画を撮るという姿勢が、ワン監督の魅力の一つだろう。
そして、「ワイルド・スピード」シリーズもスーパーヒーロー映画も、ホラー映画同様、“ジャンル映画”。このジャンル映画への愛も、ワン監督の魅力だ。
リー・ワネルとの出会いが監督への道の転機に
ワン監督のジャンル映画好き、ホラー映画好きは、幼少時から。彼は1977年、中国系の両親の元にマレーシアで生まれ、7~8歳でオーストラリアのパースに移住するが、幼い頃に祖父母が中国の怪談話をたくさん聞かせてくれたという。
そして、子供の頃にスティーヴン・スピルバーグ原案、トビー・フーパー監督の『ポルターガイスト』(1982)を観て、映画が大好きになった。
彼の映画監督への道の転機となったのは、メルボルンのロイヤル・メルボルン工科大学の1年生の時に、同い年のリー・ワネルと出会ったこと。2人は興味の対象が同じで、同じジャンル映画のファンで、大親友になる。
また、ワンは監督を目指し、ワネルは俳優と脚本家を目指していたので、一緒に組むことになった。
そしてワネルが『ソウ』(2004)の脚本を書き、2人で映画会社に売り込み、ワンが監督し、ワネルが出演するという条件を譲らずに映画化。映画は2004年のサンダンス映画祭で評判を呼び、世界中で公開されることになった。
こうして映画監督となったワンは、『ソウ』の続編以降のシリーズでは製作に回り、別の映画を監督する。
しかしアクション映画『狼の死刑宣告』(2007)はヒットせず、一方、ホラー映画『インシディアス』(2010)、『死霊館』(2013)は大ヒットして、2作ともシリーズになり、後者のスピンオフ『アナベル 死霊館の人形』(2014)も誕生する。
そんな頃にやってきたのが、もう一つの大きな転機、『ワイルド・スピード SKY MISSION』(2015)の監督へのオファー。これを引き受けた時の心境を、ワンはTheverge.comでこう語っている。
「大作映画を撮るチャンスだと思ったんだ。それまでの僕は、低予算のホラー映画の監督だと思われていたから」。
もともとジャンル映画好きなワン監督は、『ダイ・ハード』が好きで、ジェームズ・キャメロン監督が好きで、ジョン・ウー監督の香港アクション映画のファン。同作は、ワン監督のアクション映画愛を活かすチャンスでもあった。
この映画は、撮影半ばに、副主人公役のポール・ウォーカーが交通事故で死去するという大事件に見舞われるが、その困難を乗り越えて、映画は大ヒット。ワン監督に大作映画への道を拓く。
しかし、ワン監督はその方向には進まず、次に撮ったのは『死霊館 エンフィールド事件』(2016)。これまで通りの映画を撮りながら、時には『アクアマン』(2018)のような大作も撮る、という道を歩んでいる。おそらくこのやり方が今後も続いていくだろう。
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