政治スキャンダルの渦中にいる国会議員の孫が誘拐された。犯人からの要求は身代金ではなく、「おまえの罪を自白しろ」という脅迫だった。息子の議員秘書は国を揺るがす大事件に挑んでいく。中島健人が主演する映画『おまえの罪を自白しろ』は2019年に文藝春秋が出版した真保裕一氏の同名小説を原作とし、「Mother」(10/NTV)、「Woman」(14/NTV)の演出で知られる水田伸生監督がメガホンを取った。公開を機に、水田伸生監督、真保裕一氏に作品について語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

演出は85%が準備で、現場は2%、残りの13%がポスプロ

──犯人の設定が大きく変わっていますが、ミステリーとして成立していれば真保先生としてはOKということでしょうか。

真保:この話って犯人は誰でもいいんです。家族の話がメインですから、犯人はそれほど重要ではないのです。

水田:誘拐犯を描くというよりも、誘拐にあった被害者家族であったはずの政治家一家が実は社会的には加害者ではないかということを描きたい。それをより明確にするためには、被害者をしっかり描く必要がある。先生の話を構造は変えないで、被害者のパートをドラマとして描くことに決めました。犯人像は誰でもいいというのはミステリーの考え方で、ドラマを見せる映画では、そこが重要なんです。とはいえ、当然、創作になっていくわけですから、これについては真保先生に読んでいただいて、矛盾点や弱点をシャープに指摘していただきしました。

──ミステリーとして成立させつつ、人間ドラマを描いたわけですね。

水田:そもそも原作がそうですから。それを全うしないと帰りのタクシーが穏やかになりません(笑)。

真保:初号試写の雰囲気は作品によって違いますが、出演者やスタッフの方々が本当に和やかに話をしていました。よほど撮影現場が楽しかったのだろうなと思いましたが、それは何が良かったのでしょうか。

水田:僕がよかったんです(笑)。

──監督の演出は役者が演じやすいような環境や空気感を整えることだと先日の取材でうかがいました。

水田:演出は85%が準備で、現場は2%、残りの13%がポスプロです。ポスプロはちゃんとやらなきゃダメですが、現場で目一杯、仕事をしている演出家は準備が足りていないだけだと思っています。

俳優はものすごくセンシティブだから、「用意」といったときに現場が充実していなければ「この現場はダメだ」と察知して、いい芝居をしないんですよ。

脚本に「清治郎が手で顔を覆う」と書いてあったシーンがありました。さり気なくおしぼりを置いておいたら、堤さんはおしぼりを広げて、顔に掛けていました。それが準備です。

平泉さんはワンシーンのみの出演でしたが、話を聞きに来た刑事2人にスイカを勧めます。脚本には書いてありませんし、ご本人は刑事役を長くやってこられたので、刑事はそこで手を付けられないことをよくご存じなのに、あえて2人を困らせる。まぁそうするだろうとわかっていて、スイカを置いておくのも準備です(笑)。

1シーンだけの撮影でしたが、茨城までものすごい時間を掛けて電車で来て、現場をきっちり自分のものにして帰っていく。やっつけ仕事というものがあの人たちにはない。先輩たちの姿は勉強になりますね。

真保:それで、みんなすごく和やかだったんですね。まるで昔から知り合いのようでしたよ。体調を崩して撮影現場の見学に行けなかったのですが、行きたかったなと思いました。行っていれば、試写のときにもっとみなさんに溶け込めたんでしょうね。

<PROFILE>
監督: 水田伸生

1958 年 8 月 20 日生まれ、広島県出身。1981 年、日本テレビに入社。テレビドラマ「恋のバカンス」(97/NTV) 「サイコドクター」(02/NTV)など数多くの作品で演出を手掛ける。「Mother」(10/NTV)で第 65 回ザテレビジョンドラマアカデミー賞監督賞受賞、「Woman」(14/NTV)で芸術選奨文部科学大臣賞放送部門受賞。2006 年、『花田少年史 幽霊と秘密のトンネル』で映画監督デビュー。宮藤官九郎脚本、阿部サダヲ主演のコメディ『舞妓 Haaaan!!!』(07)が話題を呼び、『なくもんか』(09)や『謝罪の王様』(13)でもタッグを組む。近年の監督映画として、『あやしい彼女』(16)、『アイ・アム まきもと』(22)など、公開待機作に『ゆとりですがなにか インターナショナル』(23)がある。

原作:真保裕一

1961 年生まれ、東京都出身。1991 年、小説『連鎖』で第 37 回江戸川乱歩賞を受賞し作家デビュー。以後、『ホワイトアウト』(95)で第 17 回吉川英治文学新人賞を受賞し、TVドラマ放映、2000 年に映画化される。『奪取』(96)では、第 10 回山本周五郎賞・第 50 回日本推理作家協会賞(長編部門)を、『灰色の北壁』(05)で第 25 回新田次郎文学賞を受賞。近著に『百鬼大乱』(23)、『英雄』(22)、『真・慶安太平記』(21)、『こちら横浜市港湾局みなと振興課です』(18)など。

『おまえの罪を自白しろ』2023年10月20日(金)全国公開

<STORY>
政治家一族の宇田家の次男・宇田晄司(中島健人)は建築会社を設立するも倒産し、やむなく政治スキャンダルの渦中にいる国会議員の父・宇田清治郎(堤 真一)の秘書を務め、煮え切らない日々を送っていた。

そんなある日、一家の長女・麻由美(池田エライザ)の幼い娘が誘拐された。犯人からの要求は身代金ではなく、「明日午後 5 時までに記者会見を開き、おまえの罪を自白しろ」という清治郎への脅迫。それは決して明かすことが許されない国家を揺るがす”罪”だった。権力に固執し口を閉ざす清治郎。晄司はタイムリミットまでに罪に隠された真相を暴き、家族の命を救うことができるのか!?

<STAFF&CAST>
監督: 水田伸生
原作:真保裕一『おまえの罪を自白しろ』(文春文庫刊)
脚本: 久松真一
出演: 中島健人、堤真一、池田エライザ、山崎育三郎、中島歩、美波、尾野真千子、金田明夫、角野卓
配給:松竹
© 2023『おまえの罪を自白しろ』製作委員会
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/omaenotsumi/

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