重度障がい者施設で働く青年が大勢の入所者の命を奪ってしまう。映画『月』は実際に起きた障がい者施設殺傷事件に着想を得て、辺見庸が書いた同名小説の映画化である。作家として行き詰まり、施設で働くことにした主人公の洋子を宮沢りえ、洋子とともに大きな喪失感を抱える夫にオダギリジョー、凶行に及んでしまう青年を磯村勇斗が演じた。原作を大胆に再構築して脚本も書いた石井裕也監督に作品に対する思いを聞いた。(取材・文/ほりきみき)

他人事と考えている人たちの目をこっちに向けさせたい

──原作は相模原市の重度障がい者施設で起きた殺傷事件に着想を得て、辺見庸さんが書いた同名小説です。入所者の重度障がい者きーちゃんが内面や痛みを語る形を取っていますが、ひらがなを多用するという破格の形式で読む者を驚かせます。辺見庸さんのファンであることを公言されている監督も原作文庫本の解説に「これまでの文学体験のどれとも似つかない。まったく特殊の、異様なほどの熱気に満ちた傑作だった」と書かれていました。スターサンズの河村光庸さんからのオファーで監督をお引き受けになったとのことですが、河村さんはこの原作をどう映画化し、何を伝えたいとおっしゃっていましたか。

いろいろおっしゃっていましたが、いちばん印象に残っているのは、この映画を低予算のマニアックなものにはせず、できるだけ大きく構えて多くの人に見せ、問題提起をしたいということでした。それはとても意義のあるアプローチだと思いました。そういう難しい企画を具現化できる人は、日本ではほとんどいないと思います。

画像: 石井裕也監督

石井裕也監督

──監督は原作を再構築されていますが、そこにはどのような思いがあるのでしょうか。

モデルとなった事件のことは決して他人事には思えない。極端に言えば人類全体の問題のはずなのに、世間では目を背ける人があまりにも多い。しかし、それではダメだと思う。では、どうすれば他人事と考えている人たちの興味を引けるか、こっちに目を向けさせることができるかということを考えました。なるべく多くの人に届いてほしいという思いが強かったです。

──映画では原作には出てこない堂島洋子と昌平という夫婦の物語が並行して描かれていますが、2人を生み出すきっかけはどんなことだったのでしょうか。

目の前にある命を「人ではない」と否定して、排除しようとした犯人、この作品で言えばさとくんですが、彼のドラマとは別にもう一つ、ドラマを走らせたかったのです。そこには命の問題に直面して、葛藤している人たちというイメージがありました。この2つが結びつくというか、関係し合うというドラマを考えたときに、自分たちの子どものことで悩み続ける夫婦というキャラクターが生まれました。

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