政治スキャンダルの渦中にいる国会議員の孫が誘拐された。犯人からの要求は身代金ではなく、「おまえの罪を自白しろ」という脅迫だった。息子の議員秘書は国を揺るがす大事件に挑んでいく。中島健人が主演する映画『おまえの罪を自白しろ』は2019年に文藝春秋が出版した真保裕一氏の同名小説を原作とし、「Mother」(10/NTV)、「Woman」(14/NTV)の演出で知られる水田伸生監督がメガホンを取った。公開を機に、水田伸生監督、真保裕一氏に作品について語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

テンポよく展開させ、観客の緊張を途切れさせない

─まずは完成した作品をご覧になっていかがでしたか。

真保裕一氏(以下、真保):それはもう役者さんの演技がまぁ素晴らしい。小説は比喩を使って書くことがありますが、映画は役者さんの表情一発でわかる。役者さんがどこまで計算してやっていらっしゃるのかわかりませんが、すごいですよね。ほんのワンシーンしか出てこない人もその表情ひとつでいろんなことを考えさせてくれる。私の小説はこれまで何度も映像化されましたが、今回、それをいちばん感じました。テンポが早いので「その表情をもう少しじっくり見せてくれ」と思ったところはありましたけれどね(笑)。

初号試写を見終わってすぐに「役者が素晴らしい」と褒めたのに、監督がずっと渋い顔をされていたんですよ。タクシーの中で「その役者の演技を引き出したのは誰だよ。どうして俺のことをまず褒めないんだ」ってことだったんだと気がつきました(笑)。

水田伸生監督(以下、水田):いやいや、全然違う(笑)。そのときに僕の表情が少~し暗めだったのは、先生が「もう少し観客が考えたり、反芻したりする間がいくつかあってもいいんじゃないの」とおっしゃったことが気にかかっていたのです。

真保:私は昔、アニメをやっていましたが、アニメは子どもが追いつけないと困るから、一緒に考えましょうという間を作るんです。ですから、1時間40分という自分では驚くほど短い時間にひやひやしていたってこともあったのですが、要するに観客に身を委ねてもらおうという作りになっている。それを信じて、どんと構えて見ていればわかるように作られていました。

画像: (左から)原作者・真保裕一氏、水田伸生監督

(左から)原作者・真保裕一氏、水田伸生監督

──脚本作りはいかがでしたか。

真保:それも最初はひやひやものだったんですよ。シナリオが進んでいる中、1年くらい音沙汰がなくなり、「これはぽしゃったのかな」と思ったことがありました。こういう仕事をしているとよくあることなんです。それでもシナリオがあがってきたのですが、迷走しているのがわかりました。私は口うるさい原作者として有名なので、「ミステリーの骨格だけ保ってくれ」と注文をつけさせてもらいました。

その後、シナリオは上がったのですが、映画って現場で変わったりする。私の妻はかつて編集の仕事をしていたので、いろんなことを見聞きしていましたから、“ミステリー部分の成立が崩れていたらどうしようか”と2人で心配しながら初号試写を見せていただきました。しかし、それは杞憂に終わり、不安がすっかり払拭されて、帰りのタクシー中は和やかでした。

水田:僕は依頼を受けて途中から参加しましたが、先生がおっしゃる通り、プロデューサーと脚本家の脚本作りは少々迷走していました。先生の本はミステリー部分以外にも着眼点と読者の興味を引くポイントが複層的に絡み合っていて、プロデューサーたちの面白がっているポイントが人によって違ったのです。みなさんのお考えを聞きながら、「先生が大事にされているのはきっとここだろうからこれは残して、ここは削いで、ここをクライマックスに持っていくために、その前をこういう風にお膳立てして」という風に整理していったのです。複数の人間が関わっていて、それぞれの部署での責任があるお立場なので、みなさんの落としどころを探りつつ、最後まで先生に的確なアドバイスをいただき、微修正、微修正を繰り返していきました。

──整理していく上で意識されたことはありましたか。

水田:説明過多にならないことですね。映画が始まって、柚葉が救出されるまでは観客の緊張の糸が切れないようにしなくてはいけませんから、とにかくテンポよく展開させていきました。

真保:初期の脚本では後でわかることを最初に説明していることがたくさんありましたが、うまく処理されて、健人くんの後を追っていけばわかるという風になっていましたね。

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