重度障がい者施設で働く青年が大勢の入所者の命を奪ってしまう。映画『月』は実際に起きた障がい者施設殺傷事件に着想を得て、辺見庸が書いた同名小説の映画化である。作家として行き詰まり、施設で働くことにした主人公の洋子を宮沢りえ、洋子とともに大きな喪失感を抱える夫にオダギリジョー、凶行に及んでしまう青年を磯村勇斗が演じた。原作を大胆に再構築して脚本も書いた石井裕也監督に作品に対する思いを聞いた。(取材・文/ほりきみき)

リスクを理解した上でこの作品に挑戦した宮沢りえ

──堂島洋子を宮沢りえさんが演じています。

十年ほど前にお会いして以来、宮沢さんが「全く新しいものにトライしたい」という欲求を持っていらっしゃることは何となく感じていました。キャストであってもスタッフであっても、この作品においてはそういうチャレンジ精神が絶対的に必要です。しかし、知名度があり、ステータスを築き上げてきた人にとっては当然リスクがある。そのリスクを理解した上で、それでも全く新しいものに挑戦しようとする勇敢な人は誰か。つまり、宮沢さんしかいなかったのです。

画像1: リスクを理解した上でこの作品に挑戦した宮沢りえ

──初めて顔を合わせたときにどのような話をされましたか。

この役を引き受けた時点で、すでに腹は決まっている。その凄み、覚悟さえあれば、あとは何の問題もありません。ディテールのすり合わせだけでした。

今回のような障がい者施設は多分、見たことがなければ、入ったこともない方が多いので、僕たちが調べた資料や映像などを見ていただき、共有する時間を作りました。

──さとくんを演じた磯村勇斗さんも共有されたのでしょうか。

磯村くんとは一緒に施設の中に入って取材しました。もちろん宮沢さんも二階堂さんも、撮影前に施設に入って研修を受けました。みなさんそれぞれのアプローチで多くを学ぼうとしていました。

画像2: リスクを理解した上でこの作品に挑戦した宮沢りえ

──ところで、なぜ、さとくんを磯村さんにお願いしたのでしょうか。

河村さんの強い意志がありましたね。

この役を誰に託すかはあまりにも重要です。演出家としては、誰を選ぶかよりも、誰がやると言うのかに興味がありました。宮沢りえさんも同じですが、この役をやると言った人に全てを賭けようと考えていました。普通に考えたら、絶対に躊躇いますよね。その中で、やりますと言ってくれた磯村くんは、その時点ですでに受賞ものだと思います。俳優としての彼の姿勢、好奇心の強さに敬服します。

──昌平をオダギリジョーさんが演じています。オダギリさんは『茜色に焼かれる』『アジアの天使』に続き、石井監督の多くの作品でご一緒されていますが、気心の知れた人にも入ってほしいという思いがあったのでしょうか。

そういうことは特にありませんが、このような大変な役でオファーしても引き受けて、覚悟を持って演じてくれる。しかも、僕と同じくらい悩み、恐怖と戦う同志になってくれる。そういう安心感や信頼感がオダギリさんにはありますね。

画像3: リスクを理解した上でこの作品に挑戦した宮沢りえ

──現場で宮沢さん、オダギリさんが苦労されていたところはありましたか。

宮沢さんはこれまでに受けたインタビューの中で「ずっと難しかった」と言っていました。今回はプレッシャーもあったと思います。僕の意図や表現の仕方を丁寧に確認されていました。聞くところによれば、いつもはそうじゃないそうですから、今回はかなり神経質になっていたのだと思います。

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